第4話
初めてあったカフェで彼と待ち合わせをした。
初めてあった日の会話、デートで来た時の思い出、そんなものの詰まった空間であの頃とは違う私がいることに、違和感を感じる。
いつも通り、コーヒーを半分くらい飲んだところで彼が入ってきた。
「久しぶり、元気にしてた?」
彼は、変わらない優しい口調でそう聞いてきた。
責められたり、不快な声で言われた方がどれだけ救われたか、その優しさが私を傷つける。
「うん、まぁまぁ元気だったかな」
「なら良かった。急に電話してきたから何かあったのかと思って」
ほんとに彼はよく気づいてくれる。
そして、深入りはして来ず、話したくなれば話せばいいよ?とでも言いたげな顔をする。
「タバコ吸うようになったんだね」
「うん、ちょっとストレスが溜まりすぎちゃってね。」
「そうなんだ」
その心地のいい距離感がやっぱり私には合っていて、気持ち悪さが少し和らいだ。
彼はいつも通りアイスココアを頼み、バイトの女の子と会話を始めた。
私にはその姿に嫉妬する権利なんて、無いはずなのに嫉妬してしまい、少しだけ睨みつける。
すると彼はすぐにそれに気づいてくれて、じゃあ仕事頑張ってとバイトの子に告げ、私の方に顔を向けた。
「家来る?お昼一緒に食べようよ」
私は頷き、店を後にした。
久しぶりに来た彼の家は本が増えたりと少しだけ変わっていたがほとんど変わらず懐かしさが込み上げてきた。
彼はすぐにキッチンに入り、冷蔵庫を漁り始める。
「適当に座ってて、すぐできるから」
言われた通り私の定位置だった場所に座り、懐かしい音に耳を傾けて目を閉じた。
15分程で作ったパスタを手にリビングに来た。
決して美味くはないが、不味くもない家庭の味というのがぴったりな彼の料理は相変わらずで、ちょっと涙が出そうになった。
「ご馳走様でした。ベランダ借りていい?」
もう、食後のタバコは癖になってしまっていて、思わず聞いてしまう。
「いいよ?」
と言いつつ彼も何故か立って、ベランダに付いてくる。
「どうしたの?」
「俺にもタバコ1本頂戴?」
どういう風の吹き回しかそんなことを彼が言い出した。
タバコを2本取り出し、1本は彼に渡す。
自分のタバコに火をつけて、ライターを渡そうとしたら彼は無言でタバコを近ずけてきた。
口に加えたタバコの先を近ずけて、彼のタバコに日を移す。
いつものタバコな筈なのに何故か今日のはとても甘くて、ずっと吸っていたいななんて、思ってしまった。
「タバコ吸うって珍しいね、何かあったの」
「うん、今度俺、結婚するんだ。」
私は必死に興味のない振りをして、返事を返す。
彼にはもう私は必要無かったということをより鮮明に言葉として教えられ、涙が溢れそうになった。
でも、それを気づかれたくなくて必死に私は堪えて、無理やり作り笑いを浮かべた。
「おめでとう、幸せになってね」
SUGAR KISS senri、 @1000kyuri
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