第7主題 ミヨシくんと話す

 まっぷたつに割れた菓子を、泣きそうな顔で拾い上げるミヨシくん。


 蓮華草れんげそう絨毯じゅうたんすわっていた、ハート型のベビー・カステラを差し出してくれた、愛らしい男の子。


 不相変あいかわらず、天使のキューティクルをそなえている。同じ名を持つ親近感から、つい話し掛けてしまう。


「ミヨシくん。おにいさんに、のおせんべいを食べさせてくれないかい?」


 イワノ医師は、おかあさんを介抱している。おかあさんとう響きの、あまりに不似合いな少女のような女性を。


「おせんべい、割れちゃった」

「いいんだ。割って食べるものだから、割る手間が省けて良かった。おにいさんは、片方の手を動かせない。ミヨシくんが封を切ってくれたら、助かるんだ」


 ミルクの香り立つこどもが、みるくおせんべいの封を、ポシェットから出した小さいはさみで切る。僕の寝台にじ登り、ご丁寧に、やはりポシェットから出したウェットティッシュで指を拭いて、清浄に成った小さい指で、菓子を食べさせてくれる。


美味おいしい。ミヨシくん、ありがとう」


 ありがとう。そう云われることが余程、嬉しいのか。ミヨシくんは頬を水紅色ときいろに染めた。


 彼は地上に存在するキューピッドだった。


 また違う月曜日、はち切れそうなポシェットを提げたミヨシくんが、レントゲン室の前の長椅子にすわっていた。ポシェットにはウェットティッシュと小さい鋏と、今日は、どんな菓子が入っているのだろう。詰め込み過ぎて、白猫が頬を膨らませたようなシルエット。


「やぁ、ミヨシくん、キミも」


 白百合の病なの? 


 こんなに小さい男の子にいても分かるまいと思いつつ、たずねた。すると聡明な答えが返ってくる。


「白百合の病は、おかあさん」


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