第5主題 少女に出逢う

 白百合の病は遺伝する。後世に伝えては不可いけない。


 人生にける恋愛を、自分には縁のないものとして、あきらめざるをなかった。しかし、結婚につながらぬ恋愛ならば良いと、心の何処どこかで思っていただろうか。


 僕は少女のような人を愛した。

 のみならず余命幾許いくばくの少女だった。

 或る月曜日、点滴治療に赴いた際、処置室の寝台に眠っていた。


 衝撃的なの姿。白い肌に白い髪。眉や伏せたまつげまでもが白く、まとっている白いワンピースと肌が境目をぼかす。


 此処ここは白百合研究室。白百合の病に侵された者のみに開かれた世界。


 同じ病気の人に、初めて出逢った。


 イワノ医師が、少女の点滴のシリンジを調整している。僕と同じ薬液の色。僕等ぼくらは同室に眠る同病者だ。


「頭痛が始まったのです。今、横になると悪くなる」

 と嘘をいて、すわって点滴を受ける僕は、寝台に眠る花を見ている。真に、白百合の病とう響きが似合っていた。哀しくも似合い過ぎて、何故だか泣ける。


 眠る彼女も同じ。睡眠時になみだこぼすなんて、どんな心境で生きているのだろう。


「あっ、バス停の、おにいさん。ハートのカステラ、美味おいしかった?」


 こどもに話し掛けられ、針の刺さっていないほうの手でなみだを拭いた。あの日のこどもだ。やはり愛らしい。


「美味しかったよ。ありがとう。キミも……」

 白百合の病なのか。立ち入りを厳重に取り締まっている白百合研究室に、こどもがいるとは。の子も色白だが、れはミルクの匂いの白で、病ではなく、子の幼さを強く感じさせる白だった。


「今日は、みるくおせんべい、あげる」


 白猫の模様のポシェットから、白い菓子を出す。天使だ。ありふれた表現しかできないが、邪気の無い天使のような、こどもだった。


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