電影少女アルカディア

庭花爾 華々

最終世界:ターミナルワールド

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「遅かったわねえ」

 そう彼女は、揺らめくように笑った。

 嗚呼、確かに名の通りだ。形を持ちながら蒙昧な輪郭は、まるで意志を持った焔のよう……、いけない。

「今、炎みたいとか思ったあ?」

 残念、感じ違いだ。まあとにかく、僕はいつも通り、平静を装って? いや、平静を装う事を必要としないことが、僕のニヒルなキャラ設定だったのに、な。

「いいや、思ってないよ、しっかり思ったさ。電影の様だ、って」

「嘘おっしゃい、私は貴方の全部を知ってる」

 いや……、どうなんだろう。

 正直、今面と向かい合ったときに、改めて感じる圧力。いやいや電影少女何てとっても中二病チックで、

「何よ?」

 とてもじゃないけれど、頭おかしいんじゃないの?

「悪かったわね」

 とはとても思えないくらいには、感じる存在感。

「馬鹿にしてるのよね、それ」

「いや」

 陽の闌けるように、一本一本が生きているかのように、まるで炎の様に。いや、電影の様に。彼女の赤髪が、宙を揺れているのだった。

 華奢な体が、その赤と顔の耽美さを際立たせている。胸……、いやそれも含めて、彼女。電影少女アルカディアの良さなのだから。

「流石に、怒るわよ?」

 電影少女の赤髪が、ピッチッ。そう爆ぜるような音を立てた。

「あんたが彼女ら、宿敵、怨敵。というか、ほとんど赤の他人」

 赤髪だけにね、そう彼女は笑った。

 いや、それって自分で言う洒落じゃなくて、人に言われるもんじゃないのか? とは、思っても言わない。

「第2の女神リリンを見る目が厭らしかったのを、見逃す私じゃあないわ」

 思い当たる節が、あった。弁明の仕様も、ない。どころか僕は、あんなことを、そんなことは無いんだけれど。しちまっていて、彼女はそれを、知っているのだ。

「えええ、知ってるわよ」

 彼女の不敵な笑みが、敵がいなくなったという意味では無敵の笑みが、いっそう歪んで見えた。それが、可愛らしかった。

「で、どっちなのよ?」

「とぼけないでよ、どっちってどっちでしょ」

???

「え、本当に分かっていないの? それとも、私が貴方の心を詠みづらくなって」

 第1の女神ヴィーラの称号、名だけで、詠み辛くなるのだろうか?

「いや、そんなわけないわ。だって絶対的に相対的な強弱バランスに於いて、私が貴方の絶対的勝者なのだから。むしろ、感度が高くなってもいいくらい」

 聞きたくない情報だった。

 そもそも此処まで来てなんだが、彼女の云う力の三角形が理解し切れていない。それをジャンケンのような関係性、と彼女は言うんだけれど。

「どっちって、何だよ?」

 このままでは埒が明かない。あんまり伸ばしてしまうのは興ざめだし、こちらに於いて不利になるのだ。

「だから、不利もへったくれもないわ。貴方の負けは、絶対的に相対的なのよ」

 そう、無敵の笑みを浮かべる。

 そう言えば、今日はよく笑ってくれるなあ。まあ、最終回だからなあ。

 彼女は急に、赤面した。ん? 

「そう、貴方は此処に来る直前、彼女を殺してきたわ。確かに、確実に、入念なまでに。そうよ、全ては私の為に、ね」

 頬が紅潮する。

「貴方はっ、アイツとキスしたでしょ!!」

 ああ。

「私の為に此処まで生きて、まして2人を殺してまで。全ては私のためだったのに、最後の最後にどうしてっ?」

 いつから彼氏彼女の関係になったんですか? とは、思っても言わない。むしろ滅茶苦茶かわいくって、愛らしいだなんて、死んでも言えない。

 ああ、死にに来たんだっけ。

「それが、どうした、と?」

 今の彼女は、笑っていない。ああ、先ほどから笑顔が多かったのは、このためだったのか。牙をむくように睨んでくる彼女は、もはや電影少女アルカディア。何かじゃないくて、ただの嫉妬する女子高生だった。

「どうしたも、こうしたも。他の女とキスして、素知らぬ顔で私の前でべらべらと」

 心を詠んでくる貴方が悪いのでは。

「殺しちゃいたいほど、憎い!」

 今からアンタ、僕を殺すんだよね? というかそれって、愛情の裏返し的なノリで使う言葉じゃないの、なんなの?

「どっちっていうのは。あんたは彼女にキスするとき、フツーのか。フレンッ」

「フレンチです」

「殺すっ!」

「殺されに来たんですよ?」

 声に、出てしまった。それくらいに、違和感があった。

 この殺し合い何て起きそうにない雰囲気に対する危機感であった。

「僕は今から君に殺される、そうなんだろう? その為に僕は、第一の女神ヴィーラから名を奪い、第二の女神リリンをその優位で殺したんだ」

 そう、これが物語の云わば全てである。彼女の為の。

 第三の女神アルカディア

 この世界の真の支配者で在り、破壊神。

「もう、いいの?」

 どうして、疑問詞何だろうか?

「僕はいつだって、用意はできていたんだぜ」

 そう言って、僕は拳を突き出して見せる。右腕を伸ばして、物理的に上から目線な瓦礫の上の少女に、まじまじと見せつける。

 歴戦の勝者というには、奇麗すぎた右拳だった。まして2柱の神を堕としたにしては、罪なぐらいに無傷だったのかもしれない。

「その拳じゃ、私は殺せないわ」

 そう冷静な声で、平静じゃないことを口にした。

 拳どころか、触れられざる。その第三の女神は第一の女神に絶対に強い、とは、そいういうことなのだ。ただ、戦わない、だけは無かった。

 彼女が、僕の前に降りてくる。

 まるで死神みたいな登場で、天使みたいな可愛さだ。

「あと……」

 彼女がかぼそく、僕に言う。耳に囁くように、目の前だった。

「あと、言い足りないことはない?」

 嗚呼、君は何て優しいんだろうな。

 その優しさは、これからも君を傷つける。きっと、不死身の君を殺しちまうくらいに。

「ええっと」

 とは言いながら、僕は内心決まっていた。

「出来るだけ、存命出来る形が良いんだ」

 と、自分でも可笑しいなあと思いながら、

「肺に穴をあけてくれ」

 中でもむごいと言われる死に方を、僕はチョイスした。それを彼女は、承知したわ、とだけ言う。いや、少しだけ、

 ふふふ、と、笑ってくれたかな。

「コマンド:下右下右足すことの拳」

 無感情に読み上げられた怪文書は、その字面から想像の出来ない結果を生んだ。

 僕の左胸辺りか、指一本分の穴が開いていた。

 ああ。

「痛い、とも感じないでしょう」

 その通りだった。

 これが例えば首切りだったら、ギロチンよりも気持ち良く死ねたのかもしれない。けれど、肺に穴をあけた僕は、5秒後だったか。

「いってえええええええええええええええええええええええ」

 そう、恥ずかしくも叫んでしまった。

 彼女は、ふふふ、と笑って。

「貴方のことが大好きよ」

 アンビバレンスになりそうで、その実献身的な愛の形だった。それを僕は、今までに味わったことのない苦痛とともに、聞いていた。

 可笑しい話、だった。

 2柱の神を、殺した。

 それは神殺しで、殺神犯で、彼女らもその手前女子高生だったと考えるのなら、ただの殺人犯なのだ、僕は。なのに。今更、痛いんだなんて。

 まして、貴方のことが大好きだなんて。

「身に余る、お言葉ですね」

 もう、数少ない口数を消費した。

 温かい手が、頭を包み込んで。そのまま、柔らくて温かい、枕の上に乗せられたことが、痛みの合間、つたわる。

 下から見ると、意外に、

「あった、んだな」

「余計なお世話、よ」

 そう、これが遺言なってしまうかもしれないのだった。

「ねえ」

「うん?」

 死ぬ前に、聞きたいことがあるんだ。

「なあに」

 君が冒頭に云ったセリフ。君が言った、僕が君に殺されなければならないほどの罪って、何だったんだい。

 まあもう、死んで、しまうんだけれど。

「それは、ね」

 そもそも彼女は、この世界の破壊神たる存在で、即ち世界をいつでも破壊できるってことで、その上に生きている小さき私たちは、気分次第で死んでしまうのだ。

 そんな彼女に、僕が犯せる罪何て……、あるはず

「貴方は、私が世界を破壊することを邪魔したのよ」

 ? 

「惚れさせたじゃない、私を」

 ううん?

「本当は、もうとっくに消し炭になっているはずの世界。でもそれって、君が死んでしまうってことでしょう」

 ……。

「だから、僕が、君と会って。他の女神から、世界守って。君に、殺されるって」

 正直、無駄だったような。回り道、しただけな、様な。

「だから、戦いたくなかったのに、ね」

 ああ、あ。

 何だか、自分が何をしてきたのか、分かんなくなってきてしまった。

「もう、いいや」

 温かく、美しい彼女に看取ってもらえて。しかも、泣かせそうだなんて。僕の身には余るくらいの、最高の終わりだった。

 いや。

「もう、終わりで良いの?」

 僕の頬を手で撫でながら、彼女が言う。そう、だった。

「さい、ごに」

 そう、こう物語を占めても良い。少年は死に、少女は残り、また永遠と世界を抱え続けるという、悲劇でもいいけれど。

 聞かなければ。

「ねえ」

「?」

 生まれて初めて、嫉妬してみても、いいかな? 僕以外の男に惚れちゃうかも、今度はうまいっちゃうかもって。

「それが、あなたの愛ならば」

じゃあ、キスしよう。

「え?」

 もちろん、フツーじゃないさ、フレンチでね。最後をこう動きある画にしたって、良いんじゃないだろうか。

「……、良いわ。じゃあ、中途半端はなしよ」

 そう、言ったか言わぬかの内に、僕は息が出来なくなった。両の意味で、肺に血が溜まり切ったのと、彼女の舌が僕の口をいっぱいにした、ことの量で。

「血の味がする」

 そう、彼女が言ったように聞こえたけれど。

 ただ、口はお互い、取られたままだ。

 思い出したんだけれど、僕はこういう性的嗜好の持ち合わせは、ない。むしろ、相手が求めるのなら、ぐらいの、ニヒルでドライなキャラ設定だった。

 僕がもし、何か言い残すんなら。

「死の味は、どうだい?」

 僕は、甘かったよ。

 そう思ったのが、最後で。

 彼女の体重を感じ、胸の感触が意外にあると驚き、心臓が止まったことに戦慄き、冷たくなっていく彼女に体温を奪われていくように。

 僕も、冷たくなっていったんだと思う。

 


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