最終話~今日の告白~

 5・6時間目が終わりそのまま終業になると僕は、担任の武田先生と話すため教室の前に出た。そして用を済ませると急いで駐輪場へ向かった。夏目さんは普段自転車通学をしているため、駐輪場で待ってれば必ず会えると思った。

 駐輪場は広く、夏目さんがどの自転車を乗っているのか分からなかったが、駐輪場は学年ごとに自転車を置く場所がなんとなく決まっていたので、3年用とされている駐輪場で僕は張り込んでいた。

 5分ほど待っていると夏目さんが駐輪場へ来る姿が見えた。しかし、夏目さんは友達の鈴原さんと駐輪場へ来ていた。いつも一緒にいるので意外ではなかったが少し困りながらその場で考えていた。

「有原じゃん、なにしてんの」

 僕に最初に気付き声をかけたのは鈴原のほうであった。

 そして鈴原がそういうと、夏目さんも僕のほうを見た。

 夏目さんと目が合い、僕は彼女に伝えたいことがあるのに、伝えられる自信が段々となくなりそうだった。しかし、僕がこの場から逃げて帰ったら、今日が終わってしまいそうな気がして必死で踏ん張った。

「今日のことで夏目さんに伝えたいことがあって」

 僕がそういうと、夏目さんは首をかしげた。

「え、なになに有原、私いないほうがいい?そういう話?」

 鈴原さんは照れていて、なにやら思い違いをしているようだ。

「鈴原、たぶん勘違いしてるからな、そういう話じゃない」

「なんだ、私たちこれから駅の図書館に行くの、早く終わらせてね」

 鈴原さんは、ため息を漏らすと夏目さんに「先行くね」と伝え、僕の横を通り過ぎて、校門のほうへ歩いて行った。

「なに?それで伝えたいことって」

 僕が彼女に伝えたいことはいろいろある。今日のことだけじゃない、鈴原の言う「そういう話」をここで伝えるのもこの2人きりの機会では悪くないと思ったが、それは今日じゃない。

 すでに彼女がこの後予定あることを今鈴原さんから聞いてしまったが、もう言うしかない。

「松原さんの日誌、まだ持ってると聞いたから。松原さんが心配なんだよね?僕と一緒にお見舞いに行かない?」

 そう、振り絞って出た言葉は普段の声で言えたのかどうか不安であった。また、彼女にはどう伝わっているのだろうと思っていた。しかし、彼女のほうを見ると「ふふっ」と手で口元を覆って笑っていた。

「会長さんが言ってたのは有原君の事だったのね。あの時日誌を読んでいるのを見られてたのかな。松原さんの事心配だよね、どうして私が心配していると思ったの?」

「いろいろあって、話してもいいかな」

「いいよ、聞かせて?」

 僕は彼女が松原さんを心配しているのではと思ったことは、僕の一日を伝えるのが一番であった。

「それは今日の朝、夏目さんが交換日記を男性としている噂を聞いて気になった事から始まったんだ。あの、1時間目の休み時間に夏目さんがノートを読んでいて、それが交換日記だと僕は勘違いをしてしまって「松原修」とは誰なのかをずっと考えてたり調べたりもした」

「そんなことしてたんだ――」

 彼女を見ると彼女は呆れた顔をしていた。当然であろう、交換日記を噂されている張本人にその話をしているのだ。

「ほんとに馬鹿だよな、そしてようやく僕はそれが勘違いだと気づいて、松原さんに起きた昨日の事故を知ったんだ」

「なるほどね、会長さんが私のところに来たのも、有原君が勘違いをしているから、日誌を返したいと思っていた私に松原さんの状況を聞かせてくれたのね。日誌を持っているの何故知ってるのと聞いても教えてくれなかったのは一応会長さんなりのフォローかな」

「その通りだと思います」

 夏目さんは察しのいい人で、彼女の推理に感心してしまった。

「私としては、視聴覚室前で日誌を呼んでいるとき有原君にその姿を見られて恥ずかしかったけど……人の日誌を勝手に拾って読んでいたことになるし」

 彼女の照れながら笑う姿にすっかり僕は緊張が解れた。

 そして、夏目さんの噂話のせいで勘違いをしていた僕だが、その勘違いに気づけたのもまた彼女のおかげである。

「僕が松原さんが用務員さんで、松原さんの日誌を夏目さんが読んでいたと、たどり着くまで遠回りした。でも、その遠回りでいいこともあったよ。昼休みにロータリーで考え事をしながら、花壇を見てたんだ――」

「あの花壇きれいだよね」

 彼女は笑顔でそう答えてくれた。

「うん。夏目さんが今日の朝、花壇について話していたのを思い出して僕も行ってみた。学校の花壇を初めてじっくりみたけど、とてもきれいだった。そうしてリラックスしていると、あれは交換日記ではなくて誰かの落とし物ではないかと考えられたんだ。そして運よくに昼休みに聞いた話で推理ができた」

「それがいいことなの?」

 夏目さんはそう思っていたようだが、推理できた喜びでも、花には悪いがそれを見て感動したことでもない。

 そして、僕が彼女に一番伝えたかったことを言った。

「いいことは夏目さんが熱心にその日誌を読んでいる理由が分かったかもしれない時なんだ。きっと、夏目さんは毎日影ながら学校を支えてくれている用務員さんの日誌を読んで心が動かされたのだと。そして、夏目さんは直接日誌を返したいと思った。僕はそんな夏目さんを素敵だと思ったんだよ――」

 僕が心の底から出る精一杯の気持ちを伝えると彼女は、僕のほうへ近づき手を少し伸ばせば触れられる距離まで来て、返答した。

「うん……そう。分かってくれて嬉しい。部活している生徒がけがをしないように校庭の雑草を取る話とか、花が咲いた時の風景を考えて種をまく話とか。いままで私も花壇がきれいだとしか思わなかったけど、それを読んで感動しちゃった。よくわかったね有原クン」

 僕より少し背が低い彼女が僕の顔を見て笑いながら言うその姿を愛おしく思った。

 今日僕は勘違いをした。でも、彼女の気持ちに気づけて、僕の気持ちを言ったことで、こんなに近くから彼女の顔を拝むことができたのだ。御の字にもほどがある。

「それで、帰るとき担任の武田先生から聞いたんだけど。松原さん昨日病院で運ばれたのは、ぎっくり腰が原因らしい。今日腰の治療をして今は家で安静にしていることは聞いたけど。お見舞いに行きたいって言ったら『家は教えられない、お前関わりあったか?』と言われた。最初にあんなこと言ったけどどうやら僕の力では連れて行ってあげられない」

それを聞いた彼女はしゅんとして、落ち込んでいる様であった。

「そうなんだ、救急者に運ばれたことを荒川君から聞いた時はびっくりしたけど大事なさそうでよかった……お見舞いに行けないのは残念だけど誘ってくれたことは嬉しかったよ」

でも、僕は連れて行ってあげたい、なにより彼女とお見舞いに行きたいのだ。先生から1度断られらくらいで諦めたくないと思った既に僕は別の策を練っていた。

「でも、松原さんを心配しているのは俺たちのほかにもいるんだ。そいつは松原さんと接点があるし、なにより実行できる力がある。今から俺はそいつに一緒に行ってくれないかと頼もうかと思っている」

 僕がそう言うと彼女はその人物が分かったようであり、彼女は笑いながらそのまま鞄からスマホを取り出した。

「いま、図書館に向かってる舞に連絡するね。舞も一緒に行っていいよね、私も生徒会室に乗り込むのなんだか楽しみ」

 彼女がそう言うと、さっそくスマホのチャットで連絡していた。そして、指で画面を打ち終えると、僕を見た。

 僕は彼女に何か話しかけられそうだと待っていると。

「そうだ。有原クン。私から一つ訂正なのかな?まだ、勘違いしていることがあるよ」

「え?」

 夏目さんは笑顔であったが、少し悪い顔をしていて、彼女に時を止めれられている気がして動けなかった。


「私が男性と交換日記している噂はね、事実だよ」

 

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秘密の交換日記 七味こう @kousichimi

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