第19話

俺は外の様子を見に行こうと一号室を出た所でドアが閉まった。振り返った瞬間に鍵がガチャリと掛かった。

「お義兄さん、どういうつもりだよ。」とドアを叩いて訴えた。

「これは俺が勝手にやったことだ。君は俺に唆されただけだ。いいね。汚れるのは俺だけで充分だから。愛子を頼んだよ。」

「何言ってるんだよ、お義兄さん!ドアを開けてくれ、そいつをどうするつもりなんだよ!」ドアを叩いたが返答はなかった。ドアを叩き続けていると警察官が入ってきた。

「間宮海斗さんですね?佐倉奏一朗さんと中川恵さんはどこですか?」

私服警官の後ろに姉貴と志穂の姿が見えた。俺は黙ったまま立ち尽くしていた。その様子を見た警察官がドアの閉まっている一号室を指さして

「中に居るんですね?」とドアの前に立った。もう逃げられないと思った。

それと同時にお義兄さんが何をしているのか不安でもあったので頷いた。数人の警察官が道具を使いながら鍵をこじ開けた。ドアが開いた瞬間、警察官の間を割ってお義兄さんを探した。室内は静まりかえっていた。お義兄さんが棺桶を見つめたまま立っていた。警察官がお義兄さんを取り囲み

「佐倉奏一朗さんですね?中川恵さんはどこですか?」

お義兄さんは棺桶を指さして

「この中にいます。気絶してますが生きてます。」警察官が棺桶の蓋を開けている時にお義兄さんの傍に姉貴が寄り添った。

「貴方、大丈夫?」

「…愛子。仇を取ろうとしたんだが琳の声が聞こえたんだ。パパ、止めてって。俺には出来ない…出来なかった…ごめん琳…ごめん愛子…」そう言いながらお義兄さんの目から涙が溢れていた。

「いいの…そんなに自分を責めないで…琳は貴方に似て優しい子だったから。貴方を悪者にしたくなかったのよ…きっと琳も復讐なんて望んでないと思うわ。」

姉貴がお義兄さんを優しく抱きしめた途端、嗚咽を上げながら泣いていた。

志穂が俺の腕を掴み「…これで良かったんだよね。」と。

「あぁ、琳が俺達を止めてくれたのかも。」

「そうだね。」

「憎しみを憎しみで返しても、また憎しみが生まれてくるかもしれないな。」

「悪の連鎖を切ってくれたのは琳ちゃんだね。」俺は志穂の肩を抱きながら

「あぁ。」と答えた。



外に出ると辺りが薄っすらと明るくなっていた。白く今にも消えそうな月が俺達を優しく見ていた。俺はその月が琳の顔に見えたように思った。きっと琳はお義兄さんと姉貴がこれから幸せになることを一番望んでいるんだろうなと思いながら

「終わったよ。俺達を見守ってくれてありがとう。」と琳に伝えた。

          

          完結

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火葬 tonko @tonko1970

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