第13話 ダンジョンと百合は世界の神秘

「はぁ、まじかよ……」


 俺の手に持つカードにはっきりと記載された、『ホワイトリリィ』の文字。

 それは何度魔力を通しても消えることなく、映り続けていた。

 俺たちは国を跨いだだけで話題になる存在であるSランク冒険者。

 そのSランク冒険者が簡単にパーティを抜けられるはずがなかったのだ。

 

「いや完全に忘れてたし」

 

 Sランク冒険者になった時に説明された特権やら何やらなんてほとんど覚えていない。

 いや、どんなダンジョンにでも侵入可能とか宿など冒険者ギルドが運営している施設ならほとんどが無料で利用できるとか、その代わりに拠点にしている国に危険が迫った時は駆けつけて対処するなど覚えていなければいけないことはさすがに覚えている。

 しかし、しかしだ。

 俺たちがSランク冒険者に昇格したのは約一年前。

 そして俺がパーティを抜けることを考えはじめたのが約半年前。

 

「あの頃は抜ける気なんて一切なかったしなぁ」

 

 例えば俺が雑用を全て任されていたとかならまだしも、不満など微塵も抱いていなかった。

 むしろ、俺がする仕事の方が少ないくらいで、前衛だからと夜営の時間が一番少なかったり配慮も行き届いていた。

 勿論俺も少ない代わりにと寝て起きて寝るという、疲れが取れにくい二番目を担当したりしていたけれど、それでも一番負担が少なかったのは事実。

 

「今でも不満は無いんだけどね!? 人目がつくところでいちゃいちゃと手を繋いだりしなければ俺も文句は無いんだけどね!」

「これでも我慢してるのよ?」

「それで!?」

 

 今の二人はしっかりと指と指を絡めた恋人繋ぎ。

 酷い時にはハグからのキスの流れを所かまわずかましていく。

 一体どこに我慢しているという要素があるというのか……。

 

「ノエルさん、相手がフランさんにファイアボールを打ったらフランさんはどうやって対処しますか?」

「え? そりゃフランは賢者なんだから障壁を張るか同じくファイアボールを撃って相殺するかじゃないの?」

 

 ファイアボールはフランが得意な火魔法なのだから、尚更相殺を選ぶだろう。

 

「そういうことですよ」

「……」

 

 そう言って話は終わったとばかりに前を向く。

 

「……え!? 今ので会話終わり!?」

「伝わりませんでしたか?」

「いや何が!?」

 

 こてん、と首を傾げるが、残念ながらこれっぽっちも一切伝わっていない。

 むしろどうして今ので伝わると思ったのか……。

 

「えっとですね、私達は手を繋ぐ、ハグをするなどの行為で溢れて爆発しそうになった感情を二人で相殺しているんです」

「……はい?」


 どういうこと?

 

「ほら、ノエルもダンジョンで魔王を倒したら一緒にハイタッチとかするでしょ?」

「する……ね」

「そんな感じだよ」

「そ、そうなのか?」

 

 つまり思わずハグをしたくなった時に長時間手を繋ぐことで解決している、みたいな感じなの?

 じゃあキスしたくなった時はハグをしていると?

 それならキスしている時は一体――

 

「二日酔いも酷いし、私達は先に宿に戻ってるね」

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