第8話 リューマンでソロ冒険者始めました

「何でって言われても転移魔法を使ったから?」

 

 そう答えるフラン。

 確かにフランの転移魔法なら俺より早くリューマンに辿り着くことも可能だろう。

 というか、フランが転移魔法を使えるようになるという願いを女神様に叶えて貰ってからは、基本的に移動にはフランの転移魔法に頼っていたわけだから、転移魔法がどれほど便利なのかは身をもって知っている。

 だけど今聞きたいのはそういうことではない。

 

「……来た手段じゃなくて来た理由を教えてもらえる?」

「なんでって、拠点を変えるため?」

「まぁそうですね。四年間も同じ場所にいたので、折角ですからこの機会に新しいところに変えてみようかと二人で話し合いまして」

 

 なるほど。

 確かに俺たちはウォルフから拠点を動かしたことが無かった。

 良い待遇を用意するから来ないかと誘われたことも多々あったけれどウォルフで活動し続けていた。

 まぁ動かさなかった理由は特にないが、強いて言うならばウォルフの街の居心地というか雰囲気が好きだったからだろう。

 俺がパーティを抜けたことで心機一転、拠点を新しい場所に移してみようと考えたわけか。

 それなら納得する――わけないよね!?

 

「いや百歩譲って拠点移すのは分かるよ!? だけど何でリューマンなの!? 他にもいっぱいあるじゃん! 都市は! もっと! いっぱい!」

 

 むしろ数ある都市からリューマンを選ぶ意味無くない?

 最終的にリューマンに決めたけれど俺だって最後の最後まで迷っていた都市もあった。

 

「今の私達ってノエルが一時離脱中だから前衛がいないじゃない? 高難易度ダンジョンに行くのに後衛二人組はさすがに無理があると思うんだよ」

「うぐっ……」

 

 突き刺さる言葉の刃。

 それは、俺が悪かった。

 元々サポート系の職業であったリーシアはサポート方面を極めるために攻撃魔法を手に入れていない。

 その結果、聖女というサポート浄化に特化した職業に進化してしまったからもう攻撃魔法を覚えることは不可能だ。

 フランは攻撃魔法を使えるが、魔力だって限りがあるし魔法を発動させるためには集中力がいる。

 前衛がいなければ、モンスターの数も強さも高い高難易度ダンジョンに行くのは無理だ。

 だからこそ俺が常に動いてヘイトを買い続けていたんだし。

 

「それに、ここならダンジョンの生成量が多い代わりにレベルが低いから、二人でも戦えると思って決めました」

「確かにそれは一理ある」

 

 リューマンはダンジョン都市と呼ばれるくらいダンジョンの生成量も多い。

 前衛を募集すればある程度高難易度ダンジョンでも行けると思うし、最悪レベルⅣくらいのダンジョンならフランとリーシアの二人でも攻略できるはずだ。

 ……うん?

 

「ってそれ俺が言ったことそのままじゃねーか!」

「あ、バレちゃいました?」

 

 てへペロっとリーシアが誤魔化す。

 可愛い。じゃなくて。


「いやバレるわ! 俺が次の拠点を選ぶのにどれだけ――」

「まぁまぁまぁ! ノエルさんもそれくらいにして! そうじゃないとお姉さんのようにしっかりした雰囲気の私が叱っちゃいますよ?」

「シリルは一番関係ないでしょ!」

「ええ酷い!」

 

 酷いじゃない酷いじゃ。

 というかお姉さんのようにしっかりした雰囲気って枕詞絶対いらないから。

 

「ほら、勝手に脱退宣言したのは誰?」

「うぐっ、俺……」

「私達が突然前衛を失った原因は?」

「俺……」

 

 俺が悪い。

 いやむしろこの件に関しては俺しか悪くない。

 

「突然ダンジョンに潜れなくなり一文無しになってしまった私たちが仕事を手に入れるために、知っている情報を頼りにリューマンに来たことは不自然?」

「うっ、自然です……」

 

 冒険者がダンジョンに潜れないということは仕事がないのと同義。

 俺だって突然稼ぐ方法が消えたら焦って知っている情報を頼るだろう。

 つまりフランとリーシアがリューマンに来たのは俺が突然抜けたせいであって二人は悪くない。

 

「納得してくれた?」

「うん」

「……ちょろすぎて心配なんだけど」

「うん? 今フランが何か――」

「さあ皆さん! 拠点を移動したお祝いにパーッと打ち上げにでも行きましょう! シリルさんも行きましょう! ほらほらノエルさんも一緒に!」

 

 リーシアが珍しく大きな声で提案をする。

 

「え、でも今フランが何か言わな――」

「はいはいはい! 祝う時は祝わないとだめですよ!」

「お言葉に甘えて私もご一緒させていただきます。とはいえ、終わり次第合流という形になりますが」

「え、あ、ちょっ!」


 そのまま流されるかのように酒場へと連れて行かれる。

 くそ、俺が小さいせいで抵抗が意味を為さなかった。

 まるでテイム予定のエイプを運ぶかのように運ばれた。

 まぁでも、フランが気にしていないという事は多分重要なことではないのだろう。

 

「貯金ならいっぱいあるし今日は特別に私が驕ってあげる」

「良いんですか!」

「私は少ないですが浮いた分のお金は教会に寄付しますね」

 

 リーシアは教会の出身だから報酬などを頻繁に寄付している。

 俺は、いつもならありがたく奢ってもらうけれど今回は遠慮しておこう。

 

「ありがたいけどもうパーティ抜けて散々迷惑かけたんだし奢られるのは遠慮する――って貯金いっぱいあるならすぐにリューマンを選ぶ必要なくない!? もっと候補考えられたと思うんだけ――あ、ちょっと!」

 

 すたすたとフランとリーシアは先に行ってしまった。

 悲しいことに俺の方が歩幅は小さい。身長も若干小さい。

 そのせいであっという間に酒場へ着き、フランがパパっと注文を済ませてしまう。

 ……まぁいいか。

 多分貯金にまで頭が回らなかったのだろう。

 人間焦ったら見落とすこともあるさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る