第9話ふっ、神速の剣聖とは俺の事よ。え? 女じゃねぇし!

「あ゛あ゛ぁ゛ーー頭いてぇ」


 太陽は既にてっぺんで爛々と輝いており、大通りは活気にあふれていた。

 その中で、フラフラとゾンビのような足取りでギルドへ向かう俺。

 俺を蝕む苦しさの原因を簡単に言うならばそう――二日酔い。

 

「さすがに飲みすぎた……」

 

 そもそも俺がリューマンに着いたのが昼過ぎ。

 そこからすぐに酒場に連れて行かれて夜通し飲み続けるという暴挙に出たのだ。

 いや、正確には夜通し飲み続けていたであろうという予想でしかない。何故なら、覚えていないから。

 

「うん。記憶は無いんだよなぁ。というか体感だと日付跨いでないんだけどなぁ」

 

 だけど太陽は最後の記憶より西にある。

 太陽が東に進むことはあっても西に戻ることはない。あったら天体魔法学者が大騒ぎだけど。

 

「酒ってどうやったら強くなるんだ……? というかあいつらバケモノすぎるでしょ……」

 

 俺は異常なほど酒に弱い。

 下戸とまではいかないけれど、数杯飲んだら完全に酔いが回ってそれ以降の記憶は残らない。

 いつも遠慮しつつも数杯飲んで終わるのに、どうしてか昨日は異常なほど飲まされた。

 主に、ドロドロに酔ったシリルに。

 果実水もいつの間にか果実酒に取り換えられていたし、そういうゲームでもしているのかってくらい減らない酒のせいで、夕方以降記憶が一切残っていない。

 わかることは俺が早々から酔いつぶれたということとあいつらが朝まで飲んでいたという事のみ。

 

「うへぇ。服も酒臭いし一回銭湯に寄って行こう」

 

 この格好でギルドに行ったら十中八九しかめっ面で迎え入れられるだろう。

 僅かに残った酔いを覚ますためにも銭湯へ行くことにした。

 

「にしても、銭湯までデカいとは……。まぁこれ位無いと回らないか」

 

 銭湯は誰でも入ることはできるが、冒険者ならギルドカードを見せるだけで無料になる。

 というのも、銭湯自体冒険者ギルドが冒険者のために運営しているもので、簡単に言えば汚いまま帰ってくるなってこと。

 冒険者は泥だらけでむさ苦しいイメージが強いけれど、実際のところは銭湯があるお陰で清潔な人が多い。

 時々泥だらけで酷い匂いの人もいるけれど、そのままだとモテないとか言ってやれば大抵次から小綺麗になってやってくる。

 そんなことを考えていると受付の順番がやってきた。

 

「へいらっしゃい! 冒険者かい?」

「うん。はい、これカードね」

「よし確認――ってお前さんSランクかい? 見えないねぇ……」

「あははは。よく言われます」

 

 恰幅の良い受付のおばさんにじろじろと見られるが、苦笑いを浮かべることしかできない。

 ヴァーグでは俺の姿が広く知られていたけれど、かなり離れたリューマンでは知っている人も少ないのだろう。


「まさか神速の剣聖とはねぇ……。よしっ! しっかりと汚れを落としてくるんだよ!」

「ありがとうございます」

 

 ギルドカードには特殊な仕掛けがあるため、カードさえ見せてしまえば偽物や偽造と疑われることはない。

 だから安心して入口へと向かっていたのだが――

 

「ちょっと待ちな! あんた何やってんだい!」

「はい?」

 

 そう言ってから怖い顔をして俺の方へとずかずかと近寄ってくる。

 俺は察した。

 このパターンを経験したことは何度もある。

 十中八九偽物と疑っているのだろう。


「はぁ……」

 

 この前の商人のような、カードだけでは信じない人は思っているよりも結構いる。

 一度は信じたが俺のような背格好ではどうしても信じてもらえないことがあるのだ。

 こういう相手は話をするよりも、判別機にかけさせてはっきりとした証拠を見せるに限る。

 腕を掴まれぐっと受付の方へ引き戻された。

 痛くはないが周りの眼が集まっているのにそういうことをされるのは少しイラつく。

 

「そんなに信じられないならそこの――」

「そっちは男湯だ!」

 

 うん?

 

「はい、そうですけど?」


 そう平然と返すと、顔がさらに強張り今にも噴火しそうなほどの形相になった。

 

「あんたねぇ。いくら強いからと言って男湯に一人で行くなんて馬鹿じゃないの!?」

「え、なんで?」

「何でって……」

 

 大きくため息を一回。

 

「あんたみたいな可愛い女の子が男湯に行くなんて襲ってくれって言ってるようなもんじゃないの!」

「俺は男ですけど!?」

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