第3話 パーティ抜けます3

 俺に言われて漸く自覚したのか、二人は身体を離した。

 いやよく見ると手は繋がれている。

 なんだこいつら、こっそり付き合う神官と冒険者かよ。後宮ラブロマンスかよ。

 深いため息を吐きながら俺は二人に聞く。

 

「ちなみになんだけど、俺がギルドとか他の冒険者になんて呼ばれてるか分かる?」

「猪突猛進剣士」


 当然でしょと言わんばかりのどや顔でフランが答える。


「それ少し前のやつね?」

「嘘!?」


 少しというか大分前。

 初めてレベルⅥダンジョンに挑んだ時に、一緒に潜った他の冒険者パーティが俺の戦闘スタイルを見て付けたあだ名。

 小柄な俺ではどうしても威力を出すことができず手数で攻めていた。

 そのため、常に動き続ける必要があり、そんな戦闘を繰り返していたらそんな呼ばれ方をした。

 最初はどうしようもないバカみたいな意味で呼ばれてたらしいけれど、今では尊敬を含めてそう呼んでいる人もいると聞いている。


「えっとじゃあ、神速の剣聖……ですか?」

「そのまま呼ばれていたかった……!」

「ええっ! これも違うんですか!?」


 森の奥に誰にも気がつかれずに発生したダンジョンの制覇に失敗して押し寄せてきたモンスター達と戦う姿から付けられたあだ名、基二つ名。

 スタンピードを止めた功績としてSランク冒険者になった時に正式な二つ名として登録された。

 なのに今では誰もその名で呼びやしない。

 正直に言えば、この二つ名をとても気に入っていた。

 カッコいいし自分の職業に合っているし、何よりも男らしい。

 だが、そのあだ名も過去の話。


「あ、分かったわ! 俺っ娘剣士ね!」

「……待って俺男だよ?」


 これしかない! みたいな顔で絶対にない答えを言ったフラン。

 それに対する俺の突っ込みに反応がないままリーシアが口を開く。


「それなら影だけ美少女の方じゃないですか?」

「違うわよ! 後ろ姿美人よ!」

「……うん?」


 おかしいな、聞き間違いか?


「むっちり美脚ですよ!」

「スレンダー美少女!」

「永遠少女!」

「匂いは美女!」

「合法オネショタ製造機!」


 はっ、あり得ない答えばかり出てきたせいで放心していた!


「待って待って待って! どっちも違う! 全部違う! 最後らへんのに関しては一回も聞いたことない! 待って誰の話!? 俺じゃないよね!?」


 途中から俺の特徴が一切出てこなくなった。

 だからおかしいと思い二人を止めたのだが——


「影だけ美少女ならまだしも合法オネショタ製造機を聞いたこと無いんですか?」

「無いが!?」


 まるで常識を確認するかのようにリーシアが首を傾げる。


「そうよ。後ろ姿美人はマイナーかもしれないけど合法オネショタ製造機は割と広く浸透してると思ってたわ」

「何それそっちも本当にあるやつなの!?」


 フランまでそう言いはじめる始末。

 え、これ俺が知らないだけなの?

 というかこれだけ意見が出て俺が気にしているワードが出てこないっておかしくない?


「というか合法オネショタ製造機って良いのか!? その呼ばれ方二人がオネの方でしょ!?」

「それは良くないわ。だって私女の子が好きだもん」

「そういう理由!?」


 気にするところそっちなの?

 風評被害とかじゃなくて女の子が好きだからなの?

 恐る恐る、リーシアにも聞いてみることにする。

 信じろ、さっきまでの俺たちのチームワークを。絆を……!


「リ、リーシアはどう思ってるの?」

「そうですねぇ……」


 ちらりとリーシアはフランを見やる。

 ダメだ! 手を繋いでいる相手に上回れる気がしない!


「こういう嘘で風評被害を広めることは良くないと思いますね!」

「だ、だよね!? ははっ、やっぱそうだよね!」


 俺とリーシアの絆がフランを上回った……!?

 と思ったのもつかの間。


「だってノエルさんはロリですから!」

「何言ってるの!?」


 どこも上回ってなかった……!


「でも合法オネショタ製造機は良くないわ。せめて合法オネロリ製造機じゃないと」

「そうだよね。合法オネロリ製造機なら良い――訳ないよね!? だから二人とも何言ってんの!?」

 

 俺が気にしていたことが些細なことに感じてくる。

 え、もしかして些細なことだったのか? いや、そんなはずはない。

 俺だってよく考えて悩んだ末に出した結論なんだ……!

 だってほら、二人に聞けばわかるはず。

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