第18話 問題はあるが、想定内だと思いたい。
リュートの言動をいちいち気にしていたらキリがないので、一度息を吐いて自分を落ち着かせる。
「で、なにかないのかよ」
「なにかって言われても……ステン先輩がパワードスーツ持ち出してきても『あ、イタリアの騎士ってそうなんだ』としか思わなかったですし」
お気楽なやつだ。なんで神様は俺じゃなくてコイツを愛したんだろ。
「前はパワードスーツはなかったのか?」
「アイアンマンとか特撮ヒーローが着てるくらいですよ。……あ、フィクションで」
「へー、特撮ヒーローはそっちだとヒーローやってなかったんだ」
「え、ホンモノいるんですか!?」
横で話を聞いていたステンの言葉に食い付いたようで、リュートは目を輝かせて俺達を見る。
「いるんですかって、お前の携帯電話に写真撮ってあるだろ」
「え!?」
リュートはポケットからスマホを取り出すと素早く操作し、しばらくして歓声を上げた。
「うわ、すごい! ほら師範代、電脳戦士ですよ、電脳戦士! うわ、レッドスピードなんて滅多に見られないのに、ツーショットしてる! あ、グリーンロードと握手なんてしてたんだ! うわー、ちっちゃいなー僕! 五年前ですって! ブルーバードって今何代目なんですか!?」
「知るか」
「くそ、羨ましい……」
「うわ……」
自分に嫉妬し始めるとかヤバ過ぎだろコイツ……。
「あー、他になんかないのか?」
「そう言えばこの時間軸の師範代って携帯電話持ってたんですね」
「へー……って、持ってねーよ。お前なに言って……いやホントなにが言いたかったの?」
「言ってみただけです」
意図が全然わからない……。興奮しすぎて文法おかしくなったのだろうか。
「それで、あの、馬鹿な僕にもわかるように問題を整理して欲しいんですけど」
「え、なに急に……怖、どうした?」
心なしか顔が青ざめているようだけれども。
「いやよく考えたらこれ大変なことだなって気付いちゃって」
「いやお前そんな深刻そうな顔やめろよ……似合わないから」
「ホントですか?」
「だからやめろっつってんだろボケ」
余計不安になってくるだろ。
「整理は帰ってからするから、今は質問に答えてくれ」
「わかりました」
それから警察の護送車でグレナディアの学生寮に帰されるまで、無感情なリュートに一問一答形式の質問を投げかけ続けることになった。
それから二日間、病院で身体検査やら警察署で調書やらと忙しく、結局落ち着いてリュート達魔法教室のメンバーと顔を合わせるのは三日目の昼前になってしまった。
「そう言えばなんだけど、感謝祭の発表どうなったんだ?」
久し振りに集まった面子を見てなにげなく思い出したことを聞いてみると、何故か全員から目を逸らされた。
「ああ、それな、うん。全然気にしなくていいから。安心してくれ」
「おい……おい! なんで目逸らした!」
オリオンの肩を掴んで激しく揺さぶってみるが、ゲロ以外なにも出てこなかった。
「そんなことより、なんか世界の危機なんでしょ? 感謝祭のことはアタシ達に任せて、アンタはリュート達と頑張んなさいよ」
「リュート達?」
アンジーの言葉に嫌な予感がして聞き返すと、案の定クリス先輩がニコニコしながら口を開いた。
「アタシはロザレンズ家の者として、魔法を悪用する輩を放っておくことが出来ないわね」
「わあ、尊敬します」
なんてスラスラと出てくる建前なんだ。感動してしまった。守らなきゃならない人数増やさないでほしい。
『私は多分足手まといだから、手伝えないかな。ごめんね』
「正直リュートとクリス先輩がいればあとは全員足手まといだから」
「わあ、言うようになりましたね!」
……今なんで煽った?
そして、三日後まで感謝祭が迫った日の朝。
「師範代、そろそろ作戦の方教えてくれても良いんじゃないんですか?」
「お前、とうとう音もなく部屋に入るようになったよな……」
「ニンジャですから」
確かに俺の知るニンジャは音もなく影もなく、どこからともなく現れる暗殺者みたいな魔導士だ。随分とらしくなってきたじゃないか。
「大した作戦じゃない。感謝祭の日に待ち伏せして、とっ捕まえる。それだけだ」
「待ち伏せですか?」
「ああ。それが一番面倒臭くなくて確実だ」
リュートの話と俺の体験を擦り合わせて、おそらく俺が助けられる直前にナチスの残党は過去へ向かったと思われる。
俺が閉じ込められていた部屋以外にも沢山の部屋があり、そこには多くの子供達が閉じ込められていたらしい。
彼等は俺がサミー達と同じように魔法を教えられていたらしいが、助けが来る数時間前に突然姿を消したとか。
さらにステンが言うには、管制室に置かれた機材類は全て中身が食塩水に浸され壊されていたとのこと。
おそらく、過去へ逃げたか、或いは俺をさらったときのように時空間を超えて別の場所へ逃げたか。俺は後者だと考えるが、どちらにしてもまだドイツは草も生えない大地のままなのだから、また俺になにかしてくるかも知れない。
そこを待ち伏せしてやればいいのだ。
その考えをリュートに話してやると、いつものように首を傾げてきた。
「警戒されてることはわかってるはずなんですから、また来るとは限らないんじゃないですか?」
「アーホ。ここはお前から見て三番目の時間軸だ。そして、それら三つの時間軸で俺は全て攫われ捕らわれ、監禁されていた。よほど俺のことを重要視しているとみえるな」
「……嬉しそうですね」
「ん? んふふ、嬉しい」
主人公になった気分だ。
こういうのだよ、こういうの。神様もたまには粋な計らいをしてくれる。
「て言うか、お前ら俺の日誌勝手に読んだだろ」
「え!? いや日記なんて……なんのことやら……」
「いや別に良いけど……え、日記読んだの?」
「読んでないです! あ、日誌は勝手に読みました! 居場所がわかるかなって! ね!?」
「いや最悪日記読むまでは良いとして、写真撮って残そうなんて考えるな……よ……」
言いかけながら、リュートと並んで楽しそうにこの部屋を荒らす魔法教室の面々が頭に過ぎった。
いや実際は深刻そうな顔をしていたのかもしれないが、クリス先輩は絶対楽しんでただろうし俺の日記なんて見つけようものなら満面の笑みで涎垂らしながら写真撮りまくってたに違いない。
口の端から垂れる涎を拭いながらスマホで写真を撮りまくるクリス先輩か……。
ああくそ、最高かよ!
「あの、それが……クリス先輩が念の為とか言いながらめちゃくちゃ撮ってまして……」
「想像出来たから言わなくていい」
流石にそんなことないと思うけど、誰にも見せるなって釘を刺しておかないと。
落ちこぼれ騎士の魔法教室 めそ @me-so
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