第36話 断る! 断固拒否!

 ギルドに到着するとすぐに受付嬢のお姉さんが声をかけてきた。


「ミナト様ですね、ギルドマスターに伺っております。 ご案内しますのでこちらへどうぞ」


 案内されたのは昨日と同じ部屋だ。


「マーリン様、ミナト様のパーティーをお連れしました」


「入ってちょうだい」


 受付嬢のお姉さんがドアをノックすると中からそんな声が聞こえてきた。


「失礼します」


「ご苦労様、悪いのだけれどなにか飲み物を用意してもらえるかしら? 貴方達はかけてちょうだい」


 部屋の中のマーリンを見て、俺はに確信を得た。


 とりあえず言われるがままに腰を下ろす。

 ステラとリサは俺の両隣に、マーリンは正面に腰を下ろした。


「それじゃ報告を聞こうかしら? どうだった? なにか分かったかしら?」


 その質問に俺は腕を組み無言でジト目を向ける。


「あら? なにか言いたげな顔ね? ひょっとして想定外の事でも起きたのかしら?」


 その言葉に俺は一際大きなため息をつき、口を開いた。


「白々しいのはやめようぜ? どうせ全部知ってるんだろ? なんせ


「あら、なんの事かしら?」


 タナトスとの最後の攻防――

 あの瞬間、俺は何者かの気配、そして視線を感じた。

 そしてそれはタナトスが降参と言って現れてからも消える事はなかった。


 俺はてっきり残ったアンデットやゴーストの類かと思っていたのだが、先程マーリンを見てはっきりした。


 あの気配と視線はこの女のもので間違いない。


「確かにこの者の気配で間違いないのぉ」


「突然喋り出すなよ驚くだろ? つか今までどこにいたんだ?」


「いや、怒られ――ちと諸用でな」

「貴様! ひとりで逃げおって! 我がどんな目にあったと思って――」

「うるさいぞ、喧嘩なら後でやれ」


 状況を弁えろって話だ。

 つか爺さん今なんか口走らなかったか?

 まさかマジで爺さんもクロと飲んでたのか?


「あらあら、リッチにバレちゃったのは仕方ないけれど、まさかミナトにまで気づかれてたとはねぇ……ちょっと自信無くすわ」


「え? じゃあ本当にあの場にいたんですか?」

「気がつかなかった」


 ステラとリサが驚いて目を丸くする。


「ごめんなさいね、万が一なにかあったらと思って念の為について行ったのよ」


 マーリンはそう言っているが、恐らくそれは嘘だ。

 自分から依頼しておいて心配だからついてきたなんて、不自然過ぎる。


「よく言うぜ、どうせ最初から全部知ってたんだろ? おかげでこっちは死にかけたんだ、納得のいく理由を説明して欲しいところなんだけどな」


「いやだわ、リッチがいるなんて知ってたら依頼なんかしなかったわよ? 後から、ちょっと強引だったかしら? と思って見に行ったら貴方達がピンチだったから手を貸そうとしたのだけれど必要なかったわね」


 あくまでシラを切るつもりらしい。


 俺としては何故、爺さんのような凶悪な魔物がいるにも関わらず俺たちのような新米冒険者に依頼を出したのか?


 それを聞きたかったのだが、ここまでとぼけるなら恐らく答えてくれないだろうな。

 納得はいかないが、俺にはこの女の口を割らせる材料がないので諦めるしかないだろうな。


「とりあえず依頼は達成って事でいいのか?」


「ええありがとう、依頼の報酬を渡すわね」


 そう言って渡された麻袋はずっしりしている。

 結構入ってるんじゃないかコレ。


「出血大サービスで金貨100枚、大切に使いなさい」


「え!? ひゃ、100枚!?」

「すっごい大金……」


 ステラとリサが口を開けたまま驚きのあまり固まっている。

 日本円換算で約1000万――


 確かに信じられない大金だ。

 驚くのも無理はない。

 無理はないんだけどね――


「――ステラとリサ、びっくりする気持ちは分かるがとりあえず口は閉じなさい。 だいぶ愉快な顔になってるぞ」


 美少女コンビが台無しだ。


「じゃ間違いなく渡したわよ? で、話は変わるのだけれど折り入って頼みがあるの――」

「断る! 断固拒否!!」


 冗談じゃない、またこの人の頼みを聞くなんて怖すぎる。


「そんな事言わないで話だけでも聞いてくれないかしら?」

「嫌だ」


 マーリンは頬に手を当てわざとらしくため息をついた。


「はぁ……ただ手紙を届けて欲しいだけなのよ、魔物の討伐依頼とかではないからなんの危険もないのだけれどね……報酬も弾むつもりなのよ?」


 騙されない、俺は絶対に騙されないぞ。

 絶対何か裏があるに決まっている。


「手紙を届けるだけで金貨10枚、それにステキな特典もつけるわよ?」


 チョイチョイと手招きされる。

 どうやら横の2人には聞かせたくない話のようだ。


 ふ、残念だったな。

 俺は色香に惑わされるような意志の弱い男じゃない。


 ドヤ顔でマーリンの手招きを無視すると、何故か笑顔のまま額に青筋を浮かべ、おもむろに耳を引っ張られた。

 それも思いっきり。


「イダダダダ!! なにすん――」


 抵抗虚しく強引にマーリンに耳打ちされてしまったが、その内容に俺は思わず固まってしまった。


「……分かった、どこに手紙を運べばいいんだ?」


「え!?」

「なんだと!?」

「!!」


 横の2人に加えてクロも俺が突然承諾した事に驚愕の声を上げた。


 正直、どんな条件だろうと受ける気などさらさら無かった。


 だが、マーリンの報酬は今の俺には喉から手が出るほど欲しいものだった。


「感謝するわ、依頼料は前払いで届け先は王都でセレニア王国騎士団に所属するルークという人物よ」


 見て分かる上等な封筒に封蝋印、明らかに大切な手紙のようだ。


「分かった」


 封筒を預かり、そのままアイテムボックスにしまう。

 流石になくしたらマズイ代物っぽい。


「期間の指定とかあるのか?」


 俺自身、元の世界に戻る手段を探す為にあちこちで情報を集めるつもりだった。

 当然、この世界で一番大きいであろう王都には足を運ぶ気だったので都合は悪くない。

 だが、期間を設けられるのであれば、それに合わせて目的地を決めなければならなくなる。


「別にそれほど急ぎではないけれど、早い方が助かるわ。 もっとも、この街から他所に行こうと思えば自然と王都に行く事になるでしょうからあまり意識しなくて平気よ」


 俺はこの世界の地理に極めて疎い。

 王都がどこにあってこの街がどの辺りに位置するのかすらよく分かっていないのだ。


「はいよ、ならのんびり待っててくれ、なるべく寄り道せずに届ける事にするよ」


「そうしてちょうだい」


 やれやれ、厄介な事にならなきゃいいけどな……

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黒炎使いの異世界冒険譚 〜自称魔王に取り憑かれました〜 にゃる @nyaru0215

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