第21話虎の刻〜に〜
湿っていたのかなかなか燃えない文が燃え尽きた後の灰を紙へと移し替えていく。
隙間がないよう薬包紙のように紙を折っているところに、零が戻ってきた。
「これ、廊下に転がってたぞ。たく、なんで廊下になんか転がってるんだよ」
どうやら失踪中だった僕のスマホくんは廊下へ探検へ行っていたようだ。
零に連れ戻されたようだが、何はともあれ無事に手元に戻ってきてよかった。
横の電源ボタンを押せば、時間が表示される。
電源確認よし。と。
「これだいぶ前のやつっぽいんだが、平気か?」
首を傾げつつ、零はスマホを持っていた手の反対側の手に持ったスプレータイプの消臭剤を上げる。
あまり使わないからか所々に埃が付着している。
戻ってくるまでにある程度、零がはらってくれていただろうに、これは相当埃が積もっていたな。
「平気でしょ」
本当は、開封後1年ぐらいが目安らしい。
「本当だろうな、まあ仕方ないか。これしか無いしな」
古い物でも撒かないよりは撒いた方がマシだと判断したのか消臭剤を部屋へと噴射していく零。
文を燃やしたからか、なんでも部屋の中が煙臭いらしい。
消臭剤が撒かれる前にも、零によって部屋の扉という扉は開けられた。
直ぐに消臭剤の存在を思い出したため、直ぐに閉められたものの、おかげで少し肌寒い。
天井が黒くなるとか、ぶつくさ文句も言われた。
既に所々黒ずんでいるから遅いだろうに。
「これでよしっと」
筆ペンにキャップを嵌め、床へと転がす。
横に広い不格好な六角形の表面には、六芒星が描かれている。
用意が面倒な筆じゃなくても、雰囲気は出る筆ペンは最高だ。
「お前な、片したそばから汚すなよ。で、結局なんだったんだ」
零が床に投げ出された筆ペンとマッチのカスなどを拾い集めていく。
「秘密」
「秘密かよ」
零に馬鹿正直に白状した所で、その後の展開は見えているので、言わないでおく。
兎に角、これで余程のことがない限り暇人共の宴会には呼ばれないはずなのだ。
「まあ、とりあえず掃除用品を揃えなきゃな。あと必要な物も」
「えー、僕も行くのそれ?」
「行くんだよ。お前がいないと買う物が分からないだろ」
「零のが把握してるでしょ。お金だけ出すから買ってきて」
屋敷の大部分は零が掃除しているんだから、僕よりよく分かっているだろう。
「とことん出不精なやつだな」
「そうだけど、何か文句でも?」
「...…買い物は一日かかる可能性があるから今日は無理そうだな。後日にするぞ」
僕の渾身の開き直りはスルーされてしまった。
こうなったら次の手段に移るしかない。
「虚無!虚無を連れて行っていいから。2人で行ってきてよ」
「何でもかんでも虚無に任せようとするな、お前も行くぞ」
零は、それに虚無だって暇じゃないだろと続ける。
「山奥にこもって温泉でのんびりしてるらしいから、虚無も僕と一緒で出不精だよ」
「お前とは違うと思う」
間髪を入れずに否定された。
「酷い、僕は傷ついた。そんな意地悪な零は暇人虚無とデートでもしてくればいいんだ」
「はぁっ!?で、でーと?」
デートという言葉がきいたのか零の口から飛び出した言葉は何故かカタコト。
いくら初恋といっても恋愛感情はもうないだろうに。
というかデートといっても、傍から見たら若い叔父が姪と出掛けているようにしか見えないだろうデート(仮)だ。
「そうそう、久しぶりに会ってから大してたってないし、話すことは尽きないでしょ」
「それもそうだが」
僕の提案の方に天秤が揺れている零にここぞとばかりに畳み掛ける。
「僕の失敗談でも聞けるかもよ」
僕の辞書に失敗は載ってないけどと心の中で付け足す。
「.......デートでは決してないが、たまにはお前無しで出かけるのも悪くないな」
「そうだよ。それに荷物だって虚無に頼めばいいし」
「それはちょっとな」
今ので秤が元に戻ってしまった。
「虚無が零と行きたいカフェがあるって言ってたなぁ」
「.......」
まあ嘘だが。虚無にそんな可愛げなどない。
考え込んでいる零だが、ほぼ心は虚無と2人で行くに決まっているはず。
よし、完全勝利。
しかし、勝利を確信した僕はつい口を滑らせてしまったのだ.......
「僕は必要なものが手に入って、零は楽しめるし、一石二鳥だね」
「やっぱなしな」
「失言だった.......!」
「3人で行くぞ、3人で」
今日の結論、買い物は3人で行くらしい。
十二時辰記〜平安悪役呪術師の現代転生物語〜 小夜時雨 @pioggia
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