第21話 陵辱 ★

「お前、随分悪くなったなあ。前からろくでなしだったが、磨きがかかったようだな」


 その言葉がアスコットのささくれに触れたようだった。ノーランマークの腹を蹴り上げ、髪を鷲掴み上向かせた。

 咳き込んではいたが、ノーランマークは殺気立った眼差しでアスコットを睨み上げた。


「お前、何が望みだ。お前は政治的な興味なんて無いだろう」


「目的はアンタと同じさジーザス。

『神託の輝石』だ。アンタも知ってるんだろう?石の在り処を。さっきから三日月君に聞いてるんだけど、なかなか教えてくれないんだよ」


 アスコットはラムランサンの方に首を伸ばして嫌らしくその頬をベロンと舐めた。嫌そうに顔を背けてラムランサンはアスコットを睨みつけ、嘲笑した。


「輝石はここにあるって言ってるだろう?ただお前には見えないだけだ。恐らく一生見ることは出来ない」


「このっガキ!」


 ラムランサンに向かって手を振り上げた所で、背後から暗い影が歩いて来た。ランタンの明かりが届くところまで来ると立ち止まった。アーミースーツを着た爬虫類のような顔の男だった。


「何ごちゃごちゃやってるんだ!早く殺してしまえ!さっさと仕事を終わらせて帰るぞ!」


「サイラス。お前も欲がないねえ。コイツの持ち物に興味がないとは」


「私のボスはそんな物に執着は無い。お前も馬鹿な奴だな、人権派の兄貴の方を殺すとは。アモン首相を選んだ時点でお前は既に死んだ」


 サイラスと呼ばれた男は、冷たく残忍そうな目つきでラムランサンを一瞥した。


「私は自分のために神託などしない!アモンが悪党だと言うことは分かっていた。私とて殺されるべきはアモンだと思った。だが兄は死ぬ必要があったのだ」 


「御託はいい。私には関係無い事だ。私は命令を遂行するのみだ」


 そう言うと銃を構えるサイラスをアスコットが止めた。


「待て待て。お前には関係なくても俺には必要なんだよ。サイラス、誰が島の場所を教えた?誰が爆弾を仕掛けてやったんだ?」


「あの三箱か!アスコット!」


 先に声をあげたのはノーランマークの方だった。ロンバードが言っていた三箱の消えた積荷は爆弾だったのだ。


「気づくの遅すぎ。色ボケで鈍ったなジーザス」


 そう言うと、ラムランサンの方に向き直り、視線で嫌らしく舐め回した。


「違う聞き方もあるんだよ?三日月君、早く言っちゃった方が楽だよ?ジーザス。お前が喋っても良いんだよ?」


 含みのある言い方をすると、アスコットはラムランサンの腰から太腿にかけて撫で下ろした。

 その動きに良からぬ事を考えてるのがノーランマークには想像できた。外聞もなく必死の形相でアスコットに身を這いずって叫んだ。


「やめろ!何考えてる!ラムから手を離せ!アスコット!」


 必死にラムランサンを庇うノーランマークの姿に、アスコットは嫉妬よりもずっと深い鈍痛が滾るのを感じた。そして良い事を思い付いたように言った。


「そうだ。もっと楽しい事をしよう。たまにはヤラれる側に立ってみない?ああ、でも安心しろよ、お前のバックは狙わないから」


 そう言うと、ラムランサンからノーランマークの方へとしゃがみ込み、ズボンのベルトに手を掛け嗤った。


「よく見ていろよ、子猫。この男が俺の中でイク所を。男なんて結局はみんな同じだ。擦りゃ勃つ。アンタじゃ無くてもな!子猫!

やめて欲しけりゃいつでも言え!考え直してやろう」


 そう言うと、アスコットは乱暴にノーランマークの前を暴き、そこへと顔を沈めた。

 縛られた両脚をバタつかせると、アスコットが根元に歯を立て、分かっているなと上目にノーランマークを睨んだ。

 噛みちぎられそうな恐怖に身が竦む。ノーランマークが歯を食いしばって耐えているのが分かった。

 抵抗を止めたノーランマークに、満足そうに笑うと、アスコットは音を立てて美味しそうにソレを頬張った。そんな場面を直視出来ずにラムランサンは顔を背け、肩を震わせた。

 その様子を眺めていたサイラスに嗜虐の炎が揺らめいた。

ラムランサンの背けられた顎を掴むと己の方へと向かせた。


「良い顔するじゃないか。三日月。実にそそられる。どうせ殺すんだ。その前に世にお高くとまる蝶を毟ってみるのも悪くはないな」


 下衆びた嗤いと舌舐めずりする顔が近づいて来る。その恐怖にラムランサンの眼が大きく見開かれた。


「なあ…っ、よせっ!止めさせてくれ!アスコット!アスコット!!」


 輝石の場所を言えるものなら言っている。たが言えばラムランサンの腹を裂いても奪う気だと言う事はノーランマークには想像できた。

 絶望の中でただもがき騒ぐ事しか出来なかった。

 目の前でラムランサンがうつ伏せにされ、首を上から押さえつけられている。抵抗を見せたがそれも虚しくサロンの裾が乱暴に捲られた。白い脚と腰が剥き出される。何の汚れも知らないしみひとつ無い眩しい白さだった。

 次に自分がどうされるのかラムランサンは悟ると、唇を噛みしめ両手を爪が食い込むほど握り締めた。


「頼む!止めろ!!ラム!ラムランサン!!」


 ラムランサンよりもノーランマークの方が半狂乱のように叫けんでいた。その頬をアスコットが打った。


「煩い!お互い自分の愛しい奴が嬲られるのを良く見とけ!」


「何でだ!どうしてここまでするんだよ…っ!頼むから止めてくれ…っ」


 それはもう哀願だった。ノーランマーク自身、ここまでみっともなく誰かに哀願した事は一度もない。アスコット相手に「なんでもする」とさえ口走った。

 プライドを捨て掛けているノーランマークに対して、この場に至ってなお一層、ラムランサンの気高さは美しく咲き誇った。


「ノーランマーク!私は大丈夫だ!こんな事で汚されたりしない!」


 冷たい石床にうつ伏せに組み敷かれながらも、決意のような、凛としたラムランサンの声が、ノーランマークの耳に届いた。真っ直ぐに自分を見つめて来る眼差しに、腹を括った決意が滲んでいた。





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