第20話 急襲

 ラムランサンとノーランマークの束の間の浅い眠りは、地響きと共に城の何処かが爆発する音で叩き起こされた。小刻みに石の壁が振動し、細かな壁の欠片がバラバラと頭上から降り注いだ。

 二人は慌てて窓に走っていくと、音が聞こえた方角を見上げた。視線の先には黒煙が上がる西の塔が見えた。爆音は続け様に二発それぞれ違う場所から聞こえてきた。それと同時に二機のヘリコプターの騒々しい唸りが低空飛行で近づいて来るのが見えた。


「お前の不安と言うのはアレか?!」


「いや、まさかヘリが来るとは想像していなかったが…」


「!!!」


 二人とも大声で話さないと聞こえないほどの轟音の中、更に驚くべき事態が目の前で起こった。

 その二機のヘリコプターから何人もの侵入者が投下されると同時に、一機のヘリコプターが空中で大爆発を引き起こした。消炎の臭いがこの部屋まで充満した。

 それにも増して二人が驚いたのは、その崩れた西の塔の剥き出しになった場所から、ヘリコプターへ向けて肩に担いだロケットランチャーをぶっ放すロンバードの姿だった。それが一機に命中したのである。


「やるなぁ、爺さん」


 ノーランマークは目の前の惨事よりも、ロンバードの方に感心していた。だが、そうもしていられない。やがてヘリコプターから投下された奴らがここまでやって来る。ノーランマークはアサルトライフルを担ぎ、ラムランサンの腕をひっ掴んで外へと飛び出していた。


「ラム!この城で一番安全な所は何処だ!」


「神殿と言いたいが、入れば外の様子が分からない」


「ドックだ。あそこに行けば敵が誰なのか目的は何なのか探れる」


「危険すぎないか?!あそこにはアスコットの船が…っ!」


 そうラムランサンが叫んだと同時に城の中庭から、二人が走っていた城の回廊へと何人かの侵入者達が雪崩れ込む。敵の動きは早かった。


「オレから離れるなよ。ラム!」


 ノーランマークはラムランサンを己の後ろへと隠し、回廊の壁の僅かな隙間に身を隠すとアサルトライフルのトリガーを引いた。

 二人殺った手応えがあるが、あと三人潜んでいる気配があった。彼等は庭木を盾に直ぐに応戦して来た。ノーランマークと侵入者数名との銃撃戦となった。

 前方に気を取られていた瞬間、背中のラムランサンの動く気配がした。背後に回り込もうとする者をラムランサンの鞭が捕らえたのだ。ノーランマークが初めてラムランサンと出会った時の様に、その鞭が敵の脚を掬って引き倒していた。すかさずそれをノーランマークが足と肩を撃ち動きを封じ、敵は二人だけになった。


「お前らは何者だ!目的は何だ!」


 ノーランマークが大声で相手へと問いかけるも、当然のように何も答えは返されない。しかしラムランサンには心当たりがあった。


「お前達はアモン首相の手の者か!」


 アモン首相と言えば、ラムランサンが兄殺しを神託してやった人物だ。要するに、ラムランサンを信じきれず、もしくは最初から口を封じるつもりでいたと言うことなのだ。今更ながらに、ノーランマークは殺伐とした気持ちになっていた。


「それは彼等の目的で、俺とはまた別の目的だよ」


 何処からかアスコットの声が聞こえたかと思うと、突然ラムランサンの背後にアスコットが降って来た。二人のいた回廊の上はバルコニーになっていたのだ。


「武器を捨てろ。ノーランマーク!」


 アスコットのサバイバルナイフがラムランサンの頸動脈に押し当てられ、自分が手にしていた鞭が、まるで裏切るように、二つの手首を後ろ手に巻きつけられた。


「構うな!射て!ノーランマーク!」


 躊躇せずにそう叫ぶラムランサンの頬を鋭いナイフが傷つけた。一条の赤い傷から鮮血が迸った。


「本当はお前を嬲り殺しにしたいんだ。俺を怒らせるなよ」


 アスコットは血のついたナイフの切っ先を、再びラムランサンの喉元に突き立てノーランマークに見せびらかした。


「待て!分かった捨てる!」


 これ以上、ラムランサンを傷付けさせる訳には行かなかった。ノーランマークは持っていたアサルトライフルを中庭へと放り投げた。それを待っていたように、したたか後頭部を何か硬い物で殴られた。


「ノーランマーク!!」


 ラムランサンの自分の名を叫ぶ声がする。必死で何度も呼ぶ声。その声と同じ数だけ蹴られる痛みと共に、ノーランマークの意識が遠のいて行った。


 ノーランマークが次に目覚めたのは固く冷たい石の廊下の上だった。ぼんやりとした視界に、ドックの壁やアスコットの船が霞んで見えた。頭や顔がズキズキ痛み、口の中は血の味がした。身を起こそうとすると、己も後ろ手に縛られている事が分かる。脚も縛られままならない。


あの後、ラムランサンはどうしたのか。無事でいるのか。


「う…っ、ってて…ラム…っ」


 ようやく身を起こし、壁に背もたれながらぼやけた視界でラムランサンの姿を探した。


「私はここだ、ノーランマーク」


 手が届く場所で、ラムランサンは同じく壁にもたれ、ノーランマークを気遣わしげに覗き込んでいる。


「無事だったな。怪我してないか」


「私よりお前だ。痛むか」


「なに、ちょっとやられただけだ」


 ノーランマークは余裕を見せようと笑って見せたが、殴られたらしい頬が腫れて口元の笑いは引きつった。


「お目覚め?ジーザス。昔はもうちょっと骨があったのに」


 自分の船から降りて来たアスコットがゆっくりとノーランマークの元へとやって来て、更に邪悪さを増した笑みを浮かべてノーランマークを見下ろした。





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