第3話 ロボットに感情を

 博士は恐る恐るメールを開くと、「そ、そんな⁉」と声を荒げ動揺した。2日後の試験運用を最後に、合否を決める、と書かれていた。

 博士は青ざめた顔で、研究室にある故障したロボット達を眺めた。まだ10台以上ある。あと残り2日で、子供達の戯言を全部メモリーに蓄積しないといけない。間に合わない、いや、間に合ったところで、また新たな戯言で故障させられるに決まっている。一体どうすれば……、蓄積しかない。メモリーにできる限り蓄積を……。

 博士が故障したロボット達に近づき、震える手で触れた時、誤って1台倒してしまった。ロボットがぶつかり合い次々に倒れ、その衝撃でプロジェクターから映像が、マイクから音声が一気に飛びだす。園児達のはしゃぐ姿と声が研究室を覆った。博士は力なく両膝を付いた。顔はみるみるうちに怒りに染まり、怒鳴り声を上げた。


「このロボットは玩具ではないんだッ‼‼10年費やしたんだ‼‼、ここまで来るのに‼」


 博士の目からは、大粒の涙が流れだした。かと思うと、急にクククと笑い出した。


「木の枝を魔法の杖とか、そんなのロボットが答えられる分けがないだろ! 滅茶苦茶な事言いやがって! ハハハ!」


 博士は映像を見続けた、怒ったり、泣いたり、笑ったりしながら。

 映像が全部消えた後、博士は短いため息を付き床に寝そべった。口元は自然な笑みをたたえていた。こんなに感情を曝け出したのはいつ以来だろう。今は清々しい気持ちだった。


「お前も俺みたいに、怒ったり、泣いたり、笑ったり出来たら、煙を吹いて壊れる事なんて無かったのかもな。ハハハ」


 倒れているロボット達に語り掛けた後、博士はハッとした。体を起こす。


「ロボットが俺みたいに? そうすれば……。でもどうやって感情表現を……、はっ⁉ そうだ! 今見た映像をもう一度!」


 博士は、また子供たちの映像を見返す。そして、何かに気付き、慌てて研究室の倉庫に走り出した。少しして、また急いで出てきた博士。その手には、小さなモニターが掲げられていた。手鏡程の大きさのモニターを、ちょうど、園児達の目線と重なるように、博士はロボットに取り付け始めた。

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