Last Stage. Top Of The Rock

 長かったこの物語も最終章を迎える。


 イギリスから帰国後、金山さんとウィスがメインで、新曲『Top Of The Rock』に歌詞をつけてくれた。


 もちろん全編英語の歌詞だったが、それを訳すると。

 ものすごく力強く、気合いの入るような日本語訳だった。まさにこの曲のタイトルに相応しいものだった。


 そして、帰国してから1週間あまり。俺たちはひたすらこの曲を練習し、デビューに備えた。


 4月頭、やっと渡米し、ニューヨークのマンハッタン、ハーレムにほど近い、『Amsterdam Avenueアムステルダム・アベニュー』にようやくシェアハウスを確保。


 4月9日、土曜日。

 現地時間で夜の7時。


 ニューヨーク、マンハッタンのグリニッジ・ビレッジにある、ライヴハウスで俺たち、『NRA』のデビューライヴが行われることになった。


 だが、その日、俺たちメンバーは4人しかいなかった。


 リードギターの俺、ベースのウィス、リズムギター兼ヴォーカルの金山さん、そしてドラムの麻弥。


 そう、結局、白戸先輩と翼は来れなかったのだ。


 白戸先輩は、家族の猛烈な反対、というより父親の反対で、日本で経営学を学ぶとか言っていた。

 成田空港で見送り際、


「麻弥先輩ー。私も一緒に行きたかったです! 本当にごめんなさいー」

 と、泣きじゃくりながら、麻弥に謝っており、


「凛ちゃん。もう泣かないの。あなたと一緒であたしもとっても楽しかったわ。だから、今度は日本から応援してね」

 そう、麻弥が慰めていたのが印象的だった。


 ちなみに、白戸先輩は、白戸電機の力なのか、渡米する俺たちに、新しいエフェクターやギターの弦などを送ってくれた。


 一方、翼はというと。

 さすがに若すぎたのか、家族に高校卒業まではダメ、と反対され、渋々ながら日本に残った。


「赤坂さん! ボク、いつか絶対アメリカに行って、『NRA』に入りますからね。待ってて下さい!」

 と、成田空港で、必死に訴えてきた。


 こいつの場合、数年後に俺たち、というより、俺を追いかけて、本当に渡米してきそうな気がするが。


「もう、翼ちゃんはいらないって」

 俺と再び付き合い始めた、麻弥は邪魔者扱いするように、奴をあしらっていたが。

 俺は苦笑いしていたと思う。



 そして、新生『NRA』として、4人でアメリカでスタートする俺たち。

 キーボードがいなくなったのは、痛かったが、元々「Top Of The Rock」はパンクな曲で、しかも白戸先輩は自分がいなくなることを予想していたのか、あえてキーボードパートは入れていなかったらしい。


 当日、客席は多くの人で賑わっており、中には、注目したのか、日本のメディアまでカメラを持ってきていた。


 俺たちは、演奏前に、麻弥の希望で、俺あちのバンドでは、初めて円陣を組んだ。


 俺、麻弥、金山さん、ウィスが円になって、それぞれの右手を腕を十字に合わせた。

 なお、この時の格好は。


 俺が「grunge is dead」と書かれたニルヴァーナのTシャツにジーンズ。

 麻弥が、「Rock'N'Roll」と書かれたTシャツに、レザーパンツ。

 金山さんが、派手な赤いTシャツに、ジーンズ。

 ウィスが、「ユニオンジャック」が描かれたTシャツに、白いショートスカートだった。


 麻弥は事前に、

「カナカナ。英語で『やってやるぜ!』って何て言うんだっけ?」

 などと聞いており、俺たちは教えてもらった、そのセリフを打ち合わせ通り、全員で気合いと共に叫んだ。


「Let's do it!」


 実に単純だが、わかりやすい英語で「さあやろう!」とか「やってやるぜ!」という意味だ。他に「Let's do this!」とか「Let's go!」でも同じような意味だが。


 そして開演。MCの金山さんがマイクの前に立つ。


「Hello,everyone. We are "New Round About". Fortunately, we will debut tonight in this city,New York. So,we would like to send you with this song.」


 はっきりとした、英語でそう宣言した彼女は、次の瞬間、高らかに曲名を宣言した。


「Top Of The Rock!」


 いきなり激しくドラムが打ち鳴らされ、ついでギターリフが入り、ヴォーカルの声が入る。歌が流れる。


We are newbie(俺たちはひよっこだった)


But with friend by our side, we can overcome any obstacle(でも、友達と一緒ならどんな逆境でも乗り越えられるだろう)


We are going to aim higher.(俺たちはもっと高みを目指す)


We want to be number one.(俺たちはナンバー1を目指す)


Fight fair and square.(正々堂々と戦う)


Bring it!(かかってこい!)


Top Of The Rock(ロックの頂点)


 あとは繰り返しだ。

 激しい曲が終わり、会場が多くの歓声と拍手に包まれる中、俺は麻弥の方に目をやると、彼女と目が合った。


 再び髪を伸ばし始め、まだ短いながらも、強引にポニーテールにしていた彼女。

 その笑顔は、見たことがないような充足感に満ちた、最高の笑顔で、最高に可愛らしい表情だった。


 俺たちのバンドの、「ロックの頂点」を目指す戦いが今、始まったのだ。


              (完)

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Rush Up 秋山如雪 @josetsu

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