隠れた布の一枚下

鬼桜/キザクラ 

隠れた布の一枚下

ラッキースケベ、

誰もが一度は憧れるものだ。

故意じゃないから犯罪ではない理論により許される(?)。

そんなエロス。

これはそんな思春期男子の妄想を具現化させたものではないので、特に期待はしないでくれたまえ。



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 午前5時、目が覚めたら衣服が見えなくなった。


 いや、実際は上着というのだろうが、まあつまりは、下着以外の装備品が見えなくなった状態というわけだ。…なんの説明にもなってないなこれ。


 勘違いして、昨日寝たんじゃないかって?それはない。そういうことには気にしてる。もし、寝てる間に服を脱がされたとかだったらそれはそれで事件だよな。


 実際、僕は今現在パニクって姿見の前で着せ替えをおこなっているのだから。あぁクソ暑い。重ね着しているような感覚はある。が、一向に裸の僕しか写らない。目がおかしくなったのかそれとも頭か、判断出来るところではないが、部屋の内装に変わったところはないので衣服だけ見えなくなっているのだろう。だから頭の問題なのだろう。それで解決するわけでもないが少し心が落ち着いてきた。


「珍しいわね、陽夜はるやくんが寝坊するなんて···って、一体何をしているの?」


 母が様子を見に来た。そりゃそうだ。世界は自分中心に回ってなんかいない。何か問題が起こったところで世界は回り続ける。普段の生活が待ち受けているだけだ。何も変わらない。ってあれ?母は服を着ている。少なくとも、

これは僕だけに起こっている現象なのだろうか?


「ほら、無駄に厚着なんてしてないで早く制服に着替えなさい。遅刻するわよ。···あら、そういえば初めてかも、こんなことをいうなんて。今のってお母さんっぽいわよね!」


 ·······いや、決めつけはよくない。でも取り敢えずは、今日も登校しないとな


「ごめんごめん。ちょっと想定外の事が起きてて、だからさ、着替えても良い?」


「······!そ、そうよね。は、陽夜はるやくんも思春期だからね!ちゃんとお母さんにも相談しなさいよね。ま、一応、早めにねー」


 重ね着している息子を見て何を思ったのだろう、バイバイと年甲斐もなく手を胸元で振りながら部屋を出ていく。····一体いくつだよ...。


 不穏分子も部屋から出ていった。つまりここからは、逆に私が不穏分子(仮)として外へ出なければならない。とても不安だ。




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 リビングへ行った僕は、確信を持って仮説を立てる。


 それは、今僕だけがこの状態であり、対象は男のみということだ。



 僕が異端児だった。


 今日からだし、望んでもいないが、確かな事実だった。僕がおかしくなっただけだ。


 父はいつもと変わらず遅れる遅れると言いながら、ゆっくりと、パンツ一丁でパンを掻き込んでいるし、テレビに映る、今をときめく高学歴イケメンアナウンサーは下着姿で和やかに共演者と話している。...あの人あんな顔して、あそこがもっこりしているよ...どことは言わないけどさ。そして姉はパジャマを着てソファーでぐっすりと眠っている。


 ここに違和感を覚えているのは僕だけだ。皆がみな、今までと同じそれぞれの日常を過ごしている。


 そして僕もそれに倣うべきなのだ。


 制服は着ている·····筈だ。記憶を頼りに探したが、何を着ているのか僕には見えていない。だが、父も母も何も疑問を示さないため合っているとは思う。


 今日は朝食を抜いた。準備に手間取っていたせいで時間がない。リビングに来たのは挨拶をするためだ。そしてそれはもう済ませた。


 扉を開ける。

 真なる覚悟で開いた扉。

 それは、新しい世界への入り口であった。





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 家を出て、今は学校が家から離れた場所にあるため電車の中、満員の車内で身動きが取れない。

 人の体が乱雑に詰め込まれたこの箱には、無数の手と指が存在する。

 無規則に動くその触手達は、それぞれの意思により所々に点在している。その中には、欲望のまま動かされるものすら多々ある。この箱の中において、僕が安全圏に居るとは限らないのだ。




 だからこそ興奮してしまう。




 ···あぁ、今更だが僕のことについて話しておこう。これから話すことが、僕の今の状態に繋がっているかもしれないから。...引かないでくれよ。

 僕の名前は更科さらしな 陽夜はるや。高校二年の男子だ。何をしてもそこそこな人間という風に覚えていてくれ。

 そして僕は変わった趣味を持ち、今日も変わらず続けている。これは人に受け入れられないような行為だ。


 昔から、何に対してもやる気、熱意を感じれなかった。

 多分、他者への関心が人より薄いのだと思う。

 けれど、僕も生きてる人間。暇を持て余せば死んでしまう。けれど打ち込めるものが何もなかった。

 だから作った。自分の中で完結する趣味を。

 最初は、足の指を結んだまま一日中過ごすことにした。痙ったのでやめた。半日で辞めた。

 次に一日ずつ服の裾を捲っていった。毎日1ミリ、欠かさず測ってやった。10日で飽きた。誰にも咎められなかった。

 そして、方向性が間違っていると3回目で気づき、自分に問いかけた。お前は何を望んでると、彼は答えた、己のだと。そして僕は思い切った。


 下着を着なくなった。


 驚くほどに違和感が無かった。まるで、これこそが自然体であると言われているかのように。

 暇すらなくなった。他者の動きを気にするようになった。

 自然体とスリル、そしてそれを成し遂げる為の日記及び計画案を記す時間。全てが解決された。

 これが僕のデフォルトになっていた。


 だから今日もこのスタンスを変えていない。


 つまり、今僕はリスキーであるのに関わらずノーパンであるということだ。

 バカだと罵ればいい。だが僕は今、今までで一番興奮している。脳が沸騰しそうだ。


 僕は今、制服を着たまま裸の状態で電車に乗り、半裸の男達を傍目にしながら、バレてるのかもしれないんだと思い半勃起している。

 制御が出来なければこんなリスキーなことできるはずもない。

 それでも尚、勃っていることから僕の興奮具合が伺えるだろう。

 女は服を着て、男は下着姿、その中で僕だけが裸になっているという状況にどうしても興奮を禁じ得ない。

 あぁ、背徳感が全身へと一気に駆け巡る。僕は何をしているのだろう。


 とはいえ、満員電車で少しでも勃たせているのはバレる危険度的にまずい。

 だから、服の上からでもわかるくらいの胸を持つ女性を見つけて萎えさせる。あれを見ると嫌悪感が湧く。何故だろう。羨ましいのだろうか。僕は女ではないのだけれど。まあいいか。


 取り敢えず危機は去った。だが、今後どうなるかはわからない。

 どうせエスカレートしていくのだろう。バレない程度には頑張っていきたい。

 とはいえ、これ以上にリスクとスリルが釣り合うものなどあるのだろうか、


 そんなことを考えているうちに20分間の衆目内部露出を終え、目的地へとついた。


 都内の男子校だ。ある程度規則には緩めのため、持ち物検査などはない。もしあれば、かばん内に下着一式を詰め込んでいるため僕は一発アウトである。

 袖切りの為に選んだところだったが思わぬ形で役に立っていた。一生に一度の高校をそんな理由で決めてる僕はアホだと思うが。


 そんなこんなで教室に入る。男子校だからか皆が皆下着姿だ。

 正直気味が悪い。その中で僕だけが裸。正直、集団レイプされたとしても文句を言えない立ち位置である。無いと言えない世界を恨むべきか、称賛すべきか。いや、無いか。


 僕は席に座り予習を始める。優等生でいなければ、裸でいることのリスクが減る。

 落差が大きいからこそより大きな興奮を得ることができるのだ。学校内での立場確立は前提条件であった。



 しばらくして、クラスメイトの石垣いしがき のぼるが目の前まで歩いてきて立ち止まった。

 他者に関心がないとはいえ、人と話す機会もそれなりに多い僕だ。コミュ力は多少ある。

 察した僕は顔を上げ、言葉を待つ。印象の良い薄っすらと笑みを浮かべた顔だ。愛想笑いが上手いな、とよく言われる。褒め言葉ではない。


 すると彼は、気まずそうな、怪訝とした顔で耳元にまわり、周りから聞こえないような小声で話しかけてきた。


「あ、あの、なんでそんな状態で、いつもどおりの全裸登校してきてるんですか?」


 僕は死んだ。


 

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