第三楽章(18)

 徹が機内で見た夢が暗示していたのが『受精』だったということについて、徹は早速、間宮に話した。


「なんだぁ? 受精だって? そりゃまた、ぶったまげた話だなぁ」

 その口ぶりとは裏腹に、間宮は徹の話をすんなりと受け入れてくれた。これまでのふたりの会話自体が、すでに常識では考えられないのだから、何があっても不思議ではない。


「でも、どうしてそれで彼が自殺したのかがわからないんです」


「う〜む。仮にお前の言うことが正しいとして、モーツァルトの曲に受精時の記憶を思い起こさせる働きがあるとすると、望さんとやらは、その先にある何か別の情報を得ちまったんじゃねえかな。お前が気付かなかった何かをよぉ」神妙な顔つきで間宮が言う。


「その先にある情報って、受精のさらに先にあるものってことですか?」


「ああ……」


「受精の先にあるのは、妊娠、出産なんじゃないですか」


「違う、その逆だ。俺が言ってる先ってのは、受精した後じゃなくって、受精する前の記憶にまで、遡っちまったんじゃねえかってことだよ」


「受精する前の記憶って、つまり、生まれる前の記憶って意味ですか?」

 間宮は深い思考の溝にとらわれたのか、徹の質問には答えなかった。


「まさか、そんなぁ」

 それからしばらく、ふたりは黙りこくったままだった。

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