第三楽章(17)

新しい発見があるわけでもなく、仮にあったとしても、それで望さんが生き返ってくるわけでもない。摩耶子は、一日も早く隆一の気持ちの整理がつけばいいと願っていた。

 摩耶子はスタジオ通いとアルバイトの生活に、なんとなく戻っていた。以前と何ら変わらぬ日常の繰り返しに……。

 ただひとつ、徹のことだけは頭から離れなかった。会いたい。そしてもう一度、あのはにかんだ笑顔に見つめられたいと思うのだった。その願いは、摩耶子にほんの少しの勇気があれば叶うものだった。だが、どうしても最後の一歩が踏み出せなかった。


(会ってなんて言ったらいいの? きっと迷惑だわ、第一、私のことなんか覚えているかどうかもわからないし。このまま、時間が経てば忘れられる。日一日と記憶は遠のいていく。そして、いつかはひと夏のはかない思い出として、胸の奥の隙間にすっぽりと収まる日がくるわ)


 そう自分に言い聞かせるも、思いは逆に自己主張をし、臆病な摩耶子をけしかけるのだった。

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