第5話 大淫婦と人柱 中

――家は、かなり特殊だ。

 寧はリハビリも兼ねて広い庭を散歩する。目的はリハビリだけではない、『』が心配すぎるからである。何もせずに寝込んでいたらさらに『』の事を考えてしまう。だからその思考から逃避するため……といってもこれもまた彼女に関わることなのだが。

 あの子が個人的に仲良くしている男の子『愛殿』。実母からの虐待と、祖母祖父に引き取られその先で受けた村民からの迫害。そしてその集落の『歪み』による滅亡。それくらいならよくある過去だ神の加護や愛が薄れてしまったこの時勢、いきなり故郷が消えるくらいの事天変地異よりもよく起こる。家の人間にもそういう子供がいる。むしろそれ以上に辛い過去がある子供もいる。

 問題は、彼の所属する組織。

 気味が悪い。

 無論、会衆というのは戦闘集団。『村』によってはというかほとんど全ての村に能力のある子どもを孤立させたり隔離したり、とにかく『能力者』を異物として育てる習慣がある。それ故皆かなり曲者なのだ。だからその曲者集団を管理するために会衆は多少なりとも宗教性や軍隊性のような気持ち悪さ、あとは、また違った種類の気持ち悪さを持っている。

 そういう存在の会衆が普通の人からしたら家は気持ち悪いだろう。

 来るもの拒まず、去る者追わず。しかし、家にいるならば面倒は見続ける。

 それ故、古株はあまりいない。衛助の実の娘である私、昼、『』、雀、ナオ……は人かわからないが家の古参? だ。

 能力者の子供は孤児でも村八分でも本人が付いてくるなら家で教育する。20を超えても家にいたいならお好きにどうぞ。

 そういうユルユル組織。

 でも家はちゃんと『会衆』として国に登録し、所属メンバーの能力や情報を提出している。

 しかし、あそこは……『会衆』として登録されていない。

 登録自体が何年も前に切れている。会衆の長が死んだという報告もなく、かといって解散したという報告もない。

 しかし。

 寧ちゅああああああぁぁぁぁぁぁぁあん。と飛んできた実の父親兼会衆頭を小型の人形で空中に縫い付けた、2メートルはある大男が宙に張り付けにされている姿は中々に壮観――。

 年少組が緊縛プレイだーだの父と子とは罪深いー! だとか昼ドラ展開キタ━━━━━━━━!! だの言っているが相手にしない。

 そして、『父さん』と、問いかける。

 暫くすると父はその問に『多分そうだったかなぁ』と、曖昧な返事をした。

 曖昧な答えにムカついて父を人形で投げ飛ばした。

 事の進みようによっては大事件だというのに、そしてその大事件に自分が一枚噛んでいることを何も考えず。

「はぁ……本当に『』ちゃんが愛殿くんと付き合うことを辞めさせなくてもいいのでしょうか?」

「『』ちゃん次第だね~あの子にも何か考えがあるのかもしれないし、あの子が彼の事情を改善するのかもしれない」

 だから見守ってあげなよ、『』ちゃん寧ちゃんより年上なんだよ~。と縋りついてくる、体がグラつき地に伏した父の胸板に手を付く。 私は145cm、父は2メートル、そこをよく考えてほしい。

 無論訓練の一環だと思うが本当に気持ちが悪いし危ないのでやめてほしい、そして着物が汚れる。

「あんッ……そこはちくびなの……」

 手の平に感じた小豆大の大きさの物を引き抜くように力いっぱい引っ張った。

「あ“ぁぁぁぁぁぁぁあ”!!!!!!!!」

 汚い悲鳴両手を離した父は両腕をクロスして痛みに悶える。地面にころがるその体を再度吹っ飛ばし池に落とした。

 ワクワクした顔で池に沈んだ父を見る年少のうんあかり、『実験していいよ』と声をかけると自分達の持ちうる能力全てを使い、父を沈める。これも訓練の一種だ。父には耐えてもらうしかない。

 あの池、大きさのわりにはかなり深いんだっけ。と、子供の頃落ちておぼれかけたことを思い出す。

 まあ、問題ない。父もブクブクと沈んだり浮かんだりはしゃいでいる。最近はデスクワークばかりで体も鈍っていたことだろうし子供の遊び相手くらいいい運動になるだろう。

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