第3話 むき胡麻で油を搾る

 胡麻油、第三弾。むき胡麻を手に入れました。

 胡麻には堅い外皮と柔らかい中身の間に、薄い内皮というまくがあります。むき胡麻は外皮を取り除いたもの。


 胡麻をしぼる時、凄まじい圧がかかるのはこの外皮のおかげでは? と思ったのは、胡桃くるみ向日葵ひまわりを搾ったとき。外皮=殻を取った状態のそれらは、ほぼ圧を感じないくらいに軽く油が搾れたのでした。

 しかも奴らは濾過ろかが笑っちゃうほど速い⋯⋯やはり胡麻油は粘りが強いのね⋯⋯。



 そこで、スーパーで見つけたむき胡麻を購入。搾ることにしました。



 搾油器を組み立ててテーブルにセット。

 アルコールランプに燃料アルコールを入れて点火。所定の位置にセット。

 100円ショップでたまたま見つけた150mlのガラスビーカーを油受け用にセット。

 むき胡麻ちゃん達を軽くレンジでチン。温まっているほうが搾りやすいのですよ~。

 蓋の下に油かす受けのボウルをセット。

 本体の筒の上に漏斗ろうとをセット。



 ――準備万端。さぁ、やるか♪



 漏斗に温めたむき胡麻を少量入れて、ハンドルを回します。普通のり胡麻と同様に進んでいく胡麻ちゃん達。少しずつハンドルが重くなっていきます。

 ある程度重くなったら、第一回目の減圧。蓋の先についているボルトを少し緩めます。このとき既に、ビーカー側にも少量ながら油が落ち始めています。早いぞ!


 引き続き、胡麻ちゃん達を足しながらハンドルをぐるぐる。


 ――うんうん、胡麻らしい重さを感じはじめた。これは緩めねば。


 第二回減圧。そして胡麻ちゃん追加投入。

さらにハンドルをぐるぐる。香ばしい胡麻の香り。


 ――うーん、回らなくなってきたぞー。


 片手でテーブルを押さえつつ、もう片方の手でハンドルを回します。この頃はもう、腕だけでなく全身を使ってハンドルを回しています。それでも皮つきより楽に搾れていて、油がいつもより若干多い気がします。第三回減圧。


 胡麻ちゃん追加投入でさらにハンドルぐるぐる。胡麻の香りは香ばしいを通り越して、ちょいと焦げ臭いです。

 いやぁ、ここまでくるとそう簡単に回りませんね。90度ずつ、自分自身も位置を変えながらなんとか回している感じ。既に息も上がりはじめ、汗だくになっています。


 ――こりゃボルトそろそろ外すか。えいっ♪



 異変はここで起こりました。


 プシューッ


 ――ん?


 突然の蒸気音。その音とともに、ボルトを外した蓋の中央部とその下の小さな二つの油かす放出用の穴から、凄まじい勢いで飛び出す油かすッ!



 ――わーっ! なんじゃこりゃあ……



 うねうねと暴れながら、のた打つ三匹のミミズのように、空中をひたすら伸び続ける胡麻の油かす最大径12mm。

 しかも硬い! 止まらない! いつまで続く? いつ終わる?

 うわーっ、引火したら怖いからアルコールランプ方面には伸びてくれるなよッ! だからそっちは……えーい折っちゃえ! 何故そっちにこだわる? 火に向かっちゃイヤだああぁ~


 数分後、ようやく落ち着く油かす。そろそろ再開できそうね。胡麻ちゃん達を追加投入してハンドルを回すと……



 ――ん? 圧がない……



 油かす抜きの穴からボロボロと、そのまま落ちる胡麻ちゃん達。ボルトをめようにもネジ山は先ほど噴出した胡麻の油かすの残りでガッチガチに固まっていて、ネジの入る余地なし。


 ――マジでございますか……


 いったんアルコールランプを外して火を消します。軍手をはめて、熱々の蓋を取り外します。大急ぎで外に行き、蓋に残った油かすをノミと金鎚でガンガン割って削って20分くらい。蓋の中の油かすを全て取り除いて、ようやくリセット完了です。

 20分……外皮つきよりは早いぞ♪


 本体に再度蓋をセット。蓋の先にはボルトをしっかりセット。油かす抜きの穴はボルトで完全に閉まっています。

 今までに溜まった胡麻油を一次《》濾過ろかすべく、大きめの瓶にこれまた大きめの漏斗ろうとを置いて、油濾あぶらこし紙をセットして一気に流し込みます。100ml前後だからできる荒技。

 改めて、アルコールランプに火をつけて本体にセット。ほぼ空になったビーカーを油受けにセット。さてさて、作業再開しましょうか。



 むき胡麻ちゃん達を追加投入して、ハンドルぐるぐる。また少しずつ、重くなっていきます。早くも胡麻の香ばしい香り。黒胡麻で搾ったら、きっとさらに香りが強いだろうなぁ……

 追加投入。重くなってきたぞっと。第一回減圧。

 追加投入。まだなんとか腕でハンドルを回せるけれど、なかなかの重さ。第二回減圧。

 追加投入。そろそろ胡麻切れだけど、息は荒く全身運動に移行。そして焦げ臭い……第三回減圧。

 最後の追加投入。油かすがほんの少し、かす抜きの穴から顔を出しています。薄茶色だった油かすが、褐色に変化。本体の筒の中では、搾られた油の一部が沸騰している音が……


 ――そろそろいつ油かすが飛び出してもおかしくないぞ。


 荒い息を整えながら、圧が落ち着くまで慎重にハンドルを回し続けます。

 結局、油かすが飛び出す前に圧搾終了。アルコールランプを消してっと……さて、急いで蓋のお掃除だッ!



 熱々の蓋の前に、ボルトを外して台所の流し台へ。置いたところにたまたまあった水滴が、じゅうじゅう音を立てています。あっついぞー。水をかけておこう。

 蓋を外して外に行く……前に、筒に残った油かすを抜くべくハンドルぐるぐる。よし、スクリュー型の黒褐色の油かすが抜けたぞっと。

 大急ぎで再び庭へ。金鎚とノミとでひたすら油かすを砕きます。飛び散ったかすは植物の肥料になるので良し。

 約30分、若干時間はかかったけれど、きれいに油かすの塊を砕き取れました。

 

 部屋に戻って洗い物。その前に、後から搾った油も一次濾過。今回はだいたい300gくらいのむき胡麻から160mlくらい? うん、そこそこ成績いいぞ♪


 洗い物を済ませてから、一次濾過した油を二次濾過します。濾紙ろしだけだと目詰まりするので、お茶パックを畳んだまま濾紙の上にセット。油に混ざった、ある程度細かい果肉を受けてもらいます。

 不純物の少ない上澄み部分は、すんなりと濾紙を通って瓶の中へ。澄んだ薄い琥珀こはく色の液体が少しずつ保存用の瓶にまっていきます。

 不純物が混ざってくると、濾過速度ダウン。けれど、お茶パックを間に入れたことで目詰まりが起きにくくなっているようで、いつもより若干ですが濾過速度は速いです。当たりだな、これ。


 外皮がない分、少し圧搾時の圧は下がりますが、あまり大きな差はありません。

 香ばしい香りは若干落ちます。外皮の焦げた匂いが香ばしさ成分としちゃ強いんですね。

 油に落ちた胡麻の果肉の量もやや多め。外皮に守られていない分、飛び出しやすかったようです。


 グラムあたりで取れる油の割合は若干上がりますが、胡麻の単価を考えるとむき胡麻はかなり高くつきます。太白たいはくというほぼ加熱せずに搾る油を作るとき、生のむき胡麻を使うのはアリかな。けれど、それ以外だとちょっと考えちゃうなぁ……




 その日の15時ごろに始めた二次濾過。160ml弱のこいつの濾過が完全に終わったのは、翌々日の朝でした。


 私、気は長いほうですが、とうとう減圧濾過げんあつろか装置、いわゆる吸引濾過きゅういんろかに使う器具(でも電動ポンプは高いから手動式ね)に手を出すことを決意。購入に踏み切ったのでした。

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【実験シリーズ】搾る 鬼無里 涼 @ryo_kinasa

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