第2話 胡麻油を搾る

 我が家にやってきたPITEBA社の手動式搾油機。テーブルマウント部品なしで無理やり固定した初回は、前回のお話の通り、えらく苦労をしました。

 そこでテーブルマウント部品を取り寄せて再挑戦。今回はこのお話です。



 テーブルマウント部品と言っても、テーブルに穴を開けたくない人(なにせ我が家は普段使いの食卓ですから)が油搾り器をテーブルに固定するためのもの。本体をビス止めする厚手の鋼鉄製の脚(幅広)と、L型クランプふたつのセットです。

 考え方は前回の私のやり方(C型クランプでテーブルに固定)と一緒です。けれど、幅の広い脚がついてテーブルとの接地面が広くなった分、両側を押さえても採取用のびんが余裕で置ける♪

 しかも本体の取り付け位置が少し高くなるので、油が垂れても本体は滑りづらくなります。ありがたい♪



 筒の先端につける蓋には通常タイプとオリーブオイル採取用の2種類があります。先端に向かって径がすぼまっていく通常仕様と、円柱状のオリーブオイル用。とりあえず一度両方試してみよう! 前回は通常タイプだったから、今回はまずオリーブオイル採取用で。


 アルコールランプに灯をともし、本体にセットして筒を暖めてっと……

 搾る原料の白胡麻ちゃん達を軽く炒って暖めて……

 採取用の瓶も本体にセットして……



 ――よーし、搾るぞ!



 筒上部にセットした漏斗ろうとに胡麻ちゃん達を少し入れて、ハンドルを回し始めます。ぐいぐいと前に押し出されていく胡麻ちゃん達。蓋の切れ込みから通常タイプよりたくさんの油がにじみ出てきます。効率いいなー。

 でも効率がいいということは、圧力がすごいってことで……



 ――ぐぬぬ、重い! 半端なく重い!!



 ハンドルが曲がりそうな重さ。暴れ浮くテーブル。すぐに回らなくなったハンドル。蓋の全面に取り付けた大きなボルトを緩めると……



 ――やっぱりダメ! 全然動かないッ!



 通常タイプだとこれで少しはハンドルが動いてくれるのですが、動く気配なし。


 ――材料が少ないから押し出されてこないとか?


 ダメもとで胡麻ちゃん達をちょっぴり追加投入。鬼の形相でハンドルを回そうとします。


 ミシッ……ミシミシッ……


 ――うわっ、テーブル天板が悲鳴を上げてる!


 肝心のハンドルはちょっと回ったけれど、これ以上の胡麻追加投入は危険。テーブルが持たないです。

 ここで一旦いったん搾油さくゆを断念。通常の蓋に変えます。



 筒先端の蓋を通常タイプに変えて少し暖まったところで、搾油再開。


 まずは白胡麻ちゃん達を追加投入して、ハンドルを回します。


 ――うん、回る回る♪


 すぐに重くなってくるハンドル。蓋の先のボルトを少し緩めて……


 ――うん、大丈夫。さっきよりはるかに楽。


 更に白胡麻ちゃん達を追加投入。


 ――ぐ……回らなくなってきた。


 ボルトを更に緩めて……


 ――うん、重いけど回る回る。


 本体の筒の下に開いた切れ込みからは、ポタポタと採取用の瓶に新鮮な胡麻油が落ちています。よーし、また胡麻の追加投入!


 ――ぬおー重い! 汗だく……


 更にボルトを緩めて……


 ――わっ、胡麻油がポタポタじゃなくて筋で落ちてくる! じーん……


 とするのもつかの間、回らなくなるハンドル。暴れて悲鳴を上げるテーブル。やっぱりかすが蓋の小さな穴から出てくれません。蓋の先のボルト取らないと、滓の圧でこれ以上回せない(涙)。



 ――搾油効率落ちるけど……えーい、取っちゃえ!



 ボルトを外し、再び鬼の形相で回すハンドル。動くテーブルを片手で押さえつつ、もう片手の手で体重を乗せながら回していきます。

 最初は重くて僅かずつしか回せなかったハンドルが、次第に回り始めます。

 と言っても、全然軽くはないのですが⋯⋯


 重いながらも順調に回ってくれるようになったので、少し回しては胡麻を追加投入を繰り返し、約100グラムの白胡麻ちゃん達から50cc弱の油を搾りました♪

 まだ切れ込みからこぼれた胡麻や細かい果肉が混ざった状態なので、濾過したら減るけれど。今回はこれで終了~。


 ――あ、若干テーブルが変形してる⋯⋯


 ま、ほぼわからないくらいの変形ですが……うわ~……



 搾り終えたら最初にアルコールランプの火を消し、すぐに軍手を嵌めて蓋の取り外し。何を置いてもまずは蓋にぎゅうぎゅう詰めの滓を取らなくちゃ!



 説明書に書かれた「冷めると石のように固くなります」は嘘ではないのですが、胡麻100パーセントの塊は熱くても充分に石です⋯⋯⋯⋯



 舞台は我が家の庭へ。前回引っ張り出した篆刻てんこく刀に加え、革細工に使う平目打ちも出動。金槌も持ち出して、とにかく急げぇ!



 頑張って砕きました。オリーブオイル採取用は胡麻の層が薄めだったので、取り外して通常タイプを暖めている最中に大半を砕いて取り除いていたのですが、圧力対策で入れているワッシャーと蓋本体の間に挟まった層が全く取れず、とりあえず湯煎ゆせん中。

 通常タイプはガンガン目打ちを打ち込んで少しずつ砕いていくのですが、金槌で打つ鋼の目打ちのお尻がどんどん変形していく⋯⋯

 6mm幅はお尻だけですが、細めな3mm幅は刃が曲がっていく驚異の硬さ……篆刻刀も似たようなものです。


 ――同じ曲げるなら、まだ廉価な平目打ちを……苦渋の選択。


 本当に胡麻100パーセントなんですよ。混ぜもの一切していないですよ。

 これ、むき胡麻だったらここまでの硬度出ないかもなぁ……


 そんなこんなで1時間ちょっと。ようやくほぼ砕き取ることができました。初日より早いぞっと♪


 湯煎していたオリーブオイル採取用のワッシャー隙間部分と、通常タイプのネジ山部分にこびりついた胡麻油滓は、これまた革細工に使う先曲がりのひしギリでこじって取りました。すごい圧力で固まった塊だけに、うまく押し出せればネジ山や隙間そのものの形でボロッと落ちてくれます。気持ちいい♪


 オリーブオイル採取用の蓋の先に押し付けられたワッシャーが取れたのは、こじり始めてから20分くらい経った頃でした。苦戦したなぁ……


 本体をバラして食器用洗剤で洗い、錆の出ないうちに水気の拭き取り。

 キッチンペーパーで胡麻油の大きな混入物を濾して、コーヒー用のペーパーフィルターと100均漏斗で濾過ろか開始。


 ――うん、相変わらずドモ○ルン○ンクル並のゆっくり滴下ね。


 油の粘度が高いから仕方ないのだけれど。


 ――吸引濾過きゅういんろかやりたいなぁ……


 濾過を始めて時計を見ると、準備開始から約4時間が経っていました。

 もう夕方。きっとこの油の濾過は明日の午前中には終わらないでしょう。


 この労力と濾過速度を考えたら、胡麻油は買ったほうが安いかもなぁ……器具を片付けながら、そんなことを考えてしまいました。

 でもこの汗だく作業、そんなに嫌いじゃないです。それに市販の太白胡麻油と焙煎胡麻油の中間くらいの色合いの自家搾油の胡麻油はすごく良い香り。

 よーし、我が家で取れた胡麻を今度は使おう♪



 実際、この油を使って作ったドレッシングは、おそろしく美味でございました。

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