第214話 応援中のちょっとしたトラブル




 あえて聞こえるような男達の大きな声に、俺は視線を奪われてしまう。


 5人ほど固まっており、一見チャラそうだがガラは悪くなさそうだ。


 全員の容姿が中性的で整っており、前に会ったディニーズ事務所の『御手洗みたらい 勇李ゆうり』のような雰囲気に似ていた。

 やたら色白でピンクの唇といい、睫毛とか異様に長いところを見るとメイクしているのか?


 所謂、メイク男子ってやつか。


 ちょっと小洒落れたK-POPアイドルっぽい。

 流暢に喋っているから日本人なんだろうけど。


「あの子、マジで良くね!?」


 路美のこと、まだ言っている……。


 周囲の男達も自分の好みな子を見つけては大声ではしゃいでいる。

 一体、何目的で来ているんだと言いたい。


 しかし俺もついさっきまで彼女のユニフォーム姿に新鮮さを感じていた手前、どうこうは言えない。

 一つ言えることは、内心で思うは誰でも自由だけど、わざわざ周囲に聞こえるような声で騒ぐのは不謹慎だ。


 試合をしている子達は真剣であり、この日のために一生懸命に頑張っいるんだからな。

 観客側も敬意持って応援するべきだと思う。


「……副会長、あの連中はなんなのでしょうか? 周りを気にせず、どんちゃん騒ぎ……ちょっとイケメンだからっていい気になっているんじゃないでしょうか?」


 後ろに座る黒原も、わざわざ俺にだけ聞こえるように耳打ちしてきた。

 前半は良しとして後半部分は奴自身のやっかみに聞こえる。


「まぁ、そうだな……でも他校っの奴らぽいし、注意する内容でもないだろ」


 下手なトラブルになるだけなので、基本スルーが一番だ。


「よし、俺が注意してやろう」


 何故かシンが席から立ち上がる。

 色々な意味で一番行っちゃいけない奴だ。


 俺は慌てて止めに入る。


「やめろ、シン! いちいち構っていたらキリがないだろ!?」


「……しかし、軍侍は同じ生徒会であり大切な後輩でもある。彼女を冒涜する言動は座視できない」


「別に試合が妨害されているわけじゃないし、見る部分は人それぞれだろ!? なぁ、リョウ!」


「ああ、サキの言う通りだぜ。俺も興奮しすぎて『ぶっ倒せぇ、コラァ』とか叫んじまって、千夏に怒られちまったからな……人のことは言えねぇ」


 リョウじゃないけど、俺も心の中で路美のユニフォーム姿とスタイルを絶賛していた手前、説得力はないと思う。


「……そうだな。騒がしてすまない」


 シンは納得し席に座った。

 隣にいる天宮さんと来栖さんから、「シンくんは正しいし何も悪くないよ……」と慰めの言葉が掛けられている。


 その度に後ろの黒原が「クソがぁ……」と俺だけに聞こえるように愚痴を零していた。


 俺も普段、そういう風に思われているのかな……。




 後半戦が終わり試合終了となる――。


 接戦したものの、ウチの高校が負けてしまった。


 路美達バスケ部員は落ち込み、悔しさで涙を流している女子もいる。


「……惜しかったな。僅差だったのに」


「そうね……軍侍さんもみんなも良く頑張ったと思うわ」


 俺と麗花は健闘を称える。

 後で励ましの言葉を掛けてやろうと思った。



「――泣かないで~、俺が慰めてあげるよ~ん!」


「ギャハハハ! ウケる~~~! ハグして頭なでなでしてやんよ~!」


「お前、そのまま持ち帰る気満々だろ~、ハハハハッ!」


 相変わらず例の男達が騒いでいる。


 試合終了後のしんみりした雰囲気なので余計目立っている。

 まるで空気を読んでいない様子だ。

 つーか、こいつら、いくらなんでも不謹慎すぎないか!?


 路美が一生懸命に挑んでいた試合が脳裏に過る――。


 気づけば、俺は無意識に席から立ち上がっていた。


「ちょっと、あんた達、頑張った選手達に対して失礼じゃないか?」


 駄目だ。抑えようと思っても自制ができない。

 基本、この手の連中が嫌いなだけに余計だ。


 言われた男達は一瞬だけきょとんとし、すぐに鼻で笑ってくる。


「誰だよ、こいつ~、てか何様?」


「俺は試合していた生徒と同じ学校の者だ。だから不愉快なんだよ」


「んなの言っているだけだろ? 俺らが実際に何かしたわけ?」


「あんたらがどう思うのは勝手だ。だが、わざわざ周りに聞こえるような声で言う台詞じゃないだろ? 少しは場をわきまえろって言ってんだ」


「なんだよ~、口やかましいオッさんみたいな奴だな~! 先公かぁ、こいつぅ~!?」


 思った通りのリアクション。


 俺を嘲笑い、まるで詫びる様子は見られない。

 注意すればしただけ、こっちがムカつき馬鹿らしくなる。


 けど言わずにはいられなかった……。


 路美が生徒会と部活を併用して一生懸命に頑張っていた姿を見ていただけに――。

 彼女の名誉を守りたかったんだ。


「サキ君、行きましょう。馬の耳に念仏って言葉もあるわ。あえて貴方が嫌な思いをする必要はないわ」


 麗花は連中に見せつけるように、俺の腕を取り抱き着いてくる。

 密かに豊かな胸が二の腕に当たり、張があってしかも柔らかい。


 俺は幸せを感じると同時に胸がドキドキして顔が火照ってしまう。


 男達は麗花を見た途端、表情が変わる。


「なぁに~、このネェちゃん! 凄げぇ美人なんですけど~!?」


「やばぁ、超マブぅ! しかもスタイルも抜群じゃね!?」 


「ねぇ、キミぃ~、俺達とカラオケでも行かな~い?」


 今度は、必要に麗花を口説き始める男達。

 やりたい放題だな、こいつら……。


 当然、麗花が靡く筈もなく、完全に無視して連中に見せつけるように俺に寄り添い腕を引っ張ってくる。

 奴らから見れば、俺と麗花は仲睦まじいカップルに見えるんだろうな……。


「んな堅苦しい地味な彼氏より、俺らの方がイケてんじゃね?」


 悪かったな地味でよ。

 もう散々、モブとか雑魚と言われ慣れているから何とも思わねーわ。


 だが、この男の一言で沈黙していた麗花の表情が変わる。


「サキ君は地味なんかじゃないわ! 貴方達こそ男子の癖に化粧メイクなんかして気持ち悪い! 仮装大会にでも出るつもり!?」


 俺を庇いつつ、思いっきり連中をディスり始める。

 塩姫を通り越して、『毒舌姫』と化していた。


 流石にムカついたのか、男達は黙り込み麗花を睨みつけてくる。


 麗花はそっぽを向き、より強く俺の腕にしがみついた。

 その態度が余計、男達を刺激し、ちょっとした一触即発の状態を招いているようだ。


 自分で撒いた種とはいえ、厄介な展開になってしまった。


 大切な麗花を守るためなら、たとえ5人が相手だろうと戦えるちゃ戦えるし、後方には人間凶器のシンと最強の元ヤンであるリョウがスタンバっているので問題はない。


 しかし、こんな総合体育館内の大衆前で暴力沙汰はマズいだろう。


 ましてや麗花と俺は生徒会の会長と副会長だからな……。

 絶対に他の生徒や先生達にもバレる。


 ここは俺が謝るべきか。

 けど謝る理由なんてないし、折れる理由もない。


 何より、路美を軽視し侮辱した言動の数々は許せない。


 いざとなったら場所を変えて……。


 そう考えていた矢先だった。


「――やめろよ、みんな」


 5人の男達の中から澄んだ声が聞こえた。


 一番後ろに座り、ずっと黙っていた男。

 如何にも脱色したふわふわの金髪。

 透き通った中性的な顔立ちで、切れ長の双眸。

 他の男達より一番薄いメイクだ。


 高身長で手足が長く、全身がすらりとしている。

 それこそ、男子アイドルのようだ。


 他の男達4人が一斉に彼を注目している。

 あからさまにリーダー格って感じだ。


「その彼の言う通り、悪ふざけした俺達に非があるんじゃね?」


 金髪の彼がそう言うと、4人は「まぁな……」っと理解を示す。

 彼が口を開いた途端、まるで借りてきた猫のように男達は大人しくなったぞ。


「……わかってくれればいいんだ。俺達も言い過ぎて悪かったよ」


 俺は後腐れがないよう詫びるところは謝る。

 特に麗花がディスり過ぎたと思う。


「まぁ、お互い熱くなりすぎたようだからな……キミ、名前は?」


「お、俺?」


 いきなり名前を聞かれたので戸惑ってしまう。


 金髪の彼はフッ微笑み、頷いて見せる。


「そうキミ」


「神西だよ」


「そう、俺は鶴来つるぎ。対戦相手だった、鮫工高校の者だ」


「へ~え」


 あまり興味のない、俺。


「それじゃ悪かったな……」


 鶴来は言うと、4人の男達と共に立ち去って行った。


 何なんだ一体……。



 緊迫した空気が解放され、俺はホッと胸を撫で下ろす。


「……副会長。僕も奴らにイラつくと思ったんですよ。頑張っている人が笑われるのは」


 うん、黒原。

 だったら、俺の後ろでこそこそ呟いてないで、お前も正面に立って言えば良かったじゃん。


 とても良いこと言っている筈なのだが普段が酷いだけに、この男に対して敬意が抱けなかった。




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勇者と呼ばれる男の幼馴染達を気がつけば寝取ってしまった話……いや誤解なんですけどね(汗) 沙坐麻騎 @sazamaki

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