第213話 後輩女子の応援に行ってみた




 しばらく黒原は、シン達の新たなハーレム・フレンドズに向けて奇声を発していた。


 最近それなりに見慣れているものの、駅前である公共の場での奇行は目立って仕方ない。

 全員がドン引きし、もう手が付けられない状態となっている。


 黙認していた麗花がついにキレて「黒原君、いい加減にしなさい!」と、一喝入れることでようやく収まりを見せた。



「……すみません、生徒会長。つい取り乱してまって、例えるなら同じ土俵だと思っていた者に裏切られた気分に陥ってしまいました」


 黒原の気持ちもわからなくもない。

 ずっと「ぼっち仲間として黒原君のこと尊敬しています」と慕っていた奴が、ある日突然可愛い女子友達を二人も連れて現れたんだからな。


 しかも女の子二人は、あからさまシンに気がある様子を見せつけられる始末。

 黒原にとっては最大の下剋上に値するだろう。


「黒原君、誤解しないでほしい。ユウリとアズサは俺にとって大切な友達だって言ったろ? 勿論、黒原君も尊敬すべき大切な友達に変わりないからな」


 シンなりにフォローを入れているようだが、ちっともフォローになっていない。

 寧ろ「大切」というワードが出る度に、天宮さんと来栖さんが頬を染めてデレている。

 女の子達は気があるどころか、完全にぞっこんじゃないか……。


「……もういいですよ、浅野君。キミは本来のイケメンとしての能力を正しく発動させたのでしょう。しかし年末とはいえあまり自分を安売りしてはいけませんよ……バーゲンセールじゃあるまいし……どうか、その二人を大切にしてください。決して人員を増やしてはいけませんよ、ハイ」


「わかったよ、黒原君。俺はサキの二の舞にはならないよ……」


 おい、シン!

 なんか聞き捨てならないワードが出て来たぞ!


「黒原君、初めはムカっとしたけど、最後の方でシンくんにいいこと言ってくれたねぇ、ありがとう!」


「黒原ぁ、ガム食う?」


 さっきまでドン引きし仏頂面だった天宮さんと来栖さんは、自分ら以外の増員なしと判明したので機嫌が良くなった。


「……僕はただ浅野君に正しき道を忠告したまです。ガムは頂きましょう」


 なんか俺が間違っているような言い方をしてきやがる。

 俺って連中にどんな目で見られているんだろう……。


「よし、みんな集まったし、ほんじゃ応援に行こーぜ!」


 ゲスト扱いで来た筈のリョウが場を仕切ってくれる。

 



 それから俺達は電車に乗り、総合体育館へ辿り着いた。


 清潔感が溢れる広々とした体育館だ。

 二階にある観客席に俺達は座る。


 丁度、アリーナに我が校の生徒と他校の生徒がバスケの試合をする寸前だった。

 なんとか間に合ったようで安心する。


「……路美はどこにいるんだ?」


 俺は試合よりも、後輩である路美の姿を探してみる。

 いたいた――控え席に座っていた。


 バスケのユニフォームを着てスタンバっている所から試合には出れるようだ。

 試合の流れやタイミングで出るのだろう。

 それまで見守ることにする。


 しかし、路美の初めて見るユニフォーム姿。

 新鮮でいいなぁ。

 童顔の割にはスタイルの良い子だったけどガチだと思った。


 いかん、いかん……そういう目で見ちゃ。

 純粋に彼女とチームを応援しないとな。


 

 あっと言う間に前半戦が終わり後半戦になる。

 数点差だが俺達の高校チームは負けているようだ。


「技量は同等でも、相手チームとのフィジカルに差が出ているようね。このままだと後半戦も危ないわ」


 俺の隣で麗花が試合を分析して語っている。

 いっそ彼女がコーチングした方が、チーム全体がレベルアップするんじゃね? っと思った。


「まぁ勝負は勢いもあるからね。まだどう転ぶかわからないよ」


「そうね……恋愛だってそうだもの」


「え?」


 麗花からの思わぬ言葉に、俺は聞き返してしまう。


「なんでもないわ……最近、不安が過るだけよ」


 そう言いながら周囲にバレないように、ぎゅっと俺の手を握ってくる。

 しばらくぶりの感触と温もり。


 俺はドキドキしながら、麗花の横顔を見つめる。

 けど彼女は、どこか切なそうな瞳で試合を眺めていた。


「……麗花、どうしたの?」


「ごめんなさい……最近、色々あって情緒不安定かもしれないわ」


 眼鏡をずらし、切れ長の目尻を指先で拭っている。


 色々あってか……。


 確かに三年生の件では、みんなに嫌ってほど心配かけさせたな。


 ――それに、美架那さんのことも。


 しかも一昨日、詩音に問い詰められた件もあるし……。

 

 美架那さんが俺のこと好きかもしれないってこと――。


 本人は「そういうつもりはない」って否定していたけど、なんていうか……自惚れじゃないけど、麗花達に遠慮している風にも捉えられる。


 もし本当だったらと思うと嬉しさ反面、迷ってしまう。


 結局、いつも俺の歯に衣着せぬ態度が彼女達を不安にさせているのが原因なわけで……。



 ぎゅっ。



 俺は麗花の手を強く握り返した。


「……サキ君?」


「俺はずっとみんなの傍にいたい……これだけは嘘偽りのない本心だからね」


「ありがとう……ごめんなさい。私は愛紗や詩音と違って不器用な女だけど、サキ君と出会えて……こうして一緒にいられて凄く幸せよ」


 麗花は俺だけに見せてくる、綺麗で優しい笑顔を浮かべる。

 

 俺はホッとするのと、同時に胸がきゅっと絞られる。

 みんなを守りたいと思いつつ、不安にさせてしまっている自分が情けなく感じてしまう。


 麗花は不器用なんかじゃない。

 いつも先頭になって誰よりも頑張っている女の子だ。

 それを理解しているからこそ、俺は生徒会副会長として手上げしたのだから……。


 少しでも彼女の助けになればと……そして傍にいて守ってあげればと思ったんだ。

 許されるなら、これからもそうしていきたい。


 そうしていきたいんだ……。



「――サキ君。軍侍さんが試合に出るみたいよ」


 麗花が教えてくれる。


 俺は、ハッと意識を変えてアリーナ会場に視線を向けた。



 路美は他選手と交代し、試合に参加する。

 

 相手選手にぴったりマークしているいい動きだ。

 生徒会と兼務して、よく頑張ってくれていると思う。


 本当にいい後輩であり女の子だ――。

 

 そういや、路美も俺に好意を抱いてくれているんだよな……。


 けど路美は俺の心情も知っているから迷惑にならないよう、いつも自分から一歩も二歩も下がって健気に見守ってくれているんだ。


 だから俺も、路美のこと邪険にできなく、つい色々と関わってしまう。


 こうして、みんなで応援に来ているのも、俺が発信源だし……。


 黒原やシンじゃないけど、やっぱり俺が問題なのだろうか?



「――副会長。せっかく軍侍さんの応援に来ているのですから、ここはみんなで声を出して声援を送った方がよろしいのではないでしょうか?」


 俺の後ろで座っている黒原が提案してきた。


「ああ、そうだったな……つい、ぼーっとしてたよ。教えてくれてありがとう」


「……いえいえ(神西君、キミが生徒会長が、こっそり手を握り合ってイチャついているのはお見通しですよ……しかし羨ましいなぁ、おい! しかし恒例の『ヒェェェイ』は抑えておきましょう)


 黒原の本心を他所に、俺は路美へ声援を送る。

 

 考えてみりゃ、俺って人前で大声を出すのが恥ずかしいタイプだった。

 こういう場面で、盛り上げ隊長の詩音がいてくれればどんなに心強いだろうか……。


 だけど、俺は頑張って声を出す。


 麗花も俺から手を離し、自分の手を叩いて彼女なりに一緒に声援を送ってくれる。

 そしてシンや黒原も俺達に見習って声を出して応援していた。

 

 気がつくと、生徒会が一丸となって路美を応援している。


 但し、リョウだけは時折、「ぶっ倒せーっ、オラァ!」とか興奮して物騒なことを叫んでいるので、千夏さんに怒られていた。



 そんな中。



「おっ! あの後半戦から出て来たツィンテールの女子、かわいくね~!?」


 俺達から少し離れた席で固まって座っている同年代風の男達がテンション上げて騒いでいた。


 後半戦から出た、ツィンテールの女子だと?


 路美のことか?




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