いたずら子猫
雨世界
1 夏の日。君と出会い、冒険をする。
いたずら子猫
登場人物
立花水 小学生の男の子
大葉美花 小学生の女の子
プロローグ
君のいる場所。
あ、こら、待て。逃げるな。
本編
夏の日。君と出会い、冒険をする。
どこに行くの? そっちは危ないよ。
ポニーテールが揺れている。
その動きは、まるで逃げていく猫の尻尾のようだった。
立花水の前を大葉美花が走るようにして、逃げ出して行ったのは、日曜日のお昼頃の出来事だった。
水にはどうして美花が突然、自分のいるところから逃げ出して行ったのか、あるいは、どうして美花が泣いているのか、その理由が全然わからなかった。
でも、とにかく水には自分の前を走る美花を追いかけることしかできなかった。人気の少ない広い公園の中で、こうして水と美花の突然の追いかけっこが始まった。
「待ってよ! どうして逃げるの!」
そう言っても、美花は返事をしてくれなかった。
ただ、前だけを向いて、とても素早い身のこなしをして、木々の間を縫うようにして、大地の上をすごい速さで走り続けていた。
水はただ、そんな美花の風に揺れるポニーテールの髪型の動きだけを目で追うようにして、全力で公園の中を美花を追いかけて走り続けた。
汗をすごくかいた。
息が苦しくなって、足の裏もすごく痛くなった。
夏の太陽が、公園の地面の上を照らし続けている。世界はきらきらと、とても輝いて見えた。
その輝きの中に、美花はいた。
緑色の大地の上に、はっきりと水と美花の黒い影が残っていた。
水はそうやって、美花のことを追いかけながら、昔、もっと水が小さかったころ(今の水も、やっぱり小さい子供なのだけど)見つけた小さな子猫を追いかけて、「待って、待ってよ」と言いながら走っていたときの記憶を思い出した。
あの子猫はどこに行ってしまったんだろう?
僕の家では猫を飼っていないから、きっとこの世界のどこかに逃げて行ってしまったのだろうと、そんなことを水は思った。
美花の走る速度は全然落ちる気配がなかった。(美花は走ることがとても得意だった。反面、水はあんまり得意じゃなかった)
水はついにその足を動かすことができなくなった。
ゆっくりと速度を落として、まるで歩くようにして、肩で息をしながら走っている水が前を見ると、そこにはちらっとこちらを見て、水の様子を伺っている美花の顔が見えた。
美花はやっぱり、泣いているように見えた。
その顔を見て、水はもう一度、根性を出して、頑張って走り続けることにした。
「待って!! 待ってよ、美花ちゃん! どうして逃げるの! なにか僕、美花ちゃんが怒るようなことしたの!!」
水は言う。
でも美花は水の言葉に返事をしなかった。(聞こえているとは思うけど、返事は全然してくれなかった)
そうやって、公園の噴水の前を通り過ぎて、だんだんと人が多くなって、ちょっとだけ恥ずかしい思いをしながら、水は美花と追いかけっこを続けた。
これは無理だ。美花ちゃん。速すぎる。絶対に追いつけない。
はぁ、はぁ、と息をしながら水は思う。(水は全身汗だくになっていた)
ついに水は力尽きて、公園の芝生の上に倒れこんでしまった。
そして、心の中で、捕まえてあげられなくて、ごめんね。美花ちゃん。と美花に心から誤った。
すると、しばらくしてそんな緑色の地面の上に寝っ転がっている水の顔の上に真っ黒な影ができた。
太陽の光と、気持ちのいい風を遮るようにして、その場所には一人の女の子が立っていた。
それは、大葉美花だった。
美花はどこで見つけてきたのか、その両手に小さな子猫を抱きしめていた。小さな三毛猫の子猫。その子猫は、どこか昔、水が捕まえようとして追いかけていた子猫にとてもよく似ていた。
「美花ちゃん。その子、どうしたの?」水は言う。
「さっき、そこの木陰で捕まえたんだ。迷子になっていたから」とにっこりと笑って美花は言った。
美花はなんで自分が泣いていたのか、どうしていきなり自分から逃げるような行動をとったのか、そんなことはまったくなかったかのようにして、にっこりと笑って水に言った。
「そうなんだ」と水は言った。
「ねえ、立花くん。この子猫のお母さん。探すの手伝ってよ」と水の頭の横にゆっくりと座り込んで、太陽の光に目を細めている子猫の頭をそっと優しく(まるでお母さんのように)撫でながら、美花は言った。
「いいよ。もちろん」とにっこりと笑って、汗だくの水は言った。
すると美花は「ありがとう」と言って、にっこりと、太陽の光を背にして水の顔の近くで笑った。
その涙の乾いた笑顔を見て、水は、美花のことが好きになった。
(それから、公園の中を二人で探すと、お母さん猫は見つかった。迷子の子猫はお母さん猫と一緒に公園の緑の中に消えて行った)
捕まえた。
……捕まっちゃった。
いたずら子猫 終わり
いたずら子猫 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます