「大輔。傘持っていかなかったでしょ?」

 6月中旬を迎え定時で帰ろうと準備をし会社を出て歩くと内田が目の前で歩いていた。

「あっ」

 こっちの方に気づき引き返して歩ってきた。

「センパイ一緒に帰りましょ」

「ん、いいよ」

 そのまま駅の方に歩くと段々と暗くなっていき、曇り空が一瞬に空一面に覆い尽くしていた。

 さっきまであんなにも快晴で晴れていたのに全くすぐに変わるなこの季節は……。

「これは降るか……」

 浮かない顔をしていたら内田が横に立ち空を見上げていた。

「かもしれないっすね。降水確率50%って言ってましたし」

「マジか……」

 50%というと降るか降らないかぐらいと思うが今の時期はわからない。いきなりゲリラ豪雨になる確率になるから困る。

 おまけに傘なんか持ってないから本当に困ったもんだ……。

「6月は結構降りますね……」

「そうだな。雨はめんどくさいな。水たまりのところ入ると靴がぐちゃぐちゃに濡れるから嫌だ」

「あーわかるっす。靴下まで濡れてると気持ち悪いですよね。暑くて死にそう……」

「わかる」

 湿気と人の密集で蒸し風呂状態だから少し気持ちが滅入る……。

「なんか飲み物いるか?」

「あざーす」 

 売店に向かい内田はポカリを選んで飲んでいた。

「あー! 生き返る」

 内田の顔からは幸せそうな表情になっていた。

「そういえば姫と遊んだんだっけか?」

 前の休みの日に内田と遊んだって姫が言ってた。

「そうっすね。ケーキとパスタを食べて食事したっすよ。また姫ちゃんと遊ぶんで宜しくっす」

「おう、気をつけて帰れよ」

 内田は軽い挨拶をし違う方面の電車に乗るのだった。

「俺も帰るか……」

 飲んでたコーヒーを飲み干し電車に乗り込んだ。

 すると窓ガラスの方から水滴が付き。すぐに大雨に切り替わった。

「あ、さっきの所で傘買っておけば良かった……」

 まあ、駅に着いたらコンビニに寄って買えばいいか……。

 自分の最寄りの駅に着きすぐさまコンビニに向かいビニール傘探してみると売り切れだった。

「マジか……」

 やっぱりみんな考えていることは同じだな。

「どうするか……」

 傘が手元にない。走って帰れるか? まあ、多少濡れる程度だ。

「走るか……」

 少し屈伸をしていると赤い傘を持った女の子がこっちに近づいてきた。

「姫……」

「大輔。傘持っていかなかったでしょ?」

 ニコッと笑いながら黒い傘をさっと渡して来た。

「ありがとう」

「えへへ」

 こんな雨の中持ってきてくて嬉しかった。

「帰ろっか姫」

「うん」

 傘を開き家に歩いていく。

「ねぇ大輔。この雨で大輔は何の絵を描く?」

「うーん。この雨でか」

 ふと姫の方を見つめ思い浮かんだのは、

「傘を差している女の子かな」

「あ、同じだ」

「ん、そうなん?」

「私はカッパを着て傘をさしている子を描こうかなって大輔を迎える途中で思い浮かんでいた」

「じゃあ帰ったら描くか」

「うん」

 そのまま家に帰宅し夕飯を食べ終え絵を描くのだった。

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