「失敗しちゃった!! キスしようと思ったのに!」

 洗い物を終えて、それぞれ風呂を交代で入ってからリビングで一息ついていた。

 姫が自分の膝をポンポンと叩いていた。

「大輔、はい。膝枕だよ」

「はい……」

 俺は姫の膝に頭を乗せた。

 この太ももの感触。まだ五月といえど気温が寒くなるから長ズボンの面が頭から首筋に渡って気持ちがいい。

「あぁ……最高」

 姫が俺の手を握り、モミモミとマッサージしてくれてた。

「そういえば大輔。今日、女性の人が遊びに来るって聞いてなかったよ」

「……あれ? 説明してなかった?」

 多分、電話の時に説明したはずなんだが……。

 姫も首を傾げていた。

「してたっけ? 会社の友達が来るからっていうので、聞いていたけど忘れちゃったのかもしれない。ごめんね」

「いや、俺の方がしてなかったと思う。ごめんな」

 二人が遊びに来るっていう頭の中があって、内田が女性だって言うことを、姫に説明しきれてなかったのかもしれない。

「じゃあ大輔の鼻をいじめてやる!」

 片方の手で思いっきり鼻を摘み。引っ張られる。

「イタタァ! 鼻が! 鼻がモゲル!」

 鼻が簡単に取れてしまうのではないかというほど、強烈な痛みが走る。

「にしし」

 パッと鼻を離し、おでこの方を撫でてきた。どんどんとまぶたが重なっていく。

「……」


 チュッ。


 またして鼻に何か当てられた。

 なんだ……。

 息が出来るが何だが変な感触だ。

 目を開くと姫の顎のラインが目の前にあり額に当たっている。

 姫は一体、何を……。

 視線を下の方に向けると、姫の唇が俺の鼻に当たってる。

 ああ、だから鼻のところに違和感が。……え、なんで姫。俺の鼻に口を当ててんだ? 

「……え!?」

 何がなにやら訳がわからずもう、頭の中が真っ白になっていく。

 慌てて姫の腕を叩く。

「姫、姫! 何してるの!?」

「――ん? え? あれ、大輔の唇じゃない!?」

「くちびる!?」

 姫が勢いよく上半身を持ち上げて、両手で顔を隠している。

「あぁ、失敗しちゃった!! キスしようと思ったのに!」

「キスをしようと思った!?」

「だって。大輔の寝顔が可愛いから。つい、したくなっちゃたんだもん!」

「可愛いって……俺は可愛くないだろ」

 姫は俺の顔をずっと見ていた。

「大輔は可愛いよ…………。大輔はキス、したくないの?」

「――」

 したくないか?


 ……もちろんしたいに決まっている!

 同棲してかというもの、あの柔らかそうな唇に何度も触れようとしたことか!

 笑顔を振り撒くときにキスをしたい。出来たらってなんど思ったことか。

 でもやっぱり女の子だし。いきなりは嫌だってネットで書いてあったから姫もそうなんだろかと一歩置いていた。

 だからこそ言いたい。

「めちゃくちゃしたいです!」

「……わお」

 テレビの雑音だけが響き渡った。

「じゃあ……その、してみる」

「あ、あぁ……」

 姫は顔を下の方に向いてしまっていた。

「その……初めてのキスなんだけど、や、優しくしてね……」

「も、もちろん……」

 姫の顎を持ち上げこっちの方に正面を向ける。

 そして姫はまぶたを閉じ唇を差し出してきた。

「……」

 俺もゆっくりとまぶた閉じ、姫の体を抱きしめ自分の方に引き寄せる。

 そして、俺の唇には物凄い柔らかい物が当たった。

 薄眼で見てみると姫の唇を射抜いている。

「……はぁ」

 お互い離れ目を見つめ合っている。

 やばい心臓が破裂しそう!

 心臓の方からバンバン! と叩いていて、その心音が鳴り出す度に体が熱くなきてる。

「……ヤバイ! もうなんか熱いよ!」

 体中が熱く、もう耳まで火傷してるんじゃないかっていうほど熱い。

「あ、あぁ……寝ようか!」

 これ以上熱くなると意識がなくなりそうだ……。一旦クールダウンがしたい。

 姫も頷く。

「うん! ね、寝よう」

 

 急いで布団をしいて毛布を被った。


 ………あぁぁぁぁ! 姫とキス、キスをしちまった!

 

 嬉しさとなんていうかわからない気持ちが交互に入り混じってくる。

 今、姫の顔みたら。なにをするかわからない。

「というか明日から、どんな顔して接すればいいんだ……」

 

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