「もしかして姫ちゃんと行ったんですか?」

 会社に入り、バックを更衣室に置いて。自分の部署に入ろうと一歩、踏み出す。

「おはようござ――」

 上司が猪みたく、ダンボールを抱えながらこっちに向かって走ってきた。

「吉田。邪魔、邪魔!」

「うわ!」

 俺は壁際に身を寄せて衝突を回避する事が出来、そのまま上司は去って行った。

「な、何だ?」

 訳がわからないまま首を傾げてると、大野がこっちに来た。

「おはようさん。上司、業務移動だってよ。聞いてなかった?」

「いや、全く……休み明けなのに大変だな」

「だよな。まあ次の上司は、優しいおじいさんみたいらしいから。その人と釣りをやってみるのも楽しそうだな」

「釣り?」

 大野が頷いていた。

「そう、釣り。じゃあ先に戻ってるわ」

「ああ……。次に上司になる人か……」

 そう、思いながら俺は自分の席に座り、仕事の準備をしてると。課長の大きな声が室内に響き渡る。

「はい、一旦、手を止めて! これから新しい部長が来ましたので、挨拶をして頂きます。それじゃあ……」

 課長が一歩下がると、年配の方が現れた。

「えー。どうも、部長になりました。矢田やだです。よろしくお願いします」

 矢田さんがお辞儀すると、一斉に拍手が巻き起こる。

「はい。じゃあ仕事にかかって下さい」

 そこから仕事をやってると矢田部長が挨拶をしてきた。

「ここで働くことになりました。矢田です」

「初めまして。吉田 大輔です」

 優しい人そうだな……。

「あ、良かったら。社内のみなさんで食べてください」

 俺は会社用に買ってきた八つ橋を渡した。

 矢田部長は頷いていた。

「うんうん。大野くんが言っていた通り。真面目そうな方だね」

「え……大野先輩を知っているんですか?」

「うん、彼とは釣り仲間でね。彼は良い腕をしてるね」

 釣り仲間。今朝、大野が釣りって言ったことはそうゆうことだったのか。それにしても大野の趣味は渋いことしてるな……。

 自分には真似出来そうにないから感心してしまう。

「それじゃあ頑張ってね」

「はい」

 矢田部長はそのまま手を振り、違う人に挨拶しに歩いていった。


 昼休みになり。食堂で大野とランチを食べていた。

「大野、知り合いだったんだな」

「まあな。ゴールデンウィーク中に釣りをしてたら知り合った、って感じだな」

「凄ぇ……」

 年上の人と話が出来るんだから尊敬してしまうわ……。

 すると内田がこっちに来た。

「センパイ。お土産ありがとうございます!」

「八ツ橋美味しかったよ。京都に行ったのか?」

「ん、まあ……温泉を浸かりに……」

 内田がニヤッと笑っていた。

「もしかして姫ちゃんと行ったんですか?」 

「まあ……はい。そうです」

 部署内だけで姫のことを知ってるのは、この二人だけだ。

「良いな〜〜姫ちゃんと旅行。……ねえ先輩。今日合わせて貰えるってこと出来ますか?」

「……ふぇ!?」

 この後、姫に?

 すると大野も頷いていた。

「そうだな……確かにゴールデンウィーク前に会うって約束してた訳だし」

 確かに会うって約束したからな、約束は守りたい。

「ちょっと姫に連絡してみるわ……」

 二人して手を振ってた遊んでいる。ってのは見なかったことにしよう……。

「「はい、はい」」

 俺はスマホを取り出し、姫に電話をかけた。

『……もしもし、どうしたの大輔?』

「あ……会社でな、姫の話をしたら会いたいって言うんだけど。どうでしょうか?」

『私に? ……良いけど。夕飯はカレーの材料買っちゃったんだけどどうする?』

「ちょっと待って……」

 俺は二人の方に向いた。

「姫が夕飯の材料を買っちゃったらいくどうしようかって言って––––」

 すると内田は迷わず手を挙げていた。

「はい! 姫ちゃんが作った料理。食べたい!」

「俺も食べたいな」

 二人とも迷いがないな……。

「……了解」

 俺は再び電話の方に耳を当てた。

「二人とも、食べたいって言うんだけど。作って貰って良いか? 帰りにケーキ買ってくるから」

 すると、向こうの方から姫の声が弾んでるのがわかった?

『ケーキ! うん、頑張って美味しいの作るね! 大輔、お仕事の方、頑張って!』 


 ガチャ!


 そして電話が切れた。

「……良いそうです」

「やったー! 姫ちゃんに会える! 仕事、ちっぱやでやりましょう」

「そうたな。吉田の彼女がどんなの子なのか見にいかないと。よし、終わられるぞ吉田!」

 大野の目も今朝とは別に変わっていって輝いていた。

「え……はい」

 俺は流されるまま、午後の仕事に入り。俺はひたすらダンピングを打ちながら。姫にどう自己紹介を説明しようか考えて仕事に没頭していた。


 

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