「はい、あーん」

 歩いて、たい焼き屋に着き、それぞれお互いに買って近くにあったベンチに座った。

「それで姫はなににしたんだ?」

「あんこにしたよ」

「へー。あんこか……」

 袋から一個取り出し、生地を引っ張ると熱々の湯気が出ていて、中身からつぶあんがひょっこりと顔を出していた。

「おぉ、つぶあん美味そうだな」

「えへへ、美味しそうだから買っちゃった。いつもお母さんがお正月のときに、あんこが入っているお雑煮を出してるから。大好物だよ」

「美味しそうだな。こっちの実家だと、お吸い物と餅を焼いたのを入れて。いくらを入れたのを出してたな」

 すると姫が驚いていて、こっちを凝視していた。

「いくらを!? 凄いね大輔の実家」

「そうか? ……まあ、お正月だから豪勢にしようって事かな。お雑煮の方も食べてみたいな……」

 熱々の汁に、甘いあんこのダシとつぶが両方いっぺんに来て、美味しんだろうな……。

「お雑煮じゃあないけど、このたい焼き食べる?」

「良いのか?」

 姫が頷いていた。

「うん。二個買ってみたんだけど、一個で足りるな、と思っちゃったから食べてくれると助かります」

「じゃあ……」

 さっき半分にしたのを、渡そうとこっちに伸ばしてきた。

「――あ」

 姫が急に自分の手元の方に、引き返していた。

「え、どうした?」

 こっちが首を傾げていたら、姫がニコッて笑っていた。

「ねぇねぇ大輔、恋人みたいのやってみたい」

「恋人みたいの?」

 姫が頷いていた。

「そうそう。ほら、定番のあーんってするやつ」

「あーん?」

 一体なんだ?

 恋人がする定番のやつ……。

 そう簡単に言うと食べさせて貰うことなのが、すぐには思いつかなかった。

「……あ!」

 ようやく気付き姫の方をみた。

「やるのか?」

「やろうよ! 面白そうだし」

 そしてまた、たい焼きの半分を口の方に目掛けて近づけていた。

「はい、あーん」

 目の前のが入ったのは、あんこの断面と姫の胸の両方が視線の中に入っている。

「あむっ」

 たい焼きをかじるが、それよりも姫の胸元の方が気になってしまう。

「――んんっ!」

 ヤバイ! 変なところに入った!

 慌てて胸を強く叩く。

「えぇ! 大輔、大丈夫!?」

 姫が急いで自分のバックから。半分ぐらいのミネラルウォーターを取り出してきた。

「はい! これ飲んで!」

 俺はそれを置け取り、急いで飲み干す。

「んっ! はぁ……」

 助かった……危うく死んでしまうかと思ってしまった……。

 口元を拭いて、手元をみた。

「あれ? このペットボトルって……」

 そう見覚えがあるラベル……。姫が鼻血を出した時に買って渡したものだ。

 えっと……。姫が飲んで口をいたのを俺が飲んでしまったから……。

「…………」

 だからこれは関節キス……。

「――ふぁ!?」

 うわあぁぁぁぁ!

 ひ、姫とキス!? 関節キスをしてしまった!

 これはキスではないが、それに近しい物であるのには違いない。

「ち、違うんだ姫。これはその……けしてやましい事ではなくて……」

 姫が何の事なのか全く理解してなく、俺と飲み干したペットボトルを交互に見ていた。

「……あぁ、関節キスだね」

「なんでそんなに冷静なんだよ!」

 こっちはテンパりすぎて、頭が混乱してるっていうのに。

「だって、大輔が喉詰まったのに渡すのがそれしかなかったんだよ。しょうがないよ」

「それはそうだけど!」

「大輔が無事だったら、関節キスなんてどうってことないよ。大輔になら人工呼吸をするから心配しないで」

「ふぁ!?」

 キスみたいなシチュエーションが脳内によぎっていて。鼓動が早まってしまっている。……本当に倒れてしまいそうで、すぐさま準備が完了してしまう。

 姫がこっちを見てニヤっと小悪魔みたいな表情をみていた。

「あ、顔赤くなった」

「……い、いいから、たい焼き食べて銀閣寺を見に行くぞ!」

「はーい」

 喉を詰まらせないように、良く噛んで食べる。

 

 

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