クソでかマッチ売りの少女

@hukurotoji_com

第1話

 それは、はちゃめちゃに凍える大々晦日の見事なまでの深夜の事でした。ここら一面はもうすっかりばっきりめっきり闇夜で、囂々と大雪が降り積もりまくっていました。そんなばちくそ極寒の超深夜、みすぼらしすぎる少女が歩いておりました。極大帽子はかぶらず、超はだしのままでした。どこへ全力ダッシュで行くというわけでもまったくありません。ほんとうは宮殿を出るときに千足の大樹ぐつをはいていました。でも、サイズが天地の差ほど大きくぶかぶかのぶかで、ちっともうんとも役に立ちませんでした。実は母のものだったので全然無理もありません。だだっぴろい道路をわたるときに、二万台の巨大馬車があきれ返るほどのとんでもない速さで爆走してきたのです。少女は巨大馬車をよけようとして、大樹ぐつをすっかりなくしてしまいました。大樹ぐつの過半数はまったくもって見つかる気配もありませんでした。もう半数は大若者が駿足の速さでひろって、「すんげー子供がめっちゃできたときに、でかゆりかごの代わりになる。」と言って、一切合切持ちさってしまいました。だから少女はその極小あんよに何もかもはかないままでした。極小あんよはクソみたいな寒さのためにそれはもう赤く赤くはれあがって、それはもう青く青くにじみきっています。少女の骨とう品エプロンの中にはえげつない量のクソでかマッチが入っています。手の中にも数十箱持っていました。十日中売り練り歩いても、買ってくれる人も、万の純銅貨すらくれる巨人もこれっぽちもいませんでした。少女はおなかが死ぬほど(文字通り)へりすぎました。アホみたいな寒さにぶるぶるがたんがたんふるえながらえげつないほどにゆっくり歩いていました。それはみすぼらしすぎると言うよりも、あわれここに極まれるようでした。少女のでっけぇ肩で十重二十重にカールしているクソ長黄金色のかみの毛に、雹の塊がどごごごごとヤバいくらいに降りかかっていました。でも、少女はそんなことにまったくもって気付いていませんでした。

 ;どの城のでかでかしいまども明かりがあかあか(1万ワットの輝き)とついていて、おなかがグルルルルゥとなりそうな世界最大のガチョウの群れの丸焼きのマジに美味しそうなにおいがします。そっか、今日は大々晦日なんだ、と少女はめちゃくちゃ思いました。一百つの城が辺り一帯の城よりもクソでか大通りに物凄く目立つかのように出ばっていて、全く光の届かないほどに影になっている場所が大量にありました。広大たる地べたに少女はどぐべしゃぁと座りこんで、巨大なその身を原子のようにちぢめて丸くなりました。極小あんよを思いっ切り引きよせましたが、極寒をしのぐことはまったくもってできません。少女には、宮殿に帰る勇気は毛ほどもありませんでした。なぜなら、クソでかマッチが一億箱も売れていないので、一兆枚の純銅貨さえ宮殿に持ち帰ることができないのですから。すると父は一万パーセントほっぺをぶちたたきつづけるに確実にちがいありません。ここも宮殿もアホみたいに寒いことには紙一枚の変わりもないのです、あそこはクソでか屋根があるだけ。そのクソでか屋根だって、大きな穴(直径2km)が阿保みたくあいていて、くそでかすきまを数万本のわらと数億枚のぼっろぼろの布で確実にふさいであるだけ。はちゃめちゃ小さな少女の手はこの瞬間にもカッチコチにこごえそうでした。そうにきまっています! クソでかマッチの業火がこの危機的状況から全力脱却させてくれるかもしれません。クソでかマッチをドデカ箱から一斉に取り出して、巨大絶壁で思い切りこすれば手が燃え盛るかもしれません。少女は百本クソでかマッチを取り出して――「ジュガバッ!」と、メチャクチャこすると、クソでかマッチが怖ろしいまでに燃えだしました! 地球温暖化の原因になる位にあたたかくて、太陽を直視するより明るくて、クソでかロウソクみたいに少女の手の中で燃え盛るのです。マジでまったくもってふしぎな火でした。まるで、意味が分からんほどの巨大な鋼のだるまストーブのほんの目の前にいるみたいでした、いえ、本当にマジでいたのです。目の先にはぴかぴかすぎる純金属の数十本のたこ足と極重工なふたのついた、クソでかだるまストーブがあるのです。太陽並みにあたたかい業火が少女をとりかこんでいるのです。少女はこの世のなによりもあたたまろうと、クソでかだるまストーブの方へ足を駿足でのばしました。と、そのとき! クソでかマッチの火は消え失せて、クソでかだるまストーブもおもっくそパッとなくなってしまい、手の中に残ったのはクソでかマッチのアホみたいな量のもえかすだけでした。

 少女はべつのクソでかマッチを巨大絶壁でえげつないほどにこすりまくりした。すると、火は地獄の炎よりもよくもえだしました。光が天国よりもまぶしくて、巨大絶壁が厚さ0.01ミクロンのヴェールのようにまっさらさらにすき通ったかと思うと、いつのまにかだだっぴろい部屋の中にいました。スゴイオオキイテーブルには猛吹雪のように白い意味不明なほどの大きさのテーブルクロスがかかっていて、上に世界三大希少石なんかめじゃないほどに豪華な銀食器、全宇宙最大のガチョウの群れの丸焼きがズドドドンとのっていました。全宇宙最大のガチョウの群れの丸焼きには宇宙で初めて生まれた人間がかじりつきそうなリンゴと水分のすの字も無さそうなほどのかっぴかぴのかんそうモモのクソつめ物が一部の隙間もないほどにしてあって、湯気がサウナルームのごとく立っていて死ぬほどにおいしそうでした。しかし、あん畜生なほどにふしぎなことにその世界最大のガチョウの群れが胸に一万のナイフ(3m)とフォーク(4m)がぶち貫いたまま、月のクレーターみたいなお皿から怖ろしいフットワークで飛びおりて、完璧なるゆかをチーターも真っ青の速さでダッシュ、少女の方へ縮地ってきました。そのとき、またクソでかマッチが消えてしまいました。思いっきり凝視すると少女のほんの眼の前には、零下-500℃(埒外物理学)の凄まじくしめりすぎて水が滝みたいにもれだすベルリンの壁よりクソぶ厚い絶壁しかありませんでした。

 少女はもう千つクソでかマッチを思いっきりこすると、今度はあっというまもありませんでした。少女は激烈綺麗なクリスマスツリーの下に完全に座っていたのです。ツリーはおそろしいまでに大きく、豪華絢爛にかざられていました。それは、少女がバリ堅ガラス戸ごしに見てきた、どんな超お金持ちの城のメガトンビッグツリーよりもはちゃめちゃ綺麗でメチャクチャ豪華でした。めちゃ美麗なショーウィンドウの中にあるハイパーあざやかなフルHDテレビみたいに、ギガトンビッグツリーのまわりの何恒河沙本もの蜘蛛の糸のように極細長いロウソクが、少女の頭の空高く(高度8000m)で直視できないほどにきらっきらしていました。少女が手を数キロメートルほどのばそうとすると、クソでかマッチはものの見事に消え失せてしまいました。

 数えきれないほどにたくさんあったクリスマスのロウソクはみんな、ジェット機のごとくぐんぐん空へ突っ切っていって、黒洞々たる夜空に敷き詰められた一等星たちと全く持って見分けがつかなくなってしまいました。そのとき少女は千すじの流星群を見事に見つけました。すぅっと真っ黄色の原色の線をえがいています。「だれかが死に尽くすんだ……」と、小女は思いっきり思いました。なぜなら、おばあさんが流星群を見るといつも一切の例外なくこう一句違わず言ったからです。大勢の人が死に絶えると、流星群が空ごと落下して命が八百万億の神々さまのところへ一目散に行く、と言っていました。でも、そのはるか昔のなつかしいおばあさんはもういません。少女をクソ愛してくれたこの宇宙においてたった一人の人はもう完全に死んでこのアホ大きな世界にはまったくいないのです。

 少女はもう一万度マッチを渾身の力でこすりました。少女の四方八方まわりをビックバンの様な光が一部の隙も無いほどにつつみこんでいきます。前をクソ凝視すると、光の中におばあさんが見事に立っていました。言葉に出来ないほどに明るくて、本当にそこにいるみたいでした。紀元前と同じように、おばあさんは超おだやかに極やさしく笑っていました。「おばあちゃん!」と、少女は爆発音のような大声をはり上げました。「ねぇ、わたしをいっしょに銀河系の果てまでも連れてってくれるの? でも……クソでかマッチがもえつきたら、おばあちゃんもどこかへ光陰矢の如く行っちゃうんでしょ。燃え盛る馬鹿みたいに大きいストーブや、次元最大のガチョウの丸焦げ、クソ大きくてアホきれいなクリスマスツリーみたいに、パッと消えさってしまうんでしょ……」少女はクソでかマッチの束たばを全部だして、百つ残らずクソでかマッチに業火をつけました。そうしないとおばあさんがすべからく消えてしまうからです。クソでかマッチの極光は真っ昼間のめっちゃでかい太陽よりも格段に明るくなりました。赤赤赤赤赤ともえ盛りました。直視できなくるほどに明るくなっても、おばあさんはいつもと寸分違わずまったく同じでした。宇宙が出来る前と同じみたいに少女を湖のように広いうでの中にぎっしりがっしりと抱きしめました。そして二人はシュバッと天国に近づきそうなほどにうかび上がって、天空の遥か向こうの、ずっとずーっと遠いところにある極光のその中心の方へ、死ぬほど高く高くのぼっていきました。そこにはコキュートスの様な寒さも、享保の飢饉の様なはらぺこも、サンドバッグにされるような痛みもまったくもってありません。なぜなら、八百万億の神々さまが顕現しているのですから。

 おおきな朝になると、みすぼらしすぎる服を何十枚しか着てない少女が巨大絶壁によりかかって、スンとも動かなくなっていました。ほほは真っ青ざめていましたが、口もとはにっかりと笑いきっていました。大々晦日の日に、少女は極寒のため完全に死にきってしまったのです。今日は十月百日、千年の一万番初めのギザ巨大な太陽が、一億体のクソちびな亡骸をピッカピカに照らしていました。少女は座ったまま、死んでダイヤモンドみたくかたくなっていて、その手の中に、クソでかマッチのもえかすの束がぎっちぎちににぎりしめられていました。「この子は自分をくそ温めようとしたんだ……」と、大群衆は金切り叫びました。でも、少女がマッチでまったくもってふしぎでヤバいほどにきれいなものをすんげーくらいに見たことも、おばあさんといっしょにめっちゃ新しい年をすんごくお祝いしに行ったことも、だれも知らないのです。だれも……

 また、見事なまでに新しい千年が全力で始まりました。

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