第3話
「チップくん! そんな顔しないでよ。ずっと一緒だって言ってたじゃん!」
ぼくは少し強い口調で言うと、すぐにチップくんは涙を拭いて、いつもの笑顔を見せてくれた。
「うん、うん! ありがとう! これからも一緒だからね!」
ホッとしたのも束の間、大きくて真っ赤な夕日は今にも、西の森の中へ姿を消そうとしている。
「あ、マサシ兄ちゃん、大変だ! 日が暮れちゃう!」
「うん……、じゃあ、そろそろ、行くね」
ぼくは森の小道の方へと体を向け、一歩踏み出した。……ナッちゃんの悲痛な声が耳に入る。
「やだあ、マサシお兄ちゃん、行っちゃやだー! やだあ‼︎ えーん……! ずっと、ここにいてよー‼︎」
覚悟はしていたけれど、やはり別れの時は辛いものだ。ぼくは9匹の方に振り向き、大声で言った。
「ナッちゃーん、大丈夫だよ! ほら、おかあさんもチップくんも言ってたじゃん! 同じ家族だって!」
それでもナッちゃんは、ワンワン泣き声を上げ続ける。トム、モモちゃんもハンカチで顔を押さえている。「私たちは同じ家族よ」と言ってくれたおかあさんも、目に涙を光らせていた。
笑顔でお別れしたかったけれど、やっぱり涙には勝てなかった。
——それでも。
「バイバーイ! 元気でねー!」
9匹はみんな、そう言って笑顔で手を振ってくれている。
「ありがとーう! みんなもずっと元気でねー!」
ぼくも時々後ろを振り返って手を振りつつ、森の中へと向かう。おじいさんが言っていた大きな川へと続く道は、森を抜けた野原の、真っ直ぐ向こうにあるという。
もう、この世界に思い残すことは何も無い。無事に元の世界に帰れることを祈りながら、川への道を目指すだけだ。
……が、森の中に入ろうとした、その時。
「マサシ兄ちゃーん! ずっと、友達だからねー‼︎」
……抑えていた涙が一気にあふれ出す。ぼくは振り返り、力の限り叫んだ。
「もちろんだよ! チップくんとは、ずっと友達だよー‼︎」
チップくんは最後に、とびっきりの笑顔を見せてくれた。ぼくも涙を拭いて、笑って大きく手を振った。
そして、9匹の姿が、岩陰に消えるまで……。
みんな笑顔で、手を振り続けてくれた。
♢
……9匹の姿は見えなくなり、ぼくは涙を拭き、前を向いて、沈み行く夕陽の方角、大きな川沿いの道へと向かう。ヒミツキチには、誰もいなくなっていた。周りを見渡しても、ねずみの姿はもう、どこにもない。
「……あれ? こんな所に道、あったっけ」
野原の奥に、前には無かった小道がある。夕陽へと続く道だから、たぶんこの道で合っているはずだ。そのまま真っ直ぐに進んでいくと、大きな河川が見えてきた。
河川に沿って真っ直ぐに伸びる土手道が、夕陽の方角へと続いている。河川は夕陽の光を受けて、キラキラと輝いている。このまま夕陽に向かって歩いていけば元の世界へと戻れると、おじいさんは確か言っていたはずだ。
さあ、行こう。
ぼくは振り返ることなく、赤く輝く夕陽に向かって、歩き続けた。絵本の中の、ねずみたちの
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