第2話
荷車いっぱいに積まれた野菜の山。これを全部、ねずみの都会“
「あ! マサシ兄ちゃん行くならあたしも行くの!」
ナッちゃんがそう言いながら、玄関の扉から飛び出してくる。おとうさんとチップくんも、見送りに出てきた。
「じゃあナッちゃん、一緒に行っておいで。よろしくね、マサシくん、トム。行ってらっしゃい」
「マサシ兄ちゃん、お仕事がんばってね!」
ナッちゃんも一緒に行くことになり、ぼくらはカゴいっぱいの野菜と果物を入れた荷車を引いて、出発した。
玄関先で、おとうさんとチップくんが手を振ってくれている。
黄色やオレンジ色に染まった森の小道を進み、ぼくが最初に訪れた野原を通り過ぎた。その先は、カラフルな建物が立ち並ぶ商店街のようなところになっていた。ここまで来るのは初めてだ。
舗装された一本道の左右には、それぞれ赤、青、黄色、オレンジ色と、様々な色をした外壁のお店のような四角形の建物がズラーっと並び、ねずみたちで賑わっている。そして、タクシーみたいな乗り物が、道路の上をスイーッと動いている。よく見ると、車輪がない。少し浮きながら移動しているようだ。
「ねえトム、あの乗り物はなんだい?」
気になったぼくは、トムに尋ねてみた。
「あれはタクシーだよ」
「でも車輪がないよ?」
「ああ、あれは、地磁気を使って浮かびながら走ってるんだよ」
「へ!?」
思わず間の抜けた声を出してしまった。
地磁気!? 自然の中の、何もかもが手作りの生活空間だったのに、何だ、このいきなりの近未来的な感じは。
ぼくは周りを見渡してみた。立ち並ぶ建物も、おそらく鉄筋コンクリート構造だろうか。とてもねずみが作ったとは思えない。
商店街を抜けると、今度は小さなドーム状の駅らしき建物が見えた。そこに卵のように丸くて可愛らしい形をした乗り物がいくつも連なった列車が、レールに沿ってゆっくりと駅に入って行く。
「あの列車に乗って行くんだ!」
「はやくのろー! ねえ、のろー!」
ナッちゃんははしゃぎながら、トムの手を引っ張る。
駅に着いたが、切符売り場らしき場所は見当たらなかった。だけどトムとナッちゃんは、そのまま駅の中へと入って行く。
「あれ? 切符は……?」
「キップ? ないよ。そのまま乗っちゃえばいいんだ」
トムは駅の入口にいるねずみの係員に挨拶をすると、野菜の入った荷台をガラガラと引きながらそのまま、停まっている卵形の列車の、一番前の車両に乗り込んでしまった。ぼくも係員に軽くお辞儀をしてから、慌てて一番前の車両に乗り込んだ。
列車の中は、ねずみの車掌さん以外まだ誰もいないようだ。オルゴールのような音楽が、ゆったりとしたテンポで流れている。
「ふふふ、“Chutopia2120”はすっごく楽しい所だよ! 美味しいものたくさんあるし、焼き松の実とか、豆乳アイスクリームとか、シロップくるみパンとか……」
「トム兄の食いしん坊が始まったー!」
ナッちゃんに笑われながらも、食べ物の妄想が止まらないトムを見ていると、仕事前なのにもう小腹が空いてきてしまった。Chutopia2120では、どんなご馳走にお目にかかれるのだろうか。
「……きっと、美味しいものがたくさんあるんだね。じゃあトム、ナッちゃん、野菜を配ったら食べに行こうよ!」
「うん! 配りに行く場所は3箇所だけだから、早く済ませちゃおう、マサシ兄ちゃん!」
列車はシューンと静かな音を立てると、扉が閉まった。乗客は、ぼくらだけのようだ。
「発車しまーす」
車内アナウンスと同時に、ゆっくりと卵形の列車は動き出す。レールに沿って少しずつ加速すると、すぐに緑あふれる深い森の中へと進んでいった。
音も揺れもほとんど無く、オルゴールの音だけが車内に響いている。
「あれ? 車掌さん、運転席から離れて何してるの?」
「運転席? この列車は全部自動だよ?」
「ええ!?」
「列車も自動車も全部、中央管制センターっていうところで遠隔操作してるんだ。でも、ほとんど自動だね」
「何という……」
つまり、乗り物は全て自動操縦だということだ。ねずみたちの世界は、ぼくらの世界よりずっと文明が進んだ世界なのかもしれない。
ねずみの車掌さんは車掌室から出ると、オルゴールに合わせて鼻歌を歌いながら、ぼくらの目の前の壁に絵を描き始めた。
列車の壁全体に、何やら可愛らしい絵が仕上がって行く。
「猫、かな……?」
「だね。今日は2匹の猫の絵だ」
「かわいいー!」
ぼくらと同じように服を着た、2足歩行の猫が2匹描かれていく。どうやら白黒模様の猫の兄弟のようだ。2匹で仲良く冒険の旅をしている場面だ。
あっという間に絵は完成し、車掌さんは右下に絵の表題のようなものを書き足した。
「ふむふむ、“The Next story is GOMA&LUNA's Adventure”……?」
「ネコちゃんたちが冒険の旅に出るんだね! ……あ、見て、マサシ兄ちゃん!」
「え、すごーい!」
ナッちゃんに言われてよく見てみると、何と、描かれた絵が動き出したではないか。2匹の子猫の兄弟は、野原を行き洞窟に入り、冒険していく——と、2匹の前に角の生えた怪物が立ち塞がった。すると兄の猫は剣を手に取り怪物と戦い、見事打ち倒す。洞窟の奥にたどり着いた2匹は、ついに宝物を発見した。
「おお、無事に宝物を手に入れたぞ!」
「えへへ、やったね!」
ぼくらが動く絵に夢中になっている間に、列車は森を抜けていた。
外を見ると、大きな大きな都会が見える。
どこまでも続く遠く青い空に、銀色に光るビルの群れがそびえ立っている。
すぐ近くに目をやると、あちこちに、独創的としか言いようがない様々な形のオブジェの数々。地面や壁に描かれたアートの数々。
自然がいっぱいの、広々とした公園もある。
「間もなく、Chutopia2120に着きまーす」
とってもワクワクしてきた。ねずみたちの大都会、早くあちこち探検してみたい。
「さあ、着いたね。行こう、マサシ兄ちゃん!」
「す、すごい! 駅の中に温泉や宿泊施設、レストラン、フィットネスクラブみたいなのまである!」
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