第6章〜近未来都市・Chutopia2120〜
第1話
眩しい太陽の光が、窓から射し込んでくる。
ぼくは思い切り伸びをして、目を覚ました。周りを見回して確かめる——良かった、ここは9匹のねずみたちの家だ。
だけど、隣で寝ていたはずのミライくんがいない。隣のベッドのナッちゃん、モモちゃんもいない。3階の方を見たが、トーマスくんとチップくんもいない。
みんな、どこへ行ったのだろう。
「おはよう! おーい! チップくーん! ナッちゃーん!」
ぼくはみんなを呼びながら1階に降りた。台所の扉を開けると、ねずみのおかあさんが1匹だけで食器を洗っていた。
「あら、おはようマサシくん。子供たちみんな遊びに行っちゃったわよ、ふふふ」
「おはよう……。え、ほんと? あ! もうこんなに日が高い!」
まさか、寝坊してしまったのだろうか。
「みんな、マサシくんを起こそうとしたけど気持ちよさそうに寝ていたから……。ふふふ、ゆっくり眠れた?」
「ありゃりゃ……。ごめん、おかあさん。大寝坊ですね」
「いいのよ。パンとスープ用意するから、待っててね」
おかあさんは嫌な顔一つ見せず、ぼくの分のパンとスープを用意して、居間のテーブルに並べてくれた。
「何でだろ、今日だけ寝坊だなんて。……やっぱり変な夢見たからかな?」
「あら、どんな夢なのかしら?」
「それは……ちょっと言えないな……。それより、チップくんたちはどこへ?」
「子供たちは今、川まで行ってるわ。今日あったかいもの。ふふ、チップたち、マサシくんのこと待ってると思うわ」
「じゃあ食べたら、行ってきますね」
あったかい芋のスープで、ぼくの体はぽっかぽかになった。
ぼくは服を着替え、ナップザックにおやつと水筒を入れ、チップくんたちのいる川へと向かうことにした。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい。またお昼にね」
おかあさんが言ってたとおり、今日はよく晴れてあったかい。透き通るような青空だ。空気がカラッとしていて、時折吹く風が心地良く頬を撫でた。
♢
ぼくは緑の小道をスキップしながら、川の流れの音がする方へ向かった。
どこだろう、チップくんたち。
「おーい!」
川上の方から、チップくんの声が聞こえた。
「あ! チップくん、おはよう」
青空の下、魚取り網を持ったチップくんが、川の真ん中の岩の上でぼくを呼んでいるのが見えた。ぼくは、ダッシュでチップくんたちのいる場所へ向かった。
「待ってたよマサシ兄ちゃん! さあ、川上の方へ行こう」
「あはは、マサシお兄ちゃん、お寝坊さんだ!」
ナッちゃんが笑いながら、ぼくの周りを走り回る。
いつものチップくんとナッちゃんのはしゃぎっぷりを見て、ぼくは何だかホッとしてしまった。
「あはは、チップくんにナッちゃん、遅くなってごめんね。今日は川上の方へ行くの?」
「そうだよ! みんな来てるよ!」
ぼくらは、ゴツゴツした岩場を越え、川の上流の方へ向かった。先に来ていたトーマスくんが片手に魚網を持ったまま、手を振っている。
ぼくはトーマスくんに話しかけた。
「トーマスくんもきてたんだね。近所の子たちは?」
「トムでいいよ、マサシ兄ちゃん。近所の子たちはみんなヒミツキチだよ。ここにいるのは、ぼくらだけなんだ! 魚とか捕まえてるんだよ」
「そうなんだ。大きな魚は獲れたかい?」
「まだ、さっぱりなんだ。マサシ兄ちゃんも一緒に獲ろうよ! はい、これ使って」
トーマスくんは、片手に持っていた魚網をぼくに手渡してくれた。
「よ、よおし。じゃあ、大きいのを狙うぞ……!」
澄んだ川の水が、お日様の光を受けてキラキラ輝いている。水面には、青い青い空とゆっくり流れて行く雲がユラユラと映る。
そこに、大きな魚影が見えた。ぼくはすかさず網を水の中に突っ込む。……手応えがあった。
「そりゃ! 捕まえたよ!」
ぼくは網の中でピチピチと跳ね回っている大きな魚を、トーマスくんに見せた。魚は太陽の光を反射し、キラキラと輝く。
「わ、すごい! 今日最初に捕まえたのはマサシ兄ちゃんだよ!」
「ふふ、やったあ!」
トーマスくん、チップくん、ナッちゃんと一緒に、ぼくはまた子供の頃の気持ちに戻って、心を解き放ってのびのび遊んだ。昨夜見た怖い夢のことも、綺麗さっぱり忘れて……。
♢
「いただきまーす!」
「うん! 焼きたてはやっぱりおいしいね!」
お昼ごはんは、焼き魚——さっき捕まえた魚を焼いたもの——と、モモちゃんが作ってくれたくるみのパンだ。
ぼくは、こんがり焼けた魚を頬張りながら考えていた。
ぼくはこの世界に来てから、遊んでばかりだ。ちょっとここらでぼくも、ねずみたちの世界で働いてみたい。
……自分から〝働きたい〟だなんて、初めて思ったな。ぼくらの世界のバイトは嫌な事が多かったけど、この世界のねずみたちと一緒なら、楽しく働けそうだ。よし。
「あの……おとうさん?」
「どうしたの? マサシくん」
「ぼく、その、お仕事をしてみたいんです。よかったら何か……紹介してくれませんか?」
そう言うと、おとうさんはポンと手を打った。
「おお、ちょうどよかった! うちの野菜をね、ちょっと遠いけど、【
と、都会!? ねずみたちの世界にも、都会なんてあるのか!
ぼくの胸の中が、一気にワクワクした気持ちで満たされていく。
「ちゅーとぴあ、にいいちにいぜろ!? え、すごい! 行ってみたいです!」
おとうさんは、得意げな顔をして話す。
「きっとびっくりするよ。こことは違って、いろんな建物があって、ねずみたちもたくさんいるよ。あ、それで、この後すぐなんだけど……、トムと一緒に、野菜を届けるの手伝って欲しいんだけど、頼んでいい?」
まさかの早速のお仕事の依頼。ぼくは快く引き受けることにした。
「は、はい! しっかり責任を持って、やらさせていただきます……!」
「あはは、そんなにかしこまらなくてもいいんだよ。ぼくら、もう家族なんだから。敬語なんて使わなくてもいいんだよ。楽にお話しようよ」
おとうさんは緊張感を持って仕事に臨もうとするぼくを、笑い飛ばしてくれた。そのおかげか少し気が楽になって、思わずぼくも笑顔になってしまう。
「……ありがとう、おとうさん。じゃあ、楽な感じで話すね」
「うんうん! それじゃ、野菜を積み込もうか」
ぼくはおとうさんとトーマスくんと一緒に、倉庫から
「トーマスくん、よろしくね!」
「よろしくね、マサシお兄ちゃん! あ、トムでいいよ。その方が呼びやすいでしょ」
……何回も言われてるな、これ。よし、トーマスくんのことも、これからは気軽にトムと呼ぼう。
「わかった。トム、よろしく!」
「よろしくね! じゃあ、出発しよう!」
ぼくはトムと一緒に、荷台いっぱいにくるみ、カボチャ、山芋、松の実、
ねずみたちの都会、どんな所だろう……?
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