第6話
「ねえおじいちゃん、今はみんなでお話しようよ」
「チップや、ありがとう。じゃが……」
「えー、まだ探すの? 今日は芋掘りでもうくたくたじゃんー」
「ううむ……。わかった。探し物の続きは、明日にしようかのう」
おじいさんは、大きなあくびをしてそのままベッドに横になってしまった。やっぱり、芋掘りで疲れてたんだろう。
ぼくらがおじいさんの部屋から出ると、眠たそうなナッちゃんが待っていた。
「ねえ、チップにマサシお兄ちゃん。お話、終わっちゃったよ?」
「あらら。じゃあ今日はもう寝ようか」
「つまんないのー」
ぼくももうくたくたで、すぐにでも夢の世界へ行っちゃいそうだ。
大きなあくびをした後、3階のベッドへ行こうとはしごを上りかけた時、ミライくんがぼくのパジャマの
「マサシおにいちゃん……」
「ん? ミライくん、どしたの?」
ミライくんは裾をつかんだまま上目遣いで、ぼくを見た。
「ねえね、マサシおにいちゃん、きょういっしょにねてほしいな」
「ふふ、じゃあミライくんのベッド行くね」
ぼくは、ミライくんと一緒にベッドに入った。
ミライくんは安心した表情を浮かべながらぼくの腕にしがみついたので、ミライくんの頭を優しくなでてあげた。その様子を見ていたおかあさんは、そっと明かりを消した。
「ふふ、あとはよろしくね、マサシくん。おやすみ」
「うん、おやすみ、おかあさん」
ミライくんはぼくの腕に顔をこすりつけながら、ずっとしがみついている。背中を優しくトントンしてあげると、ミライくんはすぐに夢の世界へと行ってしまった。
「……くー……」
可愛いらしい寝息を聴きながら、ぼくは窓から射し込む月の光を眺める。
おじいさんがずっと言っていた大事なこと、一体何なんだろう。何となく、ぼく自身に関係があることのような気がしてならないのだ。
なぜぼくがこの絵本の世界に来ることになったのか。どうすれば元の世界に帰ることができるのか。おじいさんはそのことについて、何か知っているような気がする。けれど、本人が何も思い出せないんじゃどうしようもない。
結局、考えたところで何も分からず、ぼくは知らない間に眠りに落ちていた。
♢
「ぐすん……マサシおにいちゃん……」
泣き声がする。ミライくん、起きちゃったみたいだ。怖い夢でも見たのだろうか。
ぼくは、小声で話しかけてみた。
「ミライくん、どうしたの?」
「ぐすん……」
ミライくんは目に涙を浮かべながら、ぼくに抱き着いた。ガタガタ震えながら、ぼくの胸元に顔をうずめている。
ぼくはミライくんの頭をそっと撫でながら、尋ねてみた。
「どうしたの? 嫌な夢でも見たの?」
他のねずみたちはみんな、寝静まっている。
ねずみたちの寝息と、コオロギやキリギリスの歌声だけが聴こえてくる。
「うん……」
「そっか。じゃあ、子守唄歌ってあげる。いつもおかあさんが歌ってたのをね」
「ぐすん……ありがとう」
ぼくはまた、ミライくんの肩をトントンとしながら、うろ覚えだけどいつもねずみのおかあさんが歌っている子守唄を歌ってみた。
「……つきが みている もりのなか♪よいこは おやすみ いいゆめを♪……」
虫たちの歌声に混じって子守唄を歌っていると、ミライくんは再びスースーと寝息を立てて眠り始める。これでひと安心。何だか、お父さんになった気分だ。
子供ってほんとに無邪気で愛らしくて、見ているこっちまで心が癒される。ぼくも小さい頃は、親にとってはそんな存在だったのかなと、ふと思った。
窓の外では、紺色の夜空にたくさんの星がまたたいているのが見える。星たちもまた、ぼくに優しい子守唄を歌ってくれているかのようだ。
じゃあぼくも、おやすみなさい——。
♢
「……い、おい! おい、マサシおい!」
「ん……?」
「おい! マサシ起きろや! 何をよだれ垂らして寝とんねん! 早よう起きろや‼︎」
バシッ!! と、ぼくは何者かに背中を、平手で思い切り叩かれた。
「痛っ……た……! んん……、ん? あれ?」
……え、何で、ぼく……こんな所に……?
ぼくは目をこすって周りを見渡してみた。
ここは——現在通っている大学の、大教室。
ぼくは講義中に、突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
「昼飯食いに行くって言うてるのに、いつまでも寝とるん、コイツ!」
「あっはは、おい、早よう行くぞ。腹減ったし席取られる前に行こーや」
ゼミで一緒の、【藤田サトシ】と【三木コウスケ】は、机の上にあるぼくの筆記用具を勝手にぼくのカバンに乱雑に投げ入れ、席を立って食堂へと向かっていく。
ぼくは何が起こったのか、まだ掴みきれていない。
「ちょ、ちょっと待ってよ、サトシ、コウスケ!」
ぼくは慌てて、2人を追いかけた。
まさか講義中に眠ってしまい、そのままずっと、夢を見ていたのだろうか——うん、やっぱり夢だ。夢に違いない。絵本の中のねずみたちとお喋りしてただなんて、まさかね。
混乱する気持ちに何とか整理をつけつつ、ぼくは2人に追いついた。サトシとコウスケは呆れた目でぼくの顔を見ている。
「マサシお前、大丈夫け? ボーッとしすぎちゃう?」
「あはは、ごめん。まさかの爆睡だったよ」
「ほんま、講義中ずっと寝てたでお前。今日の内容、テストに出るって教授が言うてたけど、大丈夫なんけ?」
「マジで!? ああ、やっちゃったなあ……」
サトシのその言葉で、ぼくは完全に目が覚めたのだった。
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ここまで読んでいただきありがとうございます。
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