第5話

 

「とろろごはんと、山芋のおみそ汁、山芋の千切り、みんなで作ろう!」

「これだけ大きな山芋だもんね。色々作れちゃうよね」


 山芋を少し切ってみると、シャリッと音がして白くてネバネバした断面が見えた。さあ、これがどんな料理に仕上がるのだろう。ぼくらは手分けして、山芋料理を作り始めた。

 おじいさん、トーマスくん、ミックさんは、山芋のおみそ汁を担当。グツグツと音を立てるすまし汁の中に、切った山芋を放り込む。

 おとうさん、チップくん、ミライくん、そしてぼくは、とろろごはん組。すりこぎを使い、交代で山芋をすりつぶしていく。


「マサシおにいちゃーん、いっしょにやろー!」

「わかった。せーのっ」


 次はぼくとミライくんの番だ。ぼくはゆっくり、ミライくんの力加減に合わせて、グリグリと山芋を時計回りに回していく。チップくんが時々お出汁を入れてくれている。

 すりつぶされた山芋は、だんだんとお餅のような姿になっていく。


「おもしろーい! よくのびるね」

「おいしそうだね。ミライくん、じょうずだね」


 おみそ汁のいい匂いがしてきた。様子を見に行くと、千切りにした山芋が鍋の中で踊っている。

 台所が美味しそうな匂いが満たされた頃、おかあさんたちがお風呂から出てきた。


「お待たせ。私たちは、山芋の千切りを手伝うわね。まだこんなにたくさんあるのね」

「よろしくね。切ったら、おみそ汁の中に放り込んで」


 おばあさん、おかあさん、モモちゃん、ナッちゃんも加わり、トントンとやまいもを切っていく。

 全員揃って力を合わせたら、あっという間に数々の山芋料理が出来上がった。


「わああ、おいしそうー! さ、マサシ兄ちゃんもミックおじさんも、みんなで一緒に食べよう!」

「うん、食べよう! 大きな山芋だから、まだまだ何日分も残ってるね、チップくん」

「いやあ、大収穫だったね。じゃあ次の“まなびや”では、今日のことをたくさん話そう」


 準備が終わり、みんな居間のテーブルに集合した。


「それじゃ、みんなお疲れ様でした。手を合わせて、いただきまーす!」

「いただきまーす!」


 ふっくらと炊けたごはんの上に、モチモチのとろろ芋を乗せる。あつあつの湯気と一緒に、美味しそうな匂いが部屋を満たしていく。

 一口、食べてみる。口の中でとろけるとろろ芋。何日もかけて育った山芋の命の味が、口の中に広がっていく。うん、とっても美味しい!


「おいしーい!」

「おいしいでしょ? たくさんおかわりしてね、マサシ兄ちゃん!」


 千切りの漬物も、つまんでみる。シャキシャキして食べ応えがあり、ほんのり塩味が口の中に広がる。

 おみそ汁は、いい具合にとろみがついていて、飲み込むと体がポカポカ温まった。


「おいしいわね。今年の芋掘りは、いちだんと楽しかったわね」

「そうじゃのう。ほっほ、マサシくんも、気に入ってくれて良かったよ」


 食いしん坊トーマスくん、次から次へと山芋料理を口に放り込む。


「おみそ汁おかわり、いい?」

「あはは、トム、相変わらずよく食べるねえ」

「じゃああたしもおかわり!」

「僕もー!」

「あ、ぼくも、もっと食べたいんだけど……」


 ぼーっとしてたら、ぼくの分がなくなっちゃう。


「ふふ、まだたっぷりあるから、ゆっくり食べていいわよ」

「なんだ、よかった。じゃあゆっくり味わせていただきます」


 みんなで食べ物を採ってきて、みんなで作って、近所のみんなと分かち合う——とても温もりのある、ねずみたちのコミュニティだ。


「ごおちそうさまあー!」

「じゃあ、また今度ね、ミックおじさん」

「ありがとうね、チップくん。次回の“まなびや”は、また決まったらお知らせするねー!」

「あ、これおじさんのとこのぶんね。みんなで食べてね」

「わあ、こんなにたくさん、ありがとう!」


 ミックさんはたくさんの山芋の入った袋をチップくんから受け取ると、深々とお辞儀をする。ぼくはミックさんと握手をして、お礼を言った。


「ミックさん、ありがとうございました。また次回も、是非参加させてもらいます」

「ああ、マサシくんとの時間、とても楽しかったよ。またこれからも、よろしくね!」


 9ひきとぼくはミックさんに手を振り、見送った。ミックさんは満足気な笑顔で手を振り返し、森の方へと帰って行った。


「次回も楽しみにしてるねー!」

「またねー!」


 ♢


 後片付けが終わると、いつものごはんの後のお話タイムだ。

 ぼくはチップくんと一緒に、おじいさんを呼びに行った。

 ところが——。


「おじいちゃーん! ……あれ? どうしたの?」


 おじいさんは部屋で座り込み腕を組みながら、何やら深刻そうに考え事をしている。チップくんは心配して、おじいさんに話しかけた。


「ねえ、おじいちゃん、どうしたの?」

「うーん、何か、すごく大事なことを忘れてる気がしてのう……。思い出しそうで、思い出せない……。じゃが、思い出さなきゃいけない気がして、仕方ないんじゃよ」


 やはり、今朝おじいさんが探していた物に関係することなんだろうか。

 芋掘りで疲れているだろうに、なぜそこまでして思い出そうとしているんだろう。


「おじいちゃんが朝探してた物、見つかったんですか……?」


 心配になり、尋ねてみた。


「いや、まだ見つからないんじゃ……。わしが探している物は、わしらのご先祖様が残してくれた書物なんじゃよ。もし見つかれば、そこに、大事なことが全部書いてあるはずなんじゃ」

「この家にあるんですよね?」

「確かにあるはずなんじゃ。また後で探してみるよ」


 ご先祖様が書いた書物——?

 何だか、ますます気になってきた。

 溜め息をつきながら再び部屋の中を探し始めたおじいさんを見て、チップくんは心配そうな顔を浮かべた。

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