第4話
ぼくは、深く掘られた穴の中へ慎重に慎重に降りていった。ぼくの背の何倍もある山芋が、天高くそびえ立っている。
おじいさんと、トーマスくん、そしてぼくも一緒に、最後の仕上げだ。
「さあ、もう少しだ。いいかい? 山芋はもろいから、折らないように掘っていくんじゃよ。トム、マサシくん、ゆっくり、ゆっくりね」
みんなが見守る中、ぼくとトーマスくんはおじいさんの手つきを見ながら慎重に慎重に掘っていく。丁寧で、それでいて速くスムーズなシャベルさばきだ。
ぼくは、「焦らずゆっくりやるんだ」と自身に言い聞かせ、少しずつシャベルを動かし、掘っていった。根から無数に生えたひげが、顔をくすぐる。砂が目に入る。それでも負けずに何とか、山芋の先端まで掘り起こすことができた。
「ふう、こんな感じでどうですか?」
「お! 上手いねえマサシくん。きれいに掘れたよ」
「やったあ! ……ほんとに大きな山芋ですね」
とうとう現れた、山芋の全貌。その長さは、今のぼくの身長から換算すると、6倍ほどの長さになるだろう。まさしく、モンスター山芋だ。絵本で見たそれよりも、何倍もの迫力がある。
ねずみサイズでの芋掘り、難しかったけどそれ以上に面白かったなあ。
芋掘り名手のおじいさんは疲れた顔を一つも見せず、掘り上げた山芋を見つめている。もう何年も何年も、掘り続けてきたんだろう。
「いやあ、大物が掘れたぞい。今までで1番の大物かもなあ。さ、みんなで地上まで引っ張りあげようかの」
「そうだね。さあ、またみんなで力を合わせようね!」
トーマスくんはそう言うと、掘りあげたやまいものてっぺんにロープをしっかりとくくりつけた。みんなで一緒にロープを引っ張り、山芋を地面に引き上げるようだ。
それは——絵本に描かれていた、印象に残っている場面だった。
「準備できたよー!」
「よし、じゃあみんなで、最後の仕事だ!」
おじいさんとぼくは、深く掘った穴から地上にはい上がった。すぐにトーマスくんが山芋の先に引っ掛けたロープを、真っ直ぐに伸ばしていく。
「みんないくよー。山芋と綱引き合戦だ!」
おとうさんとミックさんは穴に入り、下から山芋を支える。残りのねずみたちとぼくでロープを引っ張り、モンスター山芋を地上に引き上げるんだ。
「せーのっ! よいしょーっ! よいしょーっ!」
巨大な山芋が、少しずつ少しずつ、地上へと引っ張り上げられていく。
「がんばれ、がんばれ」
「よいしょー! よいしょーっ!」
みんなで息を合わせれば、モンスター山芋との綱引き勝負に勝てるんだ。重くて手強いけれど、みんながんばれ、がんばれ!
「よい……しょ!」
おとうさんとミックさんの最後のひと押しで、とうとうモンスター山芋を地上に掘り上げることができた。
「やった! やったあー!」
横たわる巨大な山芋の周りに、みんな駆け寄る。
「うわー、でっかいなー」
「すごいね。間違いなく、今までで1番の大物だよ」
大地の恵みを受け、時間をかけて、大きく大きく育った山芋。大自然の生命力の凄さを、改めて感じた。
みんなどろんこ。みんな汗びっしょり。
「みんな、お疲れ様。マサシくん、ミックさんも、ありがとう。さあ、一休み一休み。お茶にしましょ」
おばあさんは水筒のお茶を紙コップに注ぎ、1匹ずつ手渡していった。みんなで1つのことをやり遂げた後の充実感をかみしめながら、ぼくはよく冷えたお茶で喉を潤す。
ぼくはもうくたくただけど、チップくんとナッちゃんはまだはしゃいでる。本当に疲れ知らずな子供たちだ。
「ミックおじさんもありがとね。今晩、一緒に食べようね」
「こちらこそありがとう、チップくん。次回の“まなびや”での勉強会は、今日の芋掘りをテーマにしようかな」
「いいねいいね! さあ、みんなで山芋をお家まで運ぼうー!」
ぼくらは、掘った穴を元通りに埋めた後、持ってきた5本の竹竿に、山芋をしっかりとくくりつけた。
「よおし、みんなでかついで、家まで運ぶぞー!」
「せーの! わっしょい、わっしょい!」
おじいさん、おとうさん、トーマスくん、ミックおじさん、そしてぼくで、山芋
おばあさん、モモちゃん、チップくん、ナッちゃんは、たくさんのむかごを入れたカゴをかつぎ、後からぼくらを追う。ミライくんは、おかあさんの背中でぐっすり眠っていた。
「うんせ、うんせ。ほら、あと一息がんばれば、おいしい山芋が食べられるから、がんばれ、がんばれ」
秋の美しい林は、真っ赤に染まった葉をざわつかせながら、どろんこになったぼくらを見送ってくれた。
♢
「たあだいまあー!」
ぼくらはみんなどろんこの汗びっしょりになり、帰ってきた。
さっそく山芋を、裏口から台所へ運ぶ。
「おつかれさま。ひとまず、お風呂にしましょ」
「さんせーい!」
いつものように手分けしてお風呂を沸かし、どろんこになった服を洗濯カゴの中に突っ込み、みんなでお風呂に入る。
ザバァーーッ! と、ぼくは思い切りお湯をかぶった。汗と疲れが、一気に洗い流されていく。
「ミックおじさんのとこの施設、岩盤浴あるんだよね! 今度行かせてよ!」
「いいよー。いつでもみんなで来て」
ミックさんも一緒にお湯に浸かりながら、みんなで20を数える。体を温めながら、外から流れ込む夕方の空気を思い切り吸うと、体の疲れ、筋肉の痛みがじんわりと癒されていく。
「じゅうく、にじゅう! よし、あがろう。おかあさんたちと交代だ!」
熱いお湯でさっぱりしたぼくらは、一足先に山芋料理作りに取り掛かった。
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