第3話

 

「うふふ、今日はよろしくね、ミックさん。お昼ごはんをどうぞ。みんなで元気つけて、芋掘りがんばりましょ」

「うん、よろしくね。わああ、おいしそうだねえ……」


 おかあさんはミックさんに挨拶し、庭の丸いテーブルへと案内した。

 美味しそうな手作りのおにぎりが、テーブルに並ぶ。くるみ味。山菜味。梅味。他にもいろんな具のおにぎりが、大きなお皿にずらりと並んでいる。


「おっきな山芋をみんなで掘ろう! 今日の夕ごはんは、みんなのがんばり次第じゃよ」

「そうだね! おじいちゃん、今年は今までで1番大きいのを狙おうよ!」

「ああ、任せておいて」


 おじいさんは大張り切りだ。

 ぼくらの何倍もの大きさの山芋、一体どんなふうに掘るんだろう。


 風が吹くと、カラフルに染まった木々がざわめいた。秋の山が呼んでいる。大地の恵みを受けて育った山芋が、ぼくらを待っている。


 ♢


「ごちそうさまー! さあ、片付けたらシャベルとくわを用意しなきゃね」

「水筒とおやつも、忘れずにね!」


 物置からシャベルや鍬、ロープや竹竿などを出し、バッグには水筒、おやつ、そして着替えを詰め込む。きっと、泥だらけになってしまうだろう。あとは、絆創膏などが入っている救急箱も忘れずに。


「さあ、行くよ。みんなついてきてね」

「よろしくね、おじいちゃん! じゃあ、しゅっぱーつ!」


 おじいさんを先頭に、9匹とミックさんとぼくは、オレンジ色に染まった秋の山道を歩いて行く。真っ赤なモミジの葉が、はらはらと舞い落ちてくる。チップくんとナッちゃんは、木の枝に登って遊びながら、みんなについて行く。


「上のほう、なんかあったー?」

「うん! マサシ兄ちゃんも来てみなよ! いい景色だよー!」

「え、登れるかなあ……」


 ぼくは何とか木の上に登ることができ、チップくんたちと一緒に、枝の上から景色を見渡してみた。

 見上げれば一面の青空。その下にはオレンジ色に染まる紅葉のじゅうたん。まさしく、絵に描いたような風景が広がっていた。


「わー! すごくいい景色だね。葉っぱが真っ赤だ」

「ね! とても綺麗だよね。さ、下に降りよう。おじいちゃんたちどんどん先に行っちゃう」

「あはは、そうだね。降りるの、ちょっと怖いや」


 まだまだ、山芋のある場所へは遠い。

 おばあさんとモモちゃんは、道に咲いているせんぶりの花を摘んでいた。ほんのり、甘い匂いがする。


「いやあ、結構遠いんですね。この辺りは他のねずみさんもあまり来なさそうだ」


 ミックさんは汗を拭きながら、おじいさんに話しかけた。


「ほっほ、奥の方に毎年大物がね、いるんですよ。わしらだけが知っている秘密の場所なんですじゃ。今年もきっと、大きな山芋があるはずですよ」


 目を輝かせながらおじいさんはそう言った。果たしてどれくらいの大物が、ぼくらを待ち受けているのだろう。

 降り積もった落ち葉を踏みしめながら、黄色く輝く秋の山を、ぼくらはひたすら進んで行った。


 ♢


「あった、ここじゃ、ここじゃ。ひとまず休もう」

「ふうー! 長かったね!」


 目的地に着いたようだ。地面から天に向かって細長いツタが伸びていて、おじいさんはそれに触れながらつぶやく。


「うんうん。これは大きいぞ」


 触れただけで分かるなんて、さすがは名手。

 はやる気持ちを落ち着かせるため、ぼくは近くの切り株に腰掛け、水筒の冷たい水をゴクリと飲み干した。


「見てみなよ。むかごがいっぱいなってるよ」


 トーマスくんは枝の上の方を指差して言う。それを聞いたチップくんは、山芋のツタを伝って、上の方に登っていく。その直後、ドサッ! という音を立てて、何かが地面に落ちてきた。大きなむかごだ。


「うわっ!」

「マサシ兄ちゃんたちー! 拾ってカゴに入れてねー!」

「うん! ……むかご、でけえー……。って、ねずみサイズなんだから当たり前か」


 ぼたぼたっと、たくさんのむかごが降ってくる。ぼくらはそれを夢中で拾い集める。

 他のみんなは、落ち葉をどかして芋掘りの準備をする。


「さあっ、掘るよ!」


 おとうさんの合図で、山芋掘りが始まった。


 ♢


 まずはおじいさん、おとうさん、トーマスくんがシャベルを持ち、掘り始める。ザック、ザック、心地良い音が響く。少しずつ、山芋の頭が見えてきた。

 ナッちゃんがスコップに乗って跳ねながら遊んでるのを横目に見ながら、3匹はひたすら掘り続ける。

 ぼくは待機しながらその様子を見ていた。シャベルを上手く使うのには、コツが要りそうだ。目を凝らして、ぼくはおじいさんたちのシャベルさばきをしっかり観察した。


「よおし、交代。マサシくんと、ミックおじさんの番ですよ」

「よしきた!」


 ぼくは、おじいさんたちと同じようにシャベルを動かし、少しずつ土を掘ってみた。

 その時だった。


「うわあ!!」


 突然、巨大なカブトムシの幼虫が土の中から出現。ぼくはびっくり仰天し、尻餅をついてしまった。カブトムシの幼虫はうねうねと体を動かしながら再び、土の中へと潜っていく。

 それを見たおとうさんが、笑い声を上げる。


「あはは、土の中にも生命がたくさんいるんだね」

「そ……そうですね、虫さんたちをあまりびっくりさせないように掘らなきゃですね」


 すぐにシャベルの扱いに慣れたぼくは、ミックさんと力を合わせて、土を深く深く掘っていった。

 土と泥にまみれた大きな山芋は、深く掘るにつれ、どんどん太くなっていく。


「大きいなあ。まだまだ深く埋まってるよ」


 早くもどろんこになったミックさんは、汗を拭いながらそう言った。ぼくらが想像してたものよりもずっとずっとずっと、でっかい山芋が埋まっているようだ。


「よおし、またおじいちゃんとトムに交代だ」

「よしきた!」

「さて、そろそろ土を引っ張り上げる袋を用意しよう」


 おとうさんは、土を入れる大きな袋にロープを通している。掘った土を穴の中で袋一杯に入れたら、穴の外からロープを引っ張り、土を外に出すようだ。


「おかあさん、モモ、チップ、マサシくんも! ロープを引っ張って土を出してー!」

「よしきた! そーれ!」

「そーれ!」


 ぼくはチップくんと一緒に、ロープを引っ張った。なかなかの重さだ。汗がじんわりと服に滲んでくる。ドサっと音を立てて、1杯目の土を引っ張り上げた。


「ふう、これをあと何回も引っ張り上げるのか」

「そうだよ。みんなでがんばろうね、マサシ兄ちゃん!」


 みんなどろんこになりながら、それぞれの役割を分担する。全身をここまでフルに動かしたのは久しぶりで、なかなかのきつさだ。だけどそれ以上に楽しい。明日は筋肉痛確定だ。


「マサシくん、最後の仕上げじゃ。ここからが肝心なんじゃが、どうじゃ? チャレンジしてみるかの?」

「……はい! 是非やらせてください!」


 最後の仕上げ、折らないように先端まで慎重に掘る作業だ。

 果たしてぼくは、この大事なステップを成功させることができるのだろうか。

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