第342話:魔王と魔人 32

 さて、そろそろ光が見えている場所の情報が欲しくなってきたな。

 距離的にも問題はなさそうだし、使うとするか。


「魔導具、ドローン!」


 ロードグル国で使ったドローンを飛ばし、俺は森谷と魔王の戦闘の状況を確認することにした。


「……おいおい、マジかよ、これ?」


 ドローンから得られた情報を前に、俺は思わず声を漏らしてしまった。

 それは何故か――森谷の攻撃が全て防がれていたからだ。


「森谷が攻勢なのかと思っていたけど、単に攻撃が派手だから見えていただけなのか」


 確かに森谷は攻撃を繰り返している。目の前の状況だけを見れば攻勢に出ていると判断することもできるだろう。

 だが、森谷の表情に余裕はなく、一方で魔王は笑みを浮かべている。


「――んなっ!?」


 ……こいつ、ドローンの存在にも気づいていやがった。わざわざ視線を向けるなんて、ムカつく野郎だ。

 しかし……俺が隙を突いて攻撃しようとしていることにも気づいているってことだよな。


「……ちっ。それなら、上空から見ているだけってのも意味がないか」


 だからと言って、このままサニーに乗って下りていったとしても、俺が森谷を助けられるはずもない。

 いったいどうやったら、魔力刀絶閃を当てられるんだろうか。


『……ビギャー!』

「……サニー?」


 俺が考え込んでいると、突然サニーが鳴き声を上げた。


『ビギャ! ビギャギャ!』

「……お前に任せろって言っているのか?」

『ビギャー!』

「……あれ? サニー、なんだか体が光っていないか?」


 驚くことに、サニーの体は言葉通り美しい純白の光を放っている。

 その体の美しさも相まって、間近で見ていてもとても幻想的だ。

 だが、どうしていきなりサニーの体が光り出したのだろうか。


「鑑定、サニー」


 ……なるほど、そういうことか。

 まさか、バナナを食べる行為が、魔力刀絶閃を使う以外にも意味があったなんてな。


「従魔契約を通して、俺の魔力がサニーにも流れているんだな。そして、俺の魔力が急激に増えただけでなく、お互いに触れあっていることから、サニーに膨大な魔力が流れ込んだんだな」

『ビギャー!』


 元々のサニーはエンシェントクリスタルドラゴンという特級魔獣だ。

 契約した時は赤ちゃんだったし、今だって子供であり、成獣にはまだまだ程遠い。

 だが、俺の魔力が膨大に流れ込んだらどうなるのか。それは――急激な成長を遂げるということ、らしい。


『ビ、ビビギギ……ビギャルアアアアァァアアァァッ!!』


 サニーの体が巨大化し、跨っていた足が段々と開いていく。


「いででででっ!? ……あ、危なかった。股が、裂けるところだったぞ」


 慌てて足の位置を直した俺は、改めてサニーの体へ目を向ける。

 ……うん、でかい。めっちゃでかい。

 今までのサニーであれば二人乗りがギリギリだったけど、これなら一〇人以上でも余裕で乗れるに違いない。


「……はは、どうやらこれは、魔王にとっても予想外だったみたいだな」


 ドローンに映っている魔王の余裕ぶっていた表情が、驚愕したものに変わっている。

 ……っていうか、森谷も驚いているんじゃないか、これ?


「……まさか、森谷にとっても完全に予想外だったって、ことか?」

『ギャルアアアアッ! ギャルルゥゥ!』


 俺が呆れたように呟くと、サニーが我慢ならないと言った感じで鳴いた。


「……はは、そうだよな。こんなに大きくなって、力が漲ってくるんだ。ただ空を飛んでいるだけってのは、つまらないよな!」

『ギャルアアアアッ!』

「よし、いこう! お前を守ってくれていた森谷と共闘して、魔王を倒すんだ!」

『ギャルアッ! ギャルアアアアァァアアァァッ!!』


 俺は成獣と化したサニーと共に、上空から魔王めがけて急降下を開始した。

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