第341話:魔王と魔人 31
『ビギャー!』
「サニー!」
魔王に吹き飛ばされ、気を失っていたはずのサニーの声が上空から響いてきた。
サニーは低空飛行となり、こちらへ力強い視線を向けてくれている。
「……いこう、サニー!」
『ビギャ!』
俺が真横を飛んでいたサニーへ飛び乗ると、そのまま一気に急上昇する。
飛び上がって見て気づいたのだが、森谷が飛んでいった方向からありとあらゆる魔法の光が明滅しており、それだけ派手に戦っているという証拠でもある。
最初こそエアバレットで魔王を吹き飛ばした森谷を見て勝てると思ってしまったが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
「鑑定、この魔導具」
俺はサニーに跨り移動しながら、生徒会長から受け取った刀の柄しかない魔導具の鑑定を行う。
魔王を倒すために必要と言われたものの、その使い方までは教えられていない。
どのようにして使い、攻撃するのか。その方法によって、俺がどう動くべきかが決まってくるのだ。
「……注がれた分の魔力でできた刀身が顕現する。強化できるのは刀身の長さ、太さ、そして切れ味か」
そう口にした俺は、改めて開いたままの魔王を倒す方法の鑑定結果へ目を向ける。
刀の柄の魔導具、魔力刀絶閃を使って倒すのは確定のようだ。
さらに言えば、魔王の硬い皮膚を両断するため、切れ味に魔力のほとんどを注ぎ込まなければならない。
……刀身を伸ばして遠目からスパッといけたらよかったんだが、やはりというか、そう簡単ではないらしい。
「絶対に魔王に近づかないといけないのか。……正直なところ、怖いな」
そう、怖い。俺は魔王が怖いんだ。
むしろ、怖いと思うことの方が普通だと思う。
本音を言えばあんな奴に近づきたくないし、戦うにしても安全マージンをしっかりと取って戦いたい。
……異世界に来るまでは、ラノベとかアニメを見ていて、そう考えていた。
だけど実際には、そんなことできないんだと分かった。
命を懸けなければ守れないものがある。安全を優先させていたら、守りたいものを守れない。
だから誰もが傷を負いながらも危険な魔獣と戦い、守りたいものを守っているのだ。
……今の俺にとってグランザウォールは、仲間たちは、それにアリーシャは。
「命を懸けてでも守りたいと思えるものなんだ!」
決意は固まった。
こうして口にしなければ決意を固められないなんて、男として頼りないと思われるかもしれないけど、それが俺なんだ。真広桃李という、ごく普通の学生なんだ。
鑑定士【神眼】っていう力がなければ、魔の森の魔獣にあっさりと食い殺されていただろう、戦う力を持たない人間なんだ。
だから、口にしなければならない。そうしないと、自分を奮い立たせることができない。
『ビギャ! ビギャビギャ!』
「……ありがとう、サニー。そうだよな。俺は、一人じゃない」
自分を吹き飛ばした魔王のもとへ一緒に向かってくれるサニーがいる。
今もなお魔王と戦ってくれている森谷がいる。
そして、今日まで一緒に戦ってくれた仲間たちがいる。
「……負けられないよな!」
『ビギャー!』
先ほどから見えていた光が段々と近づいてくる。
このままいけば、あと数分で到着するだろう。
「サニーが来てくれたんだ。それなら……よし、いけるか」
魔王へ一撃を与える方法を入念に確認した俺は、魔法鞄に手を突っ込んだ。
「……よふぃ……やるじょ……モグモグ……」
取り出したバナナを頬張りながら、俺は来るべき時に備えていく。
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