第340話:魔王と魔人 30

 相手は魔王だ。

 俺の全てを注ぎ込むとはいったものの、鑑定士【神眼】でも対処できるかどうかが分からない。

 今のところは上手くいってくれているが、魔王を倒すという結果まで持っていけるかどうかは俺次第になってしまう。


「このまま森谷が魔王を倒してくれたらありがたいんだけど……まあ、そう上手くはいかないよな」


 どうして俺がそんな期待をしてしまうのかというと、その理由は先ほど魔王を吹き飛ばした魔法にある。

 エアバレットというのは、確か風魔法の一番簡単な魔法だったはず。

 そのエアバレットで魔王を吹き飛ばしてしまったのだから、森谷の魔法は俺たちが思っている以上に桁違いである可能性が高い。

 もしかすると、過去に見た魔力量よりも成長している可能性だってあるのだ。


「最大火力は何がどう転んだとしても、森谷だろう。俺の断絶の刃もあるけど、そもそも魔王に近づけるかどうかが怪しいしな」


 今のところ、断絶の刃はどの魔人に対しても有効打になっている。

 だが、魔人と魔王ではその強さが桁違いなはずだ。何せあのホルモーンって魔人を一撃で殺してしまったんだからな。

 ここで俺が自分で魔王を倒したいとか、欲をかいてしまったら、倒せるものも倒せなくなりそうだし。


「よし、それじゃあそれを踏まえ改めて――鑑定! 魔王を倒す方法!」


 戦力は整った。いや、整い過ぎたと言ってもいいだろう。

 だけど、それでも魔王を倒せるかどうかは、俺には分からない。だからこその鑑定士【神眼】なのだ。


「……え、マジ? これ、マジなの?」


 しかし、俺が思っていたような鑑定結果ではなく、むしろ困惑してしまう。

 それは何故か――魔王を倒す人間が森谷ではなかったからだ。


「…………お、俺なのか? 俺じゃないとダメなのか?」


 そう、鑑定結果には、魔王を倒すのが俺だと出てしまったのだ。


「……………………いやいやいやいや、無理無理無理無理! 絶対無理だから!!」


 あんな奴に突っ込んでいって直対とか、マジで無理だから!


「……えっと、あれ? しかもこれ、断絶の刃での攻撃じゃなくないか? 他にやれそうな魔導具なんてあったっけ?」


 そんなことを考えながら検索結果を見ていくと、ここで予想外の人物の名前が飛び出してきた。


「……え? まさか、こいつに協力を――」

「待たせたな、真広」


 ……本当に来たよ。ってか待たせたなって、どういうことだ? こうなることを事前に知っていたのか?


「……さっきは助かったよ、生徒会長」


 そう、生徒会長が俺のところまでやってきたのだ。


「森谷さんから聞いたよ。お前が俺の助けを求めているってな!」


 ……いや、うん。別に求めてはいなかったけど、結果的にそう言うことになってしまったから、文句は言うまい。なんか癪だけど。


「……まあ、冗談だ」

「冗談かよ!」

「俺はこれをお前に私に来たんだ」


 そう口にした生徒会長が投げ渡してきたのは、日本刀の柄……だけ?


「……なあ、生徒会長。これはいったい何なんだ?」

「知らん」

「知らないのかよ!?」

「冗談だ」

「冗談かよ!?」


 こいつ、こんな性格だったっけか? 一度気を失って、おかしくなったとか?


「森谷さんから託された魔導具だ。魔力を倍増させて、強烈な一撃を放てるようになる。さっき俺が放ったセイントソードも、こいつを使っていたんだ」


 なるほど。だから特級職の生徒会長が、魔王に有効打を与えることができたんだな。


「だが、こいつは魔導師には使えない魔導具らしい」

「そうなのか? だけど、魔力を倍増させるんだろ? それなのにどうして魔導師には使えないんだ?」

「知らん」

「……」

「……知らん」


 今回はマジで知らんのかよ!?


「だがまあ、お前なら使いこなせると森谷さんが判断したんだろう」


 おそらく、バナナで魔力を上げての一撃を放てってことなんだろう。

 どうしてなのか、魔力を一時的に上げてくれる果物を一度で大量に食べられるのは、俺だけみたいだからな。


「森谷さんだけでは倒せないと、本人が言っていた。だから真広、早く行ってやってくれ」


 まさか、生徒会長から何かを頼まれることになるなんてな。日本にいた頃には考えられないことだわ。


「分かった。だけど、しっかりと援護はしてくれるんだよな?」

「当然だ。勇者は俺だが、お膳立てはしてやろう」


 ここでどうして強気な発言になるのか……まあ、生徒会長だから仕方ないか。

 さて、生徒会長が言うように、鑑定結果にも出ているし、ここまでお膳立てをしてもらったんだから、やるしかないだろう。


「……さて、いくか!」


 気合いを入れた俺は、大きく息を吸い込むと、森谷が飛んでいった方向へ駆け出した。

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