第339話:魔王と魔人 29

「……ど、どうしてお前がここに?」


 俺は夢でも見ているのだろうか。もしくは、すでに吹き飛ばされて死んでしまったのだろうか。


「なんだい? どうして幽霊でも見たような目で僕を見ているのかな?」

「……だって、幽霊じゃないのか?」

「ほら、僕の足ついているだろう?」

「……あー、間違いなくお前だわ――森谷」


 聞き慣れた声は間違いなく、寝たきりになっていたはずの魔導士【神魔】であり、俺と同じ日本から召喚された人物、森谷大樹だった。


「お前、目を覚ましたのか?」

「あぁ、突然だったけどね。おそらくだけど、桃李君たちが魔王と戦ってくれていたおかげで、魔王の魔法が解けたんだと思うよ」

「あー……魔王が森谷に掛けていた魔法を維持できなくなるくらいに、追い込まれているってことか?」


 俺が推測を口にすると、森谷は大きく頷いた。


「だから急いでこっちに来たんだ。いやー、本当に危なかったね、桃李君!」

「まあ、相手が魔王だからな。仕方ないだろうよ」

「確かに、その通りだね。実際のところ、まだ魔王を生きているからね」

「なんだって!?」


 生徒会長のセイントソードは間違いなく魔王に直撃したはずだ。それは俺もグラビティホールで援護したから間違いないはず。

 ……まさか、ソーラーレイで重傷を与えていた体で、セイントソードに耐えきったというのか?

 俺は視線を森谷から砂埃が舞い上がる先へ向ける。


「…………おいおい、嘘だろ?」


 砂埃の中で動く影が、間違いなく見えてしまった。


『ぬおおおおああああああああぁぁああぁぁっ!!』


 砂埃の中から魔王の大咆哮が響き渡ると、衝撃波が周囲へ広がる。

 一瞬で砂埃が吹き飛ばされ、魔王の姿が露わになる。

 間違いなく重傷を負っている。だが、何故だろう。

 魔王はすでにボロボロになっているのだが、その姿を見ているとまだ恐怖を感じずにはいられない。


『……まずは賢者から殺す。次に勇者だ。残りの有象無象は一瞬で殺してやる』

「おっと、これはマズいかもしれないね」


 魔王がぶつぶつと何かを呟きだしたのを見て、森谷が警戒を強め始める。


「いったいどうしたんだ、森谷?」

「僕は過去に一度、魔王と対峙したことがあるんだ」

「な! そうなのか!」


 まさかの意外な答えに驚いてしまったが、何がマズのかの答えにはなっていない。


「あれは、魔王が理性の代わりに凶暴性を高める魔法なんだ」

「……な、なんだそりゃ?」

「ここからの魔王は遊びなんてしない。ただの一撃で邪魔者を殺しに来るだろうね」

『グルオオオオアアアアアアアアァァアアァァッ!!』


 再びの大咆哮と共に、魔王の姿が掻き消えた。


「なっ! い、いったいどこに――」


 ――ドゴオオオオンッ!


 魔王を見失ったと思った直後、魔導士たちが集まっていた場所で大爆発が巻き起こった。


「あそこには円たちが!」


 さっきの呟き通り、魔導士から殺そうってことかよ! しかも一撃で!


「……くっ!」

「ディートリヒ様!」


 間一髪、ディートリヒ様の魔法が魔王の攻撃を防いでくれて……いや、違う。

 ディートリヒ様の魔法は貫かれているが、攻撃が弱まったことで防御用魔導具で防ぐことができていたんだ。


「がはっ!」

「そんな! ディートリヒ様、ディートリヒ様!」


 魔力を一気に使い果たしたディートリヒ様が血を吐き倒れると、円の悲鳴がこだまする。


『ゴロジデヤルゾオオオオオオオオッ!!』


 ここから円のもとへ向かうのは間に合わない。

 俺は、目の前で円を殺されてしまうのか? 守れないのか?


「エアバレット」


 ――ドンッ!


 俺がそう思った直後、真横から柔和な声で魔法名が口にされた。


『ガルゴアアアアッ!?』


 エアバレットは魔王に着弾すると、ものすごい勢いで吹き飛ばしてしまった。


「……も、森谷?」

「魔王の相手は僕が引き受けるよ。ちょっとした因縁もあるわけだしね」


 そう口にした森谷が前に立つ。


「だけど、決定打を与えることはできないと思う。だからそこは、桃李君。君の鑑定士【神眼】に頼らせてほしい。いいかな?」


 同じ神を関する職業を与えられた者からの頼みに、俺の心は奮い立った。


「……あぁ、やってやるよ! 俺の全てを注ぎ込んで、魔王を倒すための方法を見つけ出してやる!」

「期待しているよ。それじゃあ、いってくるね」


 いつもと同じ調子で笑みを浮かべた森谷は、宙に浮かぶと魔王のもとへと飛んで行った。

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