第337話:魔王と魔人 27

「…………ぐぅぅ」

「赤城!」


 吹き飛ばされた赤城の声が聞こえてきた。


『ほほう? まだ生きているのか、なかなかやるではないか』


 倒れている赤城に視線を向けながら魔王がそう口にすると、ゆっくりとそちらへ歩き出す。


「させるか!」

「はああああっ!」

『邪魔だ』


 赤城に止めを刺そうとしたのだろう、それを察したヴィグル様とナルセン様が再び動き出す。

 だが、すでに魔王の意識は赤城へ向いており、それ以外の人間には見向きもしない。

 ……そこが付け入る隙になった。


「くっ!?」


 ナルセン様は前に出たものの、回避するのが精いっぱい……いいや、違う。あえて近づき意識を少しでもこちらへ向けるようにしているんだ。

 それは何故か――ヴィグル様のスキルを最大限活かすためだ!


「スキル、下剋上!」

『ほほう?』


 相手が強ければ強いほど、自らの身体能力を向上させてくれる下剋上スキルを発動させたヴィグル様の一撃は、赤城の膂力を超えて魔王へ叩きつけられる。

 ドゴンッ! と鈍い音が魔の森に響き渡り、魔王の足元が地面にめり込む。

 だが、それでも――


「……くそったれ」

『これが貴様の切り札か? ふんっ、くだらんな』

「何がくだらねぇって?」

『貴様は!』


 魔王の意識がヴィグル様に向いていたところで、赤城が目を覚ましていた。

 魔法攻撃に参加していなかった他の生徒たちが回復魔法を使い、赤城を回復させてくれていたのだ。

 そして発動された赤城の職業専用スキル――バーサーカー。

 敵と定めた相手を倒すか、自分が戦闘不能に陥るか、そのどちらかになるまで戦うことを止めない殺戮マシーンと化す凶悪なスキルだ。

 身体能力も上昇し、その上昇幅は下剋上の比ではない。

 だが、攻撃一辺倒となるので負けはイコール、死に直結してしまうことも多い。


『ふははははっ! 面白いな、人間というのは! 自らを犠牲にして足止めをしようとは!』


 こいつ、ふざけてやがる。

 赤城は魔王を倒すつもりでバーサーカーを発動させたのに、それを足止めって言いやがった!

 だが、赤城一人で魔王を倒せるとは思っていない。何せこっちはずっと準備していたんだからな!


「円! ディートリヒ様!」

「いきますよ、ヤチヨ様!」

「はい!」


 膨大な魔力で練り上げられた魔法陣が光り輝き、周囲の大気を震わせるほどのエネルギーが溢れ出している。

 赤城のことを足止めと言うのなら、お前の言う通りに動いてやるよ。

 これを食らっても、同じことが言えるのか楽しみだな!


「「ソーラーレイ・一点突破!」」


 膨大な魔力が一点に集約され、それが魔王めがけて撃ち出される。

 触れていない地面が余波で抉られていく中、魔王は横目にソーラーレイ見ると、大きく跳躍して回避してしまった。


『量より質を選んだようだが、当たらなければ意味はない』

「そうね、当たらなければ意味はないわ!」

「ホーミング!」

『なんだと!?』


 一直線に撃ち出されたソーラーレイだったが、ディートリヒ様の掛け声に合わせて曲線を描くと、飛び上がった魔王めがけて軌道を変えていく。

 その速度は光の速さであり、最初に回避できたのも驚きだったが、今回はさすがに回避不可能だった。


 ――ドゴンッ!


 魔王を捉えたソーラーレイが、その肉体を貫いた。

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