第336話:魔王と魔人 26

「ど、どうしてディートリヒ様が!?」

「転移魔法陣で危機的状況だと報告を受けましたので、急ぎ馳せ参じました。それよりもヤチヨ様、魔法の構築を始めましょう。賢者が二人、その分魔法の威力も増幅されます」


 さすがはディートリヒ様だ、俺がやろうとしていることを瞬時に理解してくれている。

 円だけの魔法でも先生たち以上の威力を発揮することができるだろう。

 だが、それだけでは足りないはずだ。

 そこで賢者同士なら魔法の威力が増幅するというディートリヒ様の話を信じてみることにした。

 実際に試したことはないが、それでも今はこの一撃に懸けてみるのもいいだろう。


『なんだ、その魔力は?』

「もう少しです!」


 さすがの魔王も賢者同士が構築している魔法に脅威を感じたのだろう、初めて驚きの声を漏らしている。


『ふむ、あれはさすがに砕いておくか』

「絶対に死守するぞ! いいな!」

「「「おう!」」」


 土門、小田、渡辺が必死に魔王の足止めをしている。レベルも高い三人ならばと思ったが、やはり上級職ではそこまでの時間は稼げなかった。


『邪魔だ』

「ぐわあっ!?」

「くそっ!?」

「に~ん!?」


 魔王が僅かに本気を出しただけで、三人は弾き飛ばされてしまった。

 だが、幸いなことに誰一人として死んではおらず、気を失っているだけだ。

 土門は元から頑丈であり、小田は職業柄大量の武器が盾となり、渡辺は召喚していた魔獣のケロリンが身代わりになってくれていたのだ。


『魔弾――ブラックバレット』

「どりゃああああっ!」


 ――バキンッ!


『……何?』


 …………あっぶねええええっ!? こいつ、俺が飛び出したのを見て眉間を狙ってきやがった! 防御用魔導具を持っていたからなんとかなったけど、そうじゃなかったら頭が吹き飛んでいたぞ!


『ふむ、さすがは神級職か。だが、貴様にはそこまで脅威を感じない。なんともいびつな能力の持ち主だな』

「知るか! それをお前のものさしで測ってんじゃねえぞ!」

『確かにその通りだ。ならば――さっさと終わらせるとしようか!』


 ……やっべぇ、挑発し過ぎたか?


「ぬおおおおりゃああああっ!!」

「はああああっ!!」


 やっぱりそうか!

 ディートリヒ様が来たということは、国家騎士たちが来てくれていてもおかしくないよな!


「ヴィグル様! ナルセン様!」

「こいつらだけじゃないんだよおおおおっ!!」

「あ、赤城笑奈!!」


 おそらく、アデルリード国とシュリーデン国が持つ最高戦力が、この場に勢ぞろいした。

 これで勝てなかったら……これで勝てなかったら…………マジで、万事休すだろ!


『ふんっ!』

「ぬおっ!?」

「くっ!?」


 魔王が気合いのこもった一撃を地面に見舞うと、その衝撃波でヴィグル様とナルセン様がたたらを踏んでしまう。

 だが、赤城だけはものともせず前に出ると――魔王の顔面に大剣を叩きこんだ。


「……ちっ」

『なかなかの一撃だが、その程度か』

「下がれ! 赤城!」

「んなもん――無理に決まってんだろうが!」


 ――ドゴオオオオンッ!


 魔王は赤城の大剣を砕きながら、渾身の拳を叩きこんだ。


「ぐがああああぁぁああぁぁっ!?」

「赤城いいいいっ!!」


 ……これは、本当の本当に万事休すかもしれないな。



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