第335話:魔王と魔人 25

「みんな、本当に来てくれたのか!」

「本当にって、桃李あんた、知ってたのね!」


 俺の言葉に吹き飛ばされたはずのユリアが、立ち上がりながら大声をあげる。


「鑑定で出ていただけで、本当に来てくれるのかは分からなかったんだよ」

「だからあえて口にしなかったのか?」


 すると今度は新も立ち上がり、よろけながらではあるが歩み寄りながらそう問い掛ける。


「あ、あぁ。変に希望を持たせるのはダメかなって思って」

「でも、みんなは来てくれた、でしょう?」


 新たに続けて円が柔和な笑みを浮かべながら同意を求める。


「……そうだな。みんな、来てくれた」

「ってかさー、今回に関しては私たちにも共有してくれてもよくない? 来ないかもってことでも、その分ちゃんと桃李の指示に従ったのにー」

「お前、そうじゃなかったら従う気なかったのか?」

「んー? どうだろうねー?」


 体中傷だらけなはずのユリアがどこかお茶らけた雰囲気を出している。これはユリアなりの気遣いなのかもしれない。

 しかし、みんなが来てくれたから魔王に勝てる、というわけでもない。

 みんなが来てくれたから、まだまだ時間稼ぎができるようになった、と言った方が正しいだろう。


「みんな! 絶対に無茶はするなよ! 時間を稼いで、生き残ることだけを考えてくれ!」

「当然だ!」

「まだ死にたくないもんね!」


 俺の指示にみんなが応えてくれる。

 一方で魔王は先生のサンダースパイクを興味深げに眺めていたが、動きを封じるだけのものだと分かったのか、小さく息を吐くと同時にサンダースパイクが弾け飛んだ。


『ふむ、つまらんな』

「あら、そうかしら? それじゃあこんなのは――どうかしら!」


 先生の周りには戦闘職の魔導師たちが集まっている。

 シュリーデン国で魔法を学び直していたのか、先生たちは一人の魔法ではなく、全員の魔法を組み合わせた新たな魔法を展開し始めた。


「全属性を一つにした戦略級魔法よ、くらいなさい!」


 クラスメイトたちが苦しそうにしている中、先生が魔法を主導して照準を魔王に合わせた。


「ソーラーレイ!」


 超高出力の光線が撃ち出され、光の速度で魔王へ迫っていく。

 回避する間もなく直撃したソーラーレイは、魔王だけでなく後方に広がる魔の森の一部を完全に消滅させるほどの威力を有していた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……これで、どうよ!」


 森が、土が、岩が蒸発し白煙が立ち上る。視界は悪いが、これでノーダメージということはないと思いたい。


『…………ほほう、なかなかの威力であるな』

「……やっぱり、上級職や中級職程度の魔法じゃあ、この程度かぁ」


 白煙に影が映り、軽く地面を踏みつける動作を見せると、衝撃で白煙が一気に晴れてしまった。


「……嘘、でしょ?」

「……私たちの魔法が」

「……効いてないのかよ!」


 魔導士のクラスメイトたちが愕然としている。

 それもそうだろう。彼ら、彼女らの必死の努力をついに見せる時が来たと思えば、それが全く通じない相手だったのだ。

 見た目には全くのノーダメージに見えるだろう。だが、少なくとも俺はそうは思わない。


「円! 今の魔法を再現してくれ!」

「分かったわ!」


 円は特級職の賢者であり、全属性を使える最強の魔導師だ。

 先生はみんなには悪いけど、今の魔法を模倣させてもらうぞ。


『ほほう? 面白いことをしているではないか』


 魔王が円の行動に気づき笑みを浮かべる。しかし、それは希望を打ち砕かんとする獰猛な笑みだった。


『だが、貴様らの思う通りにやらせると思っているのか?』

「肉体硬化!」

「ウェポンフィールド!」

「ケロリン、召喚!」


 そんな魔王の前に立ちはだかったのは、ロードグル国での戦争で先生や森谷と敵として相対した三人の上級職、土門力、小田春樹、渡辺忍の三人だった。


「さっさと魔法を完成させろ、八千代!」

「それまでは私たちが骨を折ってやる!」

「……いくでござるよ、ケロリン!」

「土門君、小田君、忍ちゃん!」


 敵だったはずの三人が再び味方となり、円の魔法完成までの時間稼ぎの役目を担ってくれている。

 だがまだ足りない。魔王を倒すには、まだまだ足りないんだ!


「私も協力いたしますよ、ヤチヨ様」

「そ、その声は――ディートリヒ様!?」


 ここに来て新たな援軍が到着してくれた。

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