第332話:魔王と魔人 22
『がはっ! ぎゃあっ! ぐはっ! げぼっ! ごふっ! びゃばばばばっ!?』
斬撃、打撃、魔法など、様々な攻撃を一斉に受けたことで、魔人は何やら聞いたことのない叫び声をあげている。
とはいえ、俺もその中の一つの攻撃を与えている立場なのだから、気にしてなどいられない。
場合によっては追撃も必要だと警戒を怠らなかったが……どうやら、俺たちの総攻撃は功を奏したようだ。
『そんな……まさか、あり得ん! 私が……この、私がああああぁぁっ!?』
総攻撃を受けたことで肉体の限界を迎えたのか、魔獣とは異なり、徐々にではあるが魔人の体が真っ黒な灰のようなものに変わっていく。
『許さん……絶対に許さんぞ!』
「こいつ、まだ何かするつもり!」
ユリアが警戒を強めたところで、俺は鑑定スキルを発動させる。
魔人が何をしようとしているのか、それを阻止できるのか、確認するためだ。だが――
――ドンッ!
『ゴゲブゴガガガガアアアアァァババアアァァアアァァッ!?!?』
「「「「――!?」」」」
はるか上空から、漆黒の光が魔人へ降り注いだ。直後には大絶叫を響かせ、その姿が完全な灰へと変わってしまう。
何が起きたのか、それは鑑定士【神眼】を持つ俺にも分からなかった。
「……な、なんだよ、今のは?」
「……魔人が、死んだ?」
「……でも、誰が?」
「……と、桃李君、あれ、何?」
俺も、新も、ユリアも目の前の出来事に目を向けていたが、円だけが漆黒の光が降り注いだ空へ視線を向けていた。
そして、そこには別の何かが浮かんでいた。
その何かはこちらを無表情のまま見下ろしており、ゆっくりと、しかし確実にこちらへと降りてきている。
「まさかあいつが、あの光を放った犯人なのか?」
「なんだか怖いよ、あれ」
「それを確かめるのは桃李の役目でしょ!」
新と円がやや震えた声で口にし、ユリアが語気を強めて言い放つ。
俺も急いで上空から降りてくる奴に対して鑑定スキルを発動してみた。
「…………魔王」
「「「――!?」」」
……う、嘘だろ? な、なんでいきなり魔王が現れるんだ? こっちは魔人との一戦を終えたばかりで、もう余力なんて残っていないんだぞ?
『ホルモーンを倒したのだからどれほどかと思って来てみれば……くくっ、どうやら油断しただけのようだな』
魔王が声を発すると、それだけで周囲の空気が何倍にも重くなり、俺たちの全身から汗が噴き出してくる。
これが、魔王なのか? ただ声を発しただけなのに、その声を聞いただけなのに、押し潰されそうになるだなんて!
「……鑑定、魔王を倒す方法」
「桃李君!?」
「ダメよ、桃李! 逃げましょう!」
「だが、どこに逃げるというんだ! ……逃げられる気が、しないぞ」
俺が鑑定スキルを発動しようとすると、円とユリアが驚きの声をあげる。新はユリアの言葉に反論したが、それは違う。反論ではなく、選択肢がなかったのだ。逃げられない、そう感じてしまっていたから。
ならば、やるべきことは一つしかない。
「逃げられない。なら、ぶつかるしかないだろう」
僅かでもいい、可能性が見いだせるなら、俺はなんだってやってやる。
俺はもう、力を持たない鑑定職じゃないだ。
自分の力の使い方を知った、神級職! 誰よりも可能性を持った、神級職なんだよ!
「……全員、武器を持て!」
「「「――!!」」」
鑑定結果が出た。そして、声をあげる。
新たちから見れば、それは無駄なあがきに見えたかもしれない。
だが、彼らは俺の声に従って即座に武器を持ち、気持ちを奮い立たせ、顔を上げてくれた。
「可能性が、あったんだな?」
「それなら、やるしかないわね!」
「信じてるよ、桃李君!」
「……ありがとう、みんな!」
『ほほう? 我の姿を見てもなお、向かってくるか。その意気やよし、ならば叩き潰してやるとしようか!』
やれるもんならやってみろよ! こちとら可能性を追い求めて、耐えるだけなんだからな!!
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