第330話:魔王と魔人 20

『ほほう? これに耐えますか、なかなかにやりますねぇ』


 漆黒の塊を防いでいると、そんな聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 これだけの衝撃波の中でもはっきりと耳にすることができた声に、俺たちは弾けたように周囲へ視線を向ける。


『この程度で驚いているようでは、やはり私の敵ではないようですねえ!』

「う、上だ!」


 声の主に気がついた俺が上空を指差しながら声をあげると、新たちもそちらへ視線を向ける。

 そこには人型の魔獣……いいや、魔人が宙に浮かんでこちらを見下ろしていた。


『どうですかぁ? 私のダークボールの威力は?』

「これはお前がやっているのか!」

『そうですとも、そうですともおおおおっ! あぁ、早く殺したい、殺してやりたいですねえっ! あぁもう我慢なりません! このまま一気に叩き潰して差し上げましょう!』


 こいつ、何を言っているんだ? いきなり現れたかと思ったら、勝手に喋り倒してこのまま叩き潰すだと!?


「ふざけんな! てめぇの勝手に巻き込むんじゃねえっての! フレアトルネード!」


 俺は魔人が攻撃を放つ前にフレアトルネードを放った。

 おそらくこいつは俺たちが先日倒した魔人よりも強いだろう。肌で感じるプレッシャーが半端じゃない。

 フレアトルネードはまったく効かないだろう。だが、俺の目的はダメージを与えることじゃないんだよ!


「円! ダークボールは任せるぞ!」

「わ、分かったよ、桃李君!」

「あんたはどうするのは、桃李!」

「俺はあいつを倒す! サニー、行くぞ!」

『ピギャー!』


 俺がサニーに跨って飛び上がろうとすると、その横で新がハクに跨った。


「俺も行くぞ、真広」

「ちょうど俺もお願いしようと思っていたところだ」

「ふっ、気が合うじゃないか」

「それなら、俺たちで一気に片付けちまおうぜ!」

『どうやら私は相当舐められているようですねぇ』


 俺と新のやり取りが聞こえたのだろう、魔人がそう呟くのが聞こえた直後、フレアトルネードが弾けて消えてしまった。


「うおっ!?」

「くっ! やはりこれでは倒せないか!」

『この程度で私を倒せるとでも? 笑止千万! この程度の攻撃しかできないのであれば、やはり私が一瞬にして――』

「まずは地に足をつけてもらうぞ――グラビティホール!」

『おぉ?』


 俺は試したことのなかった別の魔導具、グラビティホールを発動させた。

 こいつは一定範囲の重力を倍加させることで、相手の動きを封じることができる魔導具……なんだが、どうやらこいつにはあまり効果がなかったようだ。


『……この程度で私を地面に下ろせるとでも?』

「そんなわけがないだろう!」


 だが、魔人が俺に意識を向けている隙を突き、ハクが高速移動で近くの大木を駆け上がり、魔人のさらに上空から新と共に攻撃を仕掛ける。


「はああああっ!」

『ガルアアアアッ!』

『こざかしい――ぬおっ!?』

「グラビティホール、倍々化!」


 よし、成功だ!

 魔人はグラビティホールの威力を誤認して先ほどのが全力だと思い込んでくれた。

 だが、グラビティホールにはまだ上がある。倍々化よりも、まだ上だってあるんだ!


『こいつら、重力を使って一撃の重みを増してきたのか!』

「気づくのが遅かったな!」

『ガルアアアアッ!』


 宙に浮かんで余裕の笑みを浮かべていた魔人が、ようやく地に足をつけた。

 再び飛ばれては厄介なのだが、おそらくこいつはそんなことしないだろう。

 鑑定結果によると、魔人というのはどうにもプライドが高いらしい。

 一度傷つけられたプライドを取り戻すには、より強い力で相手を叩き潰そうと考えるらしいからな!


『……貴様らああああっ! 楽には殺しませんよおおおおっ!!』


 こいつが単純でよかった。まずはこちらの術中にはまってくれたようだな。

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