第329話:魔王と魔人 19
「桃李君! 御剣君!」
「もう! 二人とも、遅いわよ!」
合流と同時に円とユリアから声があがった。
「すまない、二人とも!」
「このあとは俺たちが引き受けるから、二人は後ろに下がって休んでろ!」
「はあ? この状況で休めるわけないでしょうよ!」
「そうだよ、桃李君! 私たちはまだ大丈夫だから、一気に数を減らしちゃおう!」
前から思っていたけど、やっぱりこっちの女性陣は強い人たちばかりだな。
「……分かった、やろう!」
二人の気持ちを無下にするわけにはいかない。
俺は鑑定スキルで魔獣の数を一気に減らすのに一番効率の良い方法を調べようとした――だが、その前に魔導具が反応を示した。
「みんな、魔力に気をつけろ!」
「「「――!?」」」
俺だけじゃない、全員に渡していた防御用魔導具が一斉に反応を見せたのだ。
防御用魔導具が反応したということは、俺たちに対して何かしらの攻撃がされたか、向かってきているかのどちらかである。
すると、魔の森の奥の方から魔獣を巻き添えにしながら飛んでくる漆黒の塊が姿を見せた。
「耐えろおおおおおおおおっ!!」
漆黒の塊が見えたと思った瞬間から、防御用魔導具が起動した。
まだ距離はあったはずだが、防御用魔導具は危険だと判断したのだ。
目前まで迫っていた魔獣が消し飛んでいく。そして――防御用魔導具に強烈な衝撃が襲い掛かった。
「きゃああああっ!!」
「桃李! これ、なんなのよ!」
「分かんないよ!」
「まさか、魔人の攻撃か!」
分からない。だが、新の発言が最もピンとくるものだった。
魔人は魔獣とも違う。なんなら、知恵を持っている人間に近い存在なのかもしれない。
ならば、魔獣を犠牲にすることなど造作もなく、魔獣を利用して俺たちを殺そうとするのは当然のことのはずだ。
立ち位置的に前に立っていたユリアの魔力消費が激しいが、彼女の魔力はこの中でも一番低い。
「ユリア、下がれ! 魔力がもたないぞ!」
「そ、そんなこと、言われても!」
「下がって、ユリアちゃん! 私が前に立つから!」
「八千代!」
ユリアのすぐ後ろに立っていた円が前に出る。
一番魔力の多い円だが、それでもすぐに枯渇してしまう可能性は否めない。
ならば、俺がやるべき選択は一つしかない!
「新はユリアのカバーを頼む!」
「真広! お前はどうするつもりだ!」
「俺は円のカバーをする! 魔力の多い俺たちが、壁になるんだよ!」
そう口にしながら前へと進み、魔法鞄からバナナを四本取り出して、二本は新に手渡した。
すでに減ってしまった魔力だが、今から食べて倍にしておいた方が、全員が生き残れる可能性も高くなるはずだ。
鑑定スキルを使いたいが、今は少しでも魔力を温存しておきたい。
……まさか、こんな形で鑑定スキルを封じられるとは思わなかったな。
「円! バナナを食べろ! これで少しでも残りの魔力を倍にするんだ!」
「うん!」
「近藤はこっちへ来い! まだ俺の魔力の方が多いはずだ!」
「分かったわ!」
それぞれがそれぞれの仕事を全うしても、漆黒の塊は一向に消える気配を見せてくれない。
これがいつまで続くのか、それとも俺たちが死ぬまで消えないのか。
俺にはこれが、地獄へ続く闇にしか思えなかった。
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