第327話:魔王と魔人 17

 アリーシャに続いて俺も部屋を出ると、そこにはニヤついた新と、真剣な面持ちのライアンさんが待っていてくれた。


「なんで笑っているんだよ、新?」

「いや、ついに真広にも春が来たんだなと思ってな」

「な、なななな、何を言ってんだよ!」

「アリーシャ様のこと、何卒よろしくお願いいたします、トウリ様」

「ら、ライアンさんまで!?」


 俺とアリーシャの間でどんなやり取りがあったのか分からないはずなのだが、どうしてこうもピンポイントで正解に近い発言が飛び出すのか。


「アリーシャ様が真っ赤な顔をして飛び出していったからな」

「それに、とても嬉しそうな表情をされていらっしゃいました」

「……そっか、そうなんだな」


 新の言葉には俺も恥ずかしくなってしまったが、ライアンさんの言葉にホッと胸を撫で下ろす。

 告白に成功したのだから当然と言えば当然なのだが、俺と別れてからも嬉しそうにしてくれていたという事実が、俺にとっても嬉しかったのだ。


「トウリ様は私の命に代えてでも守って見せます」

「ダメです。全員で生きて帰る、そうじゃないとアリーシャが悲しんじゃいますよ」

「むっ、それはそうですが……」

「ライアンさんがいなければ、騎士団もまとまらないでしょうしね」

「ミツルギ様まで……ですが、まだまだ教えてやらねばならないことも多いですかな」


 俺たちが一切引かないことを理解したのか、ライアンさんは快活な笑みを浮かべながら理由を付けて命に代えて守ろうとしていたことを諦めてくれた。

 ……だけどこの人、口ではこう言っているが実際はそうじゃないかもしれないので、気をつけなければならない。

 アリーシャのためならと、本気で命に代えて俺を守りそうだもんな。


「すぐに温泉街へ向かおう」

「それもそうだな」

「かしこまりました!」


 こうして俺たちは急ぎ温泉街へと転移した。


 転移した直後、俺の耳には魔の森で起きているだろう戦闘音が響き、続けて足元が揺れている感覚を覚えた。


「ちっ! すでに始まっていたか!」

「鑑定! 戦況の確認!」


 舌打ちをする新に続けて、俺はすぐに鑑定スキルを発動させる。


「……まだ戦線は高いみたいだ。だが、大量の魔獣の後方に、別の団体様が押し寄せてきている」

「魔人が迫ってきている、ということですな」

「はい。それも、一人じゃない。魔人も軍勢を率いてきているみたいです」

「マズいな。その軍勢の全てが、真広や近藤たちが戦った魔人と同等の力を持っていたなら、勝ち目はだいぶ薄くなってしまうぞ」


 新の懸念は当然だろう。

 だが、魔人とはいえその実力は様々あるようだ。


「魔人の軍勢だけど、俺とユリアが戦ったほどの魔人は三人くらいだ。だが、そいつより強い奴が今回の親玉らしい」

「親玉がいるのですか?」

「しかも、お前たちが戦った奴と同じ実力の魔人を三人も率いているのか」


 状況は芳しくない。

 だが、現状はディートリヒ様にも伝わっている。

 王都から援軍が来てくれれば、あるいは戦況を逆転することができるかもしれない。


「……もう一ヶ所、援軍をお願いしておくか」


 俺はそう呟くと、転移魔導陣の警備をしていた兵士に伝言を頼むことにした。


「彼をどちらへ?」

「強力な援軍の要請を言づけた」

「転移魔導陣でということは……なるほど、確かに来てくれたら強力な援軍になってくれそうだな」


 援軍のあてに気づいたのか、新はニヤリと笑い腰の剣を軽く撫でた。


「それまでは俺たちが主戦力だ。絶対に温泉街に魔獣を、魔人を向けさせちゃいけないぞ!」

「「おうっ!」」


 こうして俺たちは、円やユリアが戦っているだろう最前線へ駆け出したのだった。

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