第324話:魔王と魔人 14

「……おいおい、マジかよ」


 俺は鑑定結果を確認しながら呆れ声を漏らしてしまう。

 いや、呆れている場合ではない。急ぎ備えをしなければならないのだ。


「まずはアリーシャだな。その次にディートリヒ様に連絡を入れて、それから――」


 俺は廊下を歩きながらぶつぶつと呟き考えをまとめ、アリーシャの執務室のドアをノックする。


「桃李だけど、入っていいか?」

『――大丈夫ですよ』


 アリーシャの返事を待ってドアを開けると、そこにはライアンさんと新がすでにいた。


「あれ? 二人とも、どうしたんだ?」

「魔の森で異常な数の魔獣を確認しまして、その報告に来た次第です」

「近藤たちは魔獣狩りをしているが、まだまだかかりそうなほどに大量の魔獣なんだ」


 なるほど、すでにここにも影響が及んでいたのか。


「それで、トウリさんはどうしたのですか?」

「たぶん、ライアンさんたちの報告にも関係しているはずだ。魔王に関しての鑑定結果が出た」


 俺がそう言葉にすると、三人の視線がこちらに向いた。


「魔王の部下で側近らしい魔人が、軍隊を率いてこっちに来ているって、鑑定結果が出た」

「な、なんですと!?」

「それは本当か、真広!」

「あぁ。大量の魔獣も、もしかすると魔人の軍隊から逃げてきているだけかもしれない」


 ライアンさんと新は口を噤み、これからどうするべきかを考え始める。

 俺とユリアは魔人と戦ったことがあるものの、彼女が口にしたように魔人は強かった。

 サニーとフォスを入れた全員で戦ってようやく倒せたくらいの相手だ。

 そして、今回軍隊を率いて迫ってきているのは、魔王の側近の一人らしい。

 まず間違いなく、この間の魔人より強いはずだ。


「……やることは決まっています。私たちは温泉街を、グランザウォールを防衛します!」


 俺たちが黙って考え込んでいると、強い口調でグランザウォールの領主であるアリーシャがそう告げた。


「ライアンさんは兵士たちを率いて魔獣の相手をお願いします!」

「はっ!」

「トウリさんとアラタさんは私たちの最高戦力です。ですが……異世界人でもあります」

「……アリーシャ?」


 俺はてっきり側近の相手をしてほしいと頼んでくれると思っていたし、当然引き受けるつもりでいた。

 だがアリーシャは、俺たちが異世界人だと言及してきたのだ。


「……逃げてください、トウリさん、アラタさん」

「何を言っているんだよ、アリーシャ?」

「マドカさんとユリアさんを連れて、今すぐにここから逃げてください!」

「アリーシャ!」

「皆さんを巻き込むわけにはまいりません!」


 アリーシャは声を荒らげながら、鋭い視線を俺に向けてきた。


「……トウリさんとユリアさんが苦戦した相手ですよ? 今回はきっと、その相手よりも強いのですよね? だったら、逃げるべきです!」

「ふざけるなよ! アリーシャを置いて、みんなを置いて逃げられるわけがないだろう!」

「落ち着いてください、アリーシャ様!」

「真広も落ち着け!」


 俺とアリーシャは睨み合いながら声を荒らげ、それをライアンさんと新に止められてしまう。

 どうしてアリーシャは、逃げろなんて言うんだ。ここで逃げるくらいなら、もっと前の危ない場面で逃げていたっていうのに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る